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ミャンマー軍政、難民収容施設を攻撃 13人の子供含む29人が死亡

ニューズウィーク日本版 2023年10月11日 21時45分

<コンサート会場の爆撃から1年、惨劇は繰り返された>

2021年2月1日にアウン・サン・スー・チーら政権幹部らの身柄を拘束して軍事政権が成立。それ以降、ミン・アウン・フライン国軍司令官による強権武力政治が続くミャンマーでは、軍政が民主的な総選挙を約束したものの、戒厳令の延長に次ぐ延長で2024年の実施も危ぶまれている。

国軍と武装市民組織「民防衛軍(PDF)」や国境付近に展開する少数民族武装勢力との戦闘激化による治安悪化により、国内は実質的な内戦状態に陥っている。

そんな状況にあるなか、ミャンマー北東部カチン州のムングライ・キエットにある国内難民用キャンプが10月9日午後11時半ごろ、砲撃を受けた。

民主政府を組織して軍事政権への抵抗を続ける「国民統一政府(NUG)」はこの攻撃で子供13人を含む29人の難民が死亡、57人が負傷したことを明らかにした。子供の中には1歳半の幼児も含まれていたとしている。

難民キャンプへの攻撃は重砲による砲撃に加え爆撃機による空爆も行われたという。

この難民キャンプは中国との国境に面した場所にあり、カチン州内外から戦火を逃れるために女性や子供、高齢者が多数押し寄せていた。

突然攻撃で多くの住民が瓦礫の下敷きに

独立系メディア「イラワジ」が伝えたところによると9日深夜の攻撃は168家族が避難生活を送るムングライ・キエット村にある難民キャンプをたちまち大混乱に陥れた。すでに就寝していた多くの難民は攻撃から逃れる術もなく、破壊された住居の瓦礫の下敷きとなったという。

ほぼ全滅状態となった難民キャンプでは瓦礫撤去の作業が続けられており、死傷者数が今後増えることも予想されている。

生存者は付近の村などに避難しているが、難民キャンプが全滅状態になったため、「戦火を逃れて故郷から難民キャンプに来たのにこれで帰る所がなくなった」と悲嘆にくれているという。

NUGが戦争犯罪だと軍政を非難

ミャンマー軍政は「中国との国境に近い難民キャンプへ攻撃は実施していない」と攻撃を否定している。

難民キャンプがある地域はカチン州で軍政に抵抗する少数民族武装勢力である「カチン独立軍(KIA)」が支配しているが、KIAの拠点は難民キャンプから約5キロの位置にあり、難民キャンプは軍政が攻撃目標としている軍事拠点ではない。

今回の爆撃では多くの住居施設が破壊され、キャンプ内の幼稚園、学校や寺院、養鶏場などが破壊されたという。

今回の難民キャンプへの攻撃について抵抗勢力のNUGは「軍政による今回の攻撃は非人道的で人道に対する罪であると同時に戦争犯罪であり、強く非難する。NUGはカチンの人々を強く支持するとともに多数の人命が失われたことの悼みを共有する」としたうえで「国連決議に従いNUGは国際社会に向け、人道に対する罪を犯したテロリストである軍政へ適切かつ強力な行動をとるとともに、これ以上の軍政による残虐行為を防止するためにミャンマー国民と協力することを強く求める」との声明を明らかにしている。

1年前にはコンサート会場の爆撃も

ちょうど1年前にミャンマー軍はカチン州カパント村で2022年10月23日に行われていた少数民族武装勢力「カチン独立機構(KIO)」が主催するコンサート会場を爆撃。カチン族の歌手を含め会場にいた聴衆、KIO幹部など80人が死亡し、100人以上が負傷した。

この時は戦闘機3機による空からの爆撃だったが、軍政は攻撃を否定して責任をKIOに押し付けたのだった。

この攻撃での死者80人はクーデター以来、民間人をターゲットにした作戦で最大の犠牲者を出したといわれている。

ミャンマーの人権状況を監視している「政治犯支援協会(AAPP)」によると10月10日現在、クーデター以降ミャンマー軍政によってこれまでに殺害された市民は4144人、身柄を拘束された市民は25274人に達し、このうち19677人が現在も拘束中ないし有罪判決を受けて服役中としている。

ミャンマーでは治安維持が確保できない軍政が焦りのためか、各地の戦闘で一般住民や武装市民組織メンバーに対する残虐な犯罪行為が相次いでいるとの報告がある。

一方では、長引く内戦状態や同じ国民に銃を向けることに嫌気がさして軍や警察を離脱する兵士、警察官も増加しているという。

人権団体やNUGなどによるとクーデター以来軍を離脱した兵士は約1万5000人にも及び、軍の各部隊では定員割れが深刻で、公務員に対して軍に参加するよう軍政は呼びかけているという。

これに対しNUG側は報奨金を提示して軍兵士に離脱や武装市民組織への寝返りを求めている。

こうした現状が軍による空爆や砲撃といった兵士の消耗が低い作戦を多用することにつながっているとの見方も出ている。

[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

砲撃された難民キャンプの惨状

ミャンマー北東部カチン州のムングライ・キエットにある国内難民用キャンプが10月9日午後11時半ごろ、砲撃を受けた。

 Reuters / YouTube

大塚智彦

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