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100冊のノウハウを1冊に...ビジネス書のベストセラー「100冊シリーズ」はなぜこれほど支持されるのか?

ニューズウィーク日本版 2023年10月25日 12時14分

<特定のテーマに関する100冊のベストセラー本のエッセンスをまとめて学ぶことができる「100冊シリーズ」の作り手にインタビュー>

いま、一般読者はもちろんのこと、出版業界からもとりわけ注目されているビジネス書シリーズといえば「100冊シリーズ」(日経BP)が挙げられるでしょう。

既に4冊が出版されており、そのラインナップは文章術、話し方、勉強法、そして2023年8月に発売された『「お金の増やし方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』です。

特定のテーマのベストセラー100冊を読み込み、それらに共通するノウハウを洗い出した上で、掲載冊数の多かった項目をランキング形式で紹介するという、ユニークなこのシリーズ。

この企画はどのように誕生したのか。テーマはどのように決めているのか。100冊の本を読み、そのエッセンスをまとめるのにどのくらいの時間がかかるのか――。本シリーズ著者の藤吉豊さんと小川真理子さんに、制作の舞台裏をうかがいました。
※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です。

◇ ◇ ◇

「100冊シリーズ」誕生のきっかけ

──本シリーズはどのようなきっかけで執筆することになったのでしょうか。

藤吉豊さん(以下、藤吉) 「文章の書き方講座に使えるテキストがほしい」と考えたことが、『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』誕生のきっかけです。

私と小川はずいぶん前から一緒に編集・ライティングの仕事をしており、2018年には、「文章の書き方や書く楽しさを伝えたい」という想いから、2人で株式会社文道を立ち上げました。

2人ともキャリアは数十年になりますが、書き方の研修を受けた経験があるわけではなく、いわば独学のようなものです。ですから、「文章の書き方を伝えたい」と考えたときに、「自分の書き方は本当に正しいのかな」という気持ちが出てきました。そこで、書くノウハウをあらためて学ぶべく、文章術の本を読んだり、書き方セミナーに行ってみたりするようになったんです。

小川真理子さん(以下、小川) これまで長らく編集・ライティングの仕事をして、自分なりの書き方を確立しているものの、ノウハウの再現性や一般性にはやや不安がありました。もしかしたら、文章の書き方講座を開講しても、受講生の方から「それはキャリアの長い藤吉さんや小川さんだからできることですよね?」と言われてしまうかもしれない、と考えたんです。

藤吉 文章術の本をたくさん読んだり、書き方セミナーに参加したりした後、学んだノウハウについて小川と語り合う機会がありました。そこで話題にのぼったのが「どの本やセミナーにも共通しているノウハウがありますね」ということです。

小川真理子氏

小川 その気づきをきっかけに、共通するノウハウをまとめて、セミナーのテキストとして使える本をつくれないかと考えるようになりました。日経BPの編集者、宮本さんに相談したのはそのタイミングです。

藤吉 宮本さんと話をしていく中で、小川が「せっかくなら、100冊分くらいの内容をまとめるといいかも」と言いましたよね。

小川 そうでしたね。宮本さんからは「文章術の本にはプロ向けのものが多く、一般の方には難しく見えるかもしれません。100冊からノウハウを抽出して1冊にまとめるのはおもしろそうです」とお返事をいただき、どんどん企画が進んでいった記憶があります。

『「お金の増やし方のベストセラー100冊」のポイントを
 1冊にまとめてみた。』
 著者:藤吉豊、小川真理子
 出版社:日経BP
 要約を読む
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お互いの原稿を読む瞬間が一番楽しい

──「100冊シリーズ」は、100冊の本を読んでエッセンスを抽出し、その内容をランキング形式で1冊にまとめる企画です。100冊すべてを読むだけでも大変そうですが、制作期間はどのくらいでしょうか。

藤吉 1冊目の「文章術」は特に時間がかかりまして、企画段階も含めると2~3年でしょうか。

小川 早い本だと半年から1年で完成することもありますから、「文章術」はかなり長いほうですよね。宮本さんは「一般的に本の制作期間が長くなるのは、筆が進まなかったり執筆の時間が取りにくかったりするケースです。ただ今回の企画はそのどちらでもなく、単純に作業量が多くて大変なんですよね」とおっしゃっていました。

『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』
 著者:藤吉豊、小川真理子
 出版社:日経BP
 要約を読む
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藤吉 文章術、話し方、勉強法、お金の増やし方とこれまで4冊出版させていただいて、平均すると1冊あたり1年弱かけて制作していると思います。

小川 内訳をお話しすると、本を選ぶのに2~3カ月、読むのに2~3カ月。ノウハウの抽出に2カ月ほど。そこから2~3カ月かけて原稿を執筆し、出来上がった原稿をブラッシュアップするのに2~3カ月かけているイメージです。

──特に大変なのはどのパートですか。

藤吉 ノウハウを抽出した後、掲載冊数の多かった順にランキングをつけていく作業がいちばん気を遣いますね。ここで手を抜くと正確性がなくなってしまいますから、細心の注意を払います。

特に大変だった本は、このたび上梓した『「お金の増やし方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』です。一口に「お金の増やし方」といっても、税金、節約、投資......とジャンルが幅広いですし、重複もある。こうしたことを考慮しつつまとめていくのは非常に大変でした。

藤吉豊氏

小川 ランキングづけはどのテーマでも迷いますね。宮本さんにもアドバイスをいただきながら作業しています。

──逆にもっとも楽しいパートはどこですか。

小川 本を読むところでしょうか。やっぱり本が好きですし、自分の知識になっていく実感がありますから。それに、ランキングがパシッと決まった瞬間も楽しいですし......何より、藤吉と宮本さんとのチームでプロジェクトに取り組むこと自体がとても楽しいです。

藤吉 ライターなので、原稿執筆も楽しいのですが、いちばんは小川の原稿を読む瞬間かもしれません。1位から7位までは藤吉、8位から20位までは小川......というふうに担当を割り振って原稿を書いたあと、それぞれの原稿を交換してチェックするんです。事前に小川の担当パートを見て「ここは難しそうだ」と思うことがありますが、小川はどんなに難しい箇所もうまくまとめてきますね。

小川 私も同じです。「藤吉はこんなふうにまとめたんだ」「なるほど、こうすればいいのか」と勉強になります。

藤吉 そういう意味では、自分が書いた原稿に対する小川からのフィードバックを見る瞬間が一番ドキドキするかもしれません(笑)。

小川 お互いに手加減なしですからね(笑)。

「健康法」や「ChatGPT」はテーマにならない?

──文章術、話し方、勉強法、お金の増やし方と、毎回「これが知りたかった!」と思うテーマばかりです。どのように決めているんですか。

小川 宮本さんが提案してくださっていて、特に重視しているポイントは「需要の大きいテーマであること」と「ロングセラーから新刊まで、バランスよく100冊以上のベストセラーが刊行されていること」です。また、健康法のように、万人にとっての正解を見つけにくいものは避けています。

藤吉 実は1冊目を出版する前から「シリーズ展開していきましょう」と決まっていたわけではなくて、「文章術」が多くの方に読んでもらえたので、2冊目以降につながったんです。2冊目の「話し方」は、1冊目の「文章術」の中に “話し方” や “伝え方” に通ずるノウハウが多く含まれていたこともあり、自然とテーマが決まりました。

小川 そうでしたね。3冊目に「勉強法」をご提案いただいたのは、リスキリングが注目されていたタイミングでした。

制作に1年弱かかることを考慮すると、息の長いテーマでなければなりません。たとえばChatGPTは「100冊シリーズ」のテーマにはなりにくそうです。これも重要なポイントですよね。

100冊のベストセラーのうち、特におすすめの本は?

──新刊『「お金の増やし方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』の制作にあたって読まれた100冊のうち、特に印象に残ったものを教えてください。

小川 私からは3冊挙げたいと思います。1冊目は『定額制夫のこづかい万歳 月額2万千円の金欠ライフ 1~5』(講談社)です。節約術をテーマにしたマンガなんですが、節約を楽しんでいる感じがいいですね。本書を読んでから、「今日のお買いものは●●円以内にしよう」などと、予算を決めてやりくりする習慣がつきました。私の行動を変えてくれた一冊です。

『定額制夫のこづかい万歳 月額2万千円の金欠ライフ』
 著者:吉本浩二
 出版社:講談社
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小川 次は『お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか 「自然に貯まる人」がやっている50の行動』(日本経済新聞出版)です。こちらも行動を変えてくれる本で、しかも誰でも実践しやすい内容なのがいいですね。本に付箋がたくさんつきました。

『お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか』
 著者:黒田尚子
 出版社:日本経済新聞出版
 要約を読む
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小川 最後は勝間和代さんの『お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践』(光文社)です。「金融は非常に公正な市場で、勉強すればした人にリターンが必ず返るしくみになっています。(略)金融の知識をうまく味方につけ、その知識を応用していくことで自分の資産を上手に運用することが可能になります」という言葉に勇気づけられました。「今からでも遅くない」と背中を押してくれる本だと思います。

『お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践』
 著者:勝間和代
 出版社:光文社
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藤吉 僕は2冊挙げます。まず藤野英人さんの『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社)です。以前、藤野さんと本の制作をご一緒したことがありまして、藤野さんのお金に関する考え方や、ひふみ投信にかける想いに深く共感しました。藤野さんのように「投資は、自分が経済的に豊かになるということだけではなく、社会を豊かにすることである」というマインドをもって行動するかどうかで、投資の結果や行動は大きく変わってくるのではないでしょうか。

『投資家が「お金」よりも大切にしていること』
 著者:藤野英人
 出版社:星海社
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藤吉 もう一冊は『大富豪アニキの教え』(ダイヤモンド社)です。こちらは編集協力を担当した本で、著者である大富豪アニキの住んでいるバリ島に何度も通い、朝から晩まで一緒に生活して得た学びをまとめました。大富豪の生き方や仕事観、あり方がよくわかる一冊になっていて、特に「自分本位ではなくて、相手に何ができるかを常に考えなさい」という教えが印象的ですね。「どの本を100冊に選ぶか」はデータから決めているので、僕が担当した本が選ばれてうれしかったです。

『大富豪アニキの教え』
 著者:兄貴(丸尾孝俊)
 出版社:ダイヤモンド社
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「100冊シリーズ」を学びの入り口にしてほしい

──「100冊シリーズ」はどんな方に読んでほしいですか。

藤吉 広くいろいろな人に読んでほしいです。というのも、「100冊シリーズ」で取り上げているテーマはどれも、生きていく上でのベースになるものだと思うからです。文章術、話し方、勉強法、お金の増やし方の知識を土台として、その上に各人が伸ばしたい知識をつけていくイメージですね。

土台となる知識を持っているかどうかで、その後につける知識の使い方はずいぶん変わってくるでしょう。特にChatGPTなどといった新しいテクノロジーを学ぶ前に、ベーシックなノウハウを身につけるのはとてもいいことかなと思います。

小川 それぞれのテーマの基礎がまとまっていますから、文章術や話し方、勉強法、お金の増やし方を学びたいときの “入り口” のような一冊になればいいなと思います。本書には100冊ベストセラーからの引用もありますし、100冊のリストも載せているので、気に入った本を手に取ってみるのもいいでしょう。忙しい現代人にとって、そのテーマの道案内のような本になればと願っています。

◇ ◇ ◇

『「お金の増やし方のベストセラー100冊」のポイントを
 1冊にまとめてみた。』
 著者:藤吉豊、小川真理子
 出版社:日経BP
 要約を読む
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『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』
 著者:藤吉豊、小川真理子
 出版社:日経BP
 要約を読む
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『「話し方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』
 著者:藤吉豊、小川真理子
 出版社:日経BP
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『「勉強法のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』
 著者:藤吉豊、小川真理子
 出版社:日経BP
 要約を読む
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藤吉豊(ふじよし ゆたか)

株式会社文道、代表取締役。有志4名による編集ユニット「クロロス」のメンバー。日本映画ペンクラブ会員。神奈川県相模原市出身。

編集プロダクションにて、企業PR誌や一般誌、書籍の編集・ライティングに従事。編集プロダクション退社後、出版社にて、自動車専門誌2誌の編集長を歴任。2001年からフリーランスとなり、雑誌、PR誌の制作や、ビジネス書籍の企画・執筆・編集に携わる。文化人、経営者、アスリート、タレントなど、インタビュー実績は2000人以上。2006年以降は、ビジネス書籍の編集協力に注力し、200冊以上の書籍のライティングに関わる。

現在はライターとしての活動のほか、「書く楽しさを広める活動」「ライターを育てる活動」にも注力。「書く力は、ライターだけでなく、誰にでも必要なポータブルスキルである」(ポータブルスキル=業種や職種が変わっても通用する持ち出し可能なスキル)との思いから、大学生や社会人に対して、執筆指導を行っている。元野良猫を溺愛する日々。

小川真理子(おがわ まりこ)

株式会社文道、取締役。有志4名による編集ユニット「クロロス」のメンバー。日本映画ペンクラブ会員。日本女子大学文学部(現人間社会学部)教育学科卒業。東京都在住。編集プロダクションにて、企業PR誌や一般誌、書籍の編集・ライティングに従事。その後、フリーランスとして、大手広告代理店の関連会社にて企業のウェブサイトのコンテンツ制作にも関わり仕事の幅を広げる。これまでに、子ども、市井の人、文化人、経営者など、インタビューの実績は数知れない。

現在は、ビジネス書や実用書などの編集・執筆に携わる一方で、ライターとして約30年活動をしてきた中で培ってきた「書く」「聞く」についてのスキルや心構えを伝えたいと、ライティング講座にも注力。学生や社会人、ライターを目指す方々に対して、執筆指導を行っている。猫を2匹飼っている。

■書籍【藤吉豊・小川真理子共著】

『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』

『「話し方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』

『「勉強法のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』

(以上、日経BP)

『社会人になったらすぐに読む文章術の本』(KADOKAWA)

■書籍【藤吉豊著】

『文章力が、最強の武器である。』(SBクリエイティブ)

■文道 https://bundo.net/

■Facebook https://www.facebook.com/BUNDO.inc

■YouTube「文道TV」

https://www.youtube.com/channel/UC4Tp1uYoit3pHXipRp_78Ng

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flier編集部

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