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TikTokの「ゴミの女王」はポジティブニュースで終末論を吹き飛ばす

ニューズウィーク日本版 2023年10月16日 14時0分

<楽観論を垂れ流すなと批判されることもある。活動は地道だが「気候変動絡みのニヒリズムと偽情報」を論破して希望をもたらそうとしている>

新聞やソーシャルメディアを見れば、気候変動が深刻なのは分かる。時には、明日にも世界が滅びてしまいそうなほど深刻に思える。

サステナビリティー学の研究者のアレイナ・ウッドもそれは分かっている。同時に、陰気な報道や投稿ばかり見ていると意気消沈し、地球を救う気力がうせるのも知っている。

【動画】ビキニ姿で海水浴を楽しみながらポジティブニュースを紹介するアレイナ

そんな流れを変えようとウッドは立ち上がった。TikTok(ティックトック)でポジティブなニュースを地道に紹介し、「気候変動絡みのニヒリズムと偽情報」を論破して希望をもたらそうとしている。

「@thegarbagequeen(ゴミの女王)」のユーザー名で最新研究や気候変動との戦いにおける前進を伝え、その裏にある科学を平易な言葉で解説する。フォロワーは38万人を超え、まだまだ増加中だ。

週に1度は直近の朗報をまとめて報告する。「エジプトがアフリカ大陸最大の風力発電所を建設」「太陽光の98%を反射する新開発の白色塗料には、都会を冷やす効果が期待される」などのニュースだ。事態の深刻さをごまかすことはない。気候変動との戦いを諦めたら決して勝てない戦争と捉え、「手遅れだと言われても信じないで」と、視聴者を鼓舞する。

視聴者の不安の軽減にも心を砕き、自分の不安も打ち明ける。気候変動のニュースやSNSを定期的に中断して一息入れるよう勧めるが、これはウッド自身が実践しているセルフケアだという。最近も「全てを投げ出したくなるほど、怒りや不安にのまれないで」と語りかけた。「マジで、諦めちゃ駄目」

テネシー州のアパラチア山脈で先祖代々、炭鉱で働く家に生まれたウッドは、環境災害が地域社会を荒廃させる様子を間近で見た。2008年にはキングストン石炭火力発電所から10億ガロンの石炭灰が流出。近隣の家屋を破壊し川を汚染し、清掃に従事した労働者は後に癌を発症した。

テネシー大学でサステナビリティー学と地理学を専攻した大学時代は極端に走った。「ゴミが出るのが不安で、友達に誘われても遊びに行けなかった」と、ウッドは語る。食事は完全菜食、1週間に出すゴミは小さな瓶1個分と決め、雷雨でも自転車で移動。そしてエコ不安を患った。これはアメリカ心理学会が「環境危機への慢性的恐怖心」と定義する精神状態だ。

エコ不安の流行に気付いたのは、コロナ禍のなかTikTokを見ていたときだった。タイムラインでは環境破壊のすさまじさを訴える動画が不安をあおり、若者が自殺願望を口にした。エコ不安でカウンセラーにかかった経験を持つウッドは、恐怖心が健康を損なうだけでなく環境活動に響くことを知っていた。

科学的でない動画の多さに注目した彼女は、終末論者に反論しようと21年に動画を投稿。国際社会が協力すれば、温暖化の最悪の影響は回避できるとする専門家の声を紹介した。

証明しろという抗議に答える形で再び動画を作り、今度は甚大な気候変動を軽減するのはまだ不可能ではないとした22年の国連報告書を引用した。この動画が拡散し、ウッドは本格的に活動を開始した。楽観論を垂れ流すなと批判されることもあるが、そんなときは「投稿は全て科学に基づいている」と言い返す。

ずばり「地球を救う」を目標に環境教育者の団体、エコトックも共同設立した。「戦っているのは私1人じゃないと常に自分に言い聞かせている」と、彼女は言う。「諦めるわけにはいかないから」

@thegarbagequeen Good Climate News #GoodClimateNews #ClimateChange #ClimateCrisis #ClimateAction #ClimateSolutions original sound - Alaina Wood



メーガン・ガン(本誌記者)

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