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米海軍に戦略見直しを迫る中国の096型巨大ステルス原潜の怖さ

ニューズウィーク日本版 2023年10月12日 21時36分

<静かに深く潜行し、射程1万キロ超の核ミサイルを水中発射できる中国の次世代型原潜が太平洋のパワーバランスを揺さぶる>

中国は核ミサイルを水中発射できる次世代型の原子力潜水艦の建造計画を強力に進めており、アメリカをはじめ西側の軍事大国は太平洋における海軍戦略の見直しを迫られると、専門家は警告する。

<動画>中国が建造中の最新鋭096型原艦のすべて

中国海軍が開発を進めている096型の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)は今も機密のベールに包まれている。だが入手できたわずかの情報を見る限り、これまでの中国の原潜と違って静かに潜行できるため西側のレーダーに探知されにくく、中国軍の水中発射による核攻撃能力を格段に高める性能を持つと、英シンクタンク・戦略地政学評議会の准フェロー、エマ・ソールズベリーは本誌に語った。

「096型の導入で、中国軍が保有する潜水艦が増えるだけではない。ステルス性も高まり、より広い範囲を射程に収める可能性がある。これらのいずれを取っても、米海軍は哨戒能力や配備の練り直しを迫られる」

米海軍大学付属の中国海事研究所は今年8月半ば、第三世代の096型原潜は「アメリカの水中防衛に甚大な影響を与える」との調査結果を発表した。

最新鋭のJL3ミサイルを搭載

米政府の過去の評価によれば、中国海軍は現在、晋級の094型原潜6隻を運用しているが、2030年までに096型2隻を就役させる予定で、最大8隻のSSBNを運用できるようになる。096型の導入により、中国の水中発射の核抑止力は大幅に高まると、ソールズベリーはみる。

094型も096型も「搭載するのは同じ巨浪(JL)3ミサイルだが、096型は094型よりはるかにスクリュー音が静かで、ステルス性が高い」と、ソールズベリーは言う。JL 3は、第三世代の潜水艦発射弾道ミサイルで推定射程は1万キロを超える。報道によれば、中国は既に094型の一部にJL 3の搭載し始めているようだ。

つまり、西側の海軍は、神出鬼没の新型艦を含め、これまでより多くの中国の原潜の動きに目を光らせる必要がある、ということだ。

「より多くのSSBNが、よりステルス性を高めて、偵察活動を始めれば、アメリカはこの海域に割り当てる軍事資産の見直しと配備増強を迫られる」と、ソールズベリーは言う。追尾されにくい新型艦を手に入れた中国海軍は、「彼らが南シナ海における『要塞』と見なす水域」の外側にまで活動範囲を広げかねないが、「JL 3は射程が十分に長いのでその必要はないし、最新鋭の原潜は自国の沿岸域に温存しておきたいだろうから、おそらくそこまでリスクを冒そうとはしないと思われるが......」。

 

米海軍は太平洋における攻撃型原潜(SSN)や哨戒機、水中センサー、艦船の配備を増強するとみられる。米英豪3国の防衛協力の枠組みであるAUKUS(オークス)に基づき、英軍とオーストラリア軍も「こうした能力を増強するだろう」。だが、この海域における水中防衛では、米軍が中心的な役割を担うはずだと、ソールズベリーはみる。

中国が核軍事力を拡大しているため、アメリカは史上初めて、1つではなく、2つの「核攻撃力が拮抗する敵対国」、つまりロシアに加えて、中国とも対峙しなければならなくなると、英シンクタンク・国際戦略研究所(IISS)のティモシー・ライトは今年4月、ロイターに語った。

「そのためアメリカは防衛ラインを延長せざるを得ず、より多くの味方標的を危険にさらすことになり、通常及び核戦力の拡大も検討せざるを得なくなる」

これについて本誌は米海軍にメールでコメントを求めている。

米シンクタンク・戦略国際問題研究所によれば、中国は陸、海、空からの核兵器発射能力を高める「より広範な計画を推進」しており、096型開発への投資はその一環だ。

ロシアの原潜に勝る性能

096型が米海軍のオハイオ級や英海軍のバンガード級など西側の現世代の原潜に近いものか、あるいは米軍のコロンビア級や英軍のドレッドノート級のような建造中の原潜に近いかは、専門家にも分からないと、ソールズベリーは言う。096型のスペックについては、中国海軍は「当然ながら公開を渋って」いて、ほとんど明らかにされていないからだ。

今年に入って米議会に提出された報告書によると、米海軍は老朽化した14隻のオハイオ級原潜の後継艦としてコロンビア級の建造計画を「最優先」している。2027年にオハイオ級の退役が始まり、2031年にはコロンビア級の1番艦が就役する予定だ。

英海軍史上「最大かつ最強、技術的に最も進んだ潜水艦」とうたわれるドレッドノート級原潜は2030年代初めに就航を予定されている。

米海軍大学の中国海事研究所によれば、096型は全長150メートル、最高速度は29ノット、言い換えれば時速29海里(約54キロ)とみられる。

先行艦の094型に「著しい改良」が加えられた096型は、ロシア海軍のボレイ級やアクラ1攻撃型原潜よりも「優れている」と、同研究所は評価している。

 

<動画>中国が建造中の最新鋭096型原艦のすべて

 

<動画>米オハイオ級原潜、乗員のリアルライフ

 



エリー・クック

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