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「葬儀屋は女性の仕事ではない」?...閉ざされた業界の扉をこじ開けて就いた「葬儀ディレクター」という天職とは

ニューズウィーク日本版 2023年10月16日 11時35分

<「女性には相応しくない」と言われ続け、突然解雇されたことも...。亡くなった人と悲しみに暮れる遺族に寄り添い続ける、この素晴らしく尊い仕事について>

イギリスで育った私は、物心ついてから葬儀屋になるのが夢だった。母によれば9歳くらいのときに「大きくなったら葬儀屋になる!」と言っていたという。

幼い頃から人の悲しみをすぐに感じ取ることができた。他人の感情を常に自分のものとして受け取っていたから、葬儀屋になれば悲しんでいる人々の役に立てると直感的に分かっていたのかもしれない。

学校のキャリアアドバイザーには、葬儀屋は宇宙飛行士になるのと同じくらい難しいと言われた。当時はどちらも男性の仕事と思われていたためだ。15歳になると、母が地元の葬儀会社に、1日だけ私に職業体験をさせてくれるよう頼んだ。諦めさせるためだ。

ところが、私は葬儀会社の仕事にすっかり魅了された。職員に次々と質問を浴びせたから、彼らは本当に疲れただろう。男性職員の1人に「なぜこの業界には女性がいないのですか」と尋ねると、私を見つめて言った。

「この仕事は、静かにしていなければならないことが多いからだよ」

職業体験の1日を終えて母が迎えに来たとき、「とても楽しかった!」と言うと、彼女は「失敗した......」という表情をした。それでも母は引き続き地元の葬儀会社を当たって、私を無給で働かせてほしいと頼んでくれた。しかしどこに行っても、葬儀屋は若い女の子にふさわしい場所ではないと断られた。

ようやく見つかったのが、遺体安置所の仕事だった。平日は朝8時から午後5時まで、土曜日は夜から翌朝4時まで、わずかだが有給で働いた。訓練を終えて18歳のとき、私は葬儀ディレクターとエンバーマー(遺体衛生保全士)に、イギリス女性最年少でなることができた。

しかしその2年後、突然解雇された。理由は不明だ。

すぐに次の仕事を探し始めた。募集側に性別が分からないよう、応募書類に「L・チャン」とだけ書いたこともある。しかし面接に行くと「申し訳ないが、時間の無駄です。女性を雇ったら、うちはすぐに倒産してしまう」と断られた。

みんな誰かの大切な人

葬儀屋は女性の仕事ではない──何度もそう言われて、ついに私は自分で葬儀屋を立ち上げることにした。私にとって大きな学びとなったのは、職業訓練中に親友が急逝したことだった。彼女の死を経験して、亡くなった人の遺体を大切に扱おうと誓った。

亡くなった人は声を上げることも、誰かに守ってもらうこともできない。亡き人への敬意と、その人は誰かにとって大切な人だという思いを持つことはとても重要だ。

人の死を扱う上で大事なのは、常に自分の感情に正直であること。そしていいニュースを家族や友人と共有したいと考えるのと同じように、悲しみや悩みも誰かと共有することが大切だと思う。

死は人生の大きな一部だ。しかし人は時として人生の長さばかりに目を向けて、「厚み」を見過ごしてしまう。

人は死そのものを恐れているわけではないと、私は思う。何かをやり残したまま生涯を終えることを恐れているのではないか。

争い事であれ、気持ちにけりがついていない問題であれ、自分が恐れているものの正体を解明して、チャンスがあるうちに解決することだ。それができれば、人生の一部として死を穏やかに受け入れることができるだろう。

グリーフ専門家リアナ・チャンのSNS

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