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元ジャニーズJr.の橋田康「問題と向き合う、事務所の決断を応援したい」

ニューズウィーク日本版 2023年10月12日 11時45分

<被害者への補償開始、社名変更、新会社の設立などを発表したジャニーズ事務所に対し、被害を告白している橋田康がいま思うことは──>

1998年から約7年間、ジャニーズJr.(ジュニア)として活動した俳優・ダンサーの橋田康。彼は入所から約1年後にジャニー喜多川から性加害を受けたことを、今年5月に週刊文春で実名で告白した。

多くの被害者が名乗り出るなかジャニーズ事務所は9月、喜多川が数々の少年に起こした性加害を事実と認め、10月2日の会見では被害者への補償、社名変更、タレントのマネージメントなどを行う新会社の設立を発表。事務所の先行きなど不透明な部分は残るものの、事態は一つの区切りを迎えた。5月に本誌の取材に答えた橋田に、本誌・大橋希と小暮聡子があらためて話を聞いた(インタビューは、記者会見での「NGリスト」の存在が発覚する前に行われた)。

■前回記事:元ジャニーズJr.の橋田康が、「母校のよう」なジャニーズ事務所に伝えたいこと

◇ ◇ ◇

──前回は5月に話を聞かせてもらったが、この4カ月あまりを振り返ってどうか。

やっぱり一番大きいのはジャニーズという名前がなくなること。僕は「ジャニーズ」「ジャニーズ系」というのは(ジャニー喜多川氏というより)61年続いた会社、表現方法そのものを表す単語だと思っている。それがなくなるというのは、すごく複雑な気持ちではある。

「ジャニーズ事務所」として再出発してほしいと僕は思っていた。ただ、その名前がなくなっても仕方がないような、重大な問題だということは分かっている。残念だし寂しい気持ちもあるが、(ジャニーという名前を)徹底的に排除して、進んでいくという事務所の決断は応援したい。問題に向き合うことを決断したのだから、何を言われようとも頑張ってほしいですね。

 

僕が前回取材を受けたのはFCCJ(日本外国特派員協会)で記者会見を行う前で、身の危険を想像してしまうほど不安がいっぱいあった。あの頃は、顔出しで告白して誹謗中傷を受けるのは僕が最後でいいと思っていたが、事務所の対応が後手後手になったことで、被害者たちが誹謗中傷を受ける時間が増えてしまった。もっと早い段階で、今のような対応を決めてくれていたらそうなっていなかったかもしれない。(この4カ月は)いろんな人が苦しんだ時間だったなとは思う。

具体的な内容はまだ足りない部分もあるが、性加害を認めて謝罪して被害者を救済していく、会社もいずれ廃業するとなっている今、時代は動き始めた。僕は(ジャニーズ事務所と)今は敵対しているかもしれないが、より良い方向に向かっていくよう応援したい。

事務所が頑張れば頑張るほど、日本での性加害の抑止につながると思う。新会社で今後もジュニアたちを育てていくと決断している以上、厳しい目を向けられて当然。親御さんたちを安心させ、子供たちを徹底して守り、スターに育てていくことを頑張り、そのことを周知させなきゃいけない。それがいろいろな会社で当たり前になれば、日本のエンターテイメント界は子供たちの才能をきちんと守れる場所になると思う。

──身の危険を考えることもあった?

ありました。「お前、もう芸能界でやれないね」とか 「命危ないんじゃない?」といった連絡はいっぱい来ました。僕だけじゃなく、関心を持った人たちもいろいろな想像をしたと思うし、昔の芸能界だったら実際に(身の危険にかかわることが)あったかもしれない。ジャニーズ事務所はやっぱり巨大過ぎて、力を持ちすぎていて、そういう噂が独り歩きしてしまうのは仕方ないことかなと思う。

──記者会見で東山紀之さんや井ノ原快彦さんは、「SNSなどで被害に遭われた方々への誹謗中傷はやめてください」と繰り返している。橋田さんも傷付いたと思うが、心の部分は大丈夫だったか。

大丈夫じゃないですよ。X(旧ツイッター)やインスタなどで、誹謗中傷は今でも来る。ジャニーズを擁護しているとか、被害者のわがままだとか、いろんなことを言われる。ジャニーズを応援したい人たち、ジャニーズを潰したい人たち、性暴力の被害者の人たち、社会をよくしたいと思っている人たちも含めて、いろんな方向から誹謗中傷が来るんです。

 

それはほかの被害者の方々にも来ているだろうし、事務所にいるタレントさんたちへの誹謗中傷もまだまだあると思う。本当にさまざまな意見があるだろうが、繊細な問題であるし、誰かを傷付けないように配慮してほしい。

──9月半ばに設けられた被害者救済委員会の窓口には478人の申し出があり、うち325人が補償を求めている。この被害者の数には驚いた?

驚きました。先日の記者会見で、11月から補償をスタートすると発表されたが、補償受付窓口の申し込みフォームはそれ以前にできた。今の時点では、安全もプライバシーの守られ方も分からない、「ここに書き込んで本当に大丈夫?」という状態だが、それでも既に478 人が申し出ている。

「対応してもらい、救われました。これで前を向いて生きていけます」という人が1人、2人出てきて状況が整えば、「俺は心に留めておきたかったが、少しでも救われるなら」と、被害申告する人は必ず出てくる。そこで数はぐっと増えるだろう。今の人数がこれだったら、何千人になるんだろうと思う。

──受付フォームではいろいろな個人情報を書かなければならない。その情報が誰に渡るのか、事務所の誰が見るのか分からないのはかなりのプレッシャーではないか。

ある程度の個人情報は必要だが、それがどういう経路で誰が見て、どう守られるという具体的な部分が、記者会見では全く説明されなかった。「心のケア相談窓口」の対応もずさんだと報道されていたが、それと何が違うのか分からないので僕もまだ入力していない。

これで救済に当たっていくのであれば、例えば僕が実験台になるなど、「対応はこうでした、ああでした」と具体的に言える人間がいないと、安心に繋がらないと思っている。

「この問題に関しては、未来を変えていくためにどうするかが一番重要」と語る橋田

──橋田さん自身も5月末、被害者に向けた連絡窓口を設定した。そこに相談した被害者(木村伸一さん)の情報を事務所につないでいない、という報道もあったが。

僕に連絡をくれた被害者の方たちの個人情報がほかに漏れないように、しっかりとジャニーズ事務所本体に届けなくてはいけない。それには安全性と、個人情報がどういう経路で回っていくのかをしっかり確認できて、本人の承諾を得てからではないと無理だと思っている。

記事にあったように、4カ月放置なんかしていない。(自身の)記者会見などもあって1カ月くらいは連絡が止まっていたが、その後も木村さんとは連絡を取っている。後ろめたいことは何もない。

 

もしスピード感など納得できないのであれば事務所と直接やり取りしてもらったほうがいいかもしれない。ただ、僕にお願いしてくれた人たちのことはとにかく守りたい。彼らが傷つかないで、不安にならないで、プライバシーを守られた上で事務所につながるようにしたい。

──5月に藤島ジュリー景子さん(当時は社長)と面会した。その時の印象では、性加害について本当に知らなかったと思うか。

噂程度では知っていて、それは「私の中では『知っていた』という線は超えてない」という感じだった。ジュリーさんは役員だったので別かもしれないが、タレントに関してはそこを言及し続けてもしょうがないのかなと思う。

東山さん、井ノ原さんも「見て見ぬふりをしていた」と公言している。でも、どこまで知っていたか、どういう被害があったのかということは、1人1人のプライバシーにかかわるもの。僕は「言う」と決めたから言っているけど、「言う」と決めていない人にまで強要することはおかしい。その人たちは守られるべきだから。

でも、止められなかったということで考えれば、加害者になるかもしれない。それは僕も一緒。13歳で被害を受けて、18、19歳まで事務所にいた。その間に助けられた人は必ずいたのに助けられなかった。そう言ってしまったら、いま声を上げている被害者もみんな加害者。そこを詰めていってもしょうがない。

ジュリーさんが、ジャニーさんや(藤島)メリーさんと距離を取っていたのは確かなんです。僕もジュリーさんには事務所で一度くらい挨拶したことはあったけど、7年、8年の中でもほとんど会ったことがない。

──現役のタレントたちもみんな噂ぐらいは知っていたと思うが、この問題について発言する人と発言しない人がいる。

自然なことだと思う。やっぱり夢を売る人たちだし、ファンを守らなきゃいけないから。もしも「性被害を受けたけど、受けてないことにする」と本人が決めたなら、それが正解なんだと思う。この問題の闇はあまりにも深すぎる。

僕はもうアイドルじゃない。ジャニーズ事務所にいたことに誇りは持って、感謝もしているけど、そこを売りにしているわけじゃない。だから顔を出して名前を出して言う、という行動を取れた。この問題に関しては、未来を変えていくためにどうするかが一番重要で、被害を受けたか、受けなかったか、自分のことにどこまで言及するのかは本人たちの自由。本人たちが決めて、それを周りが尊重してあげるべきだと思う。

──東山新社長は黙認していた側だ、と追及する声もある。

あくまで僕の中では東山さんはトップアイドルで、夢を売るタレント。ただ今後、この罪に向き合う場に就いただけ。事務所が事実と認めて謝っている以上、知ってた、知らなかったという部分は彼のプライバシーであり、彼の家族も含めて傷付かなくてはいけないような状況に追い込む必要性はどこにもないと思う。

──「ジャニーズ性加害問題当事者の会」と一緒に行動していない理由はあるのか。

僕は中流階級以上の生活を補償で求めていないし、売上の3%を欲しいとも思っていない。この点でまず、当事者の会の人たちと僕の考えは同じではないです。

僕は僕の思う発言をして、それに対して多方面から誹謗中傷が来る。それは僕だけで受け止めるべき。僕のありのままの考えを出したせいで、誰かが傷付くのは嫌だった。だから当事者の会と行動を共にすると、自分の発言ができないと思ったんです。

 

──橋田さんらが求めていた児童虐待防止法の改正は、先の国会では見送りとなった。次の機会を待っている?

気持ちは残っています。ただ、僕は政治にあまり詳しくないし、どの党とのつながりも知識もない。だからできれば超党派で、少しでも多くの人が納得できるような形で子供たちが守られる法律を作れたらいいなと思っている。

今回のことは「外圧」でしか変わらなかった。BBCの番組から始まって、FCCJでの会見、国連の調査と、その都度で人々の関心が高まって、閉鎖的だったジャニーズ事務所を動かした。それは日本全体を投影している。外国で発表があったり、外国から恥ずかしいと言われたりしてやっと「やばい、やばい」ってなる。そういうのはもう止めましょうって思う。

政治の世界の人たちもこの問題に全く無関係だったかと言えば、そんなことはないはず。経済面でもエンターテインメント業界の存在は大きいので、国としてもこの問題に向き合ってほしい。外圧を受けて......というのを繰り返さないよう、今のタイミングで法律面でも動いてくれたら。

──組織ぐるみの問題が起きた時、被害者が求めることの一つに「何があったのか明らかにしてほしい」というのがあると思う。今はまだ誰が関わっていて、何があったのか完全には分かっていない。そこを解明すべきとは思わないか。

再発防止特別チームが提言した内容も、ある程度は解明につながっている。僕が注力したいのはこういうことが二度と起きない環境を作ること。そのために必要なのが解明だとしたら並行してやっていかなくてはいけないが、そこで停滞していてもしょうがない。僕が生きている間に何かが変わったところを見たいです。

もっと掘り下げればいろいろなことが分かってくると思う。ただ、何が隠蔽につながっていたか、何が報道されなかったことにつながっていたかは明白なので、そこに誰が関わったかは細かい肉付けに過ぎない。改善するために必要な材料はいっぱい揃っている。

──「ジャニーさんのことは今でも大好き」と言っていたが、それは変わらない?

変わらない。そこはぶれないです。彼の人間性やカリスマ性、エンターテイメントへの思いは尊敬しているし、性加害の問題を抜けば、彼のことは今でも好きだし、感謝している。ただ本当にあってはならないことを起こして、これだけの人たちが今も苦しんでいる。今後、同じことが繰り返されないようにジャニーズ問題、ジャニーズ事件の教訓がちゃんと引き継がれていくことを願います。



大橋 希(本誌記者)

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