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インドネシア大統領ジョコ氏の長男世襲にストップ 憲法裁判所、大統領選の年齢制限引き下げ請願を却下

ニューズウィーク日本版 2023年10月16日 19時43分

<今月下旬の出馬受付が始まる大統領選に向け、にわかに政界の動きが活発化>

インドネシアの憲法裁判所は10月16日、大統領に立候補する場合の年齢制限の下限を現行の40歳から35歳に変更するべきだとする政党関係者などの請願を多数決で否決、却下したことを明らかにした。

これは2024年2月に実施される正副大統領選に立候補する候補者の年齢制限が現在の40歳以上との憲法上の規定を35歳以上へと変更を求めた請願に対して示されたものだ。

この請願はジョコ・ウィドド大統領の長男であるギブラン・ラカブミン・ラカ中部ジャワ州ソロ市長(36)を大統領候補者とペアを組む副大統領候補に擁立することを狙った極めて政治的なものだった。そのため識者などから疑問が示され、ジャカルタ中心部の憲法裁判所前では請願を却下するよう求める市民のデモも行われるなど、政治問題となっていた。

憲法裁判所は請願を反対6票、賛成2票の大差で否決し、請願却下を決めたという。

インドネシアでは憲法裁判所が司法の最後の砦として極めて妥当な判断を下したと評価する声が沸き起こっているという。

大統領の意向を汲んだ請願か

今回の請願却下は正副大統領候補の立候補登録が10月19〜25日に迫る中での判断で、今後の正副大統領候補の指名に影響を与えるのは確実となっている。

というのもジョコ・ウィドド大統領は現在2期目で憲法の3選禁止規定により、次期大統領選に大統領候補としては出馬できない。

しかし長男ギブラン氏を副大統領候補に据えることができれば、2024年の大統領退任後も政権にそれなりの影響力残すことができるため、水面下ではジョコ・ウィドド大統領の意を汲んだ請願だったと見方も強い。

ジョコ・ウィドド大統領自身は長男ギブラン氏の中央政界への転身について言を明らかにしてはいないものの、大統領退任後は故郷の中部ジャワ州ソロに戻って晴耕雨読の生活を送りたいと度々言明しながらも、長男ギブラン氏に続いて次男も地方政治に参加するとともに少数政党の党首になるなど「ジョコ・ウィドド・ファミリー」の政治活動は活発になっていることから、自身も政界に影響力を残すことにまんざらでないとの見方が有力となっているのだ。

大統領レースは2候補に絞られるか

2024年2月の大統領選には現在までのところ、最大与党「闘争民主党(PDIP)」が擁立したガンジャル・プラノウォ中ジャワ州知事とジョコ・ウィドド内閣の重要閣僚を務める少数与党「グリンドラ党」を率いるプラボウォ・スビアント国防相、さらにアニス・バスウェダン前ジャカルタ特別州知事の3人が立候補を表明している。

スビアント国防相は前回大統領選でジョコ・ウィドド大統領と接戦を演じ、僅差で涙を飲んだ経緯がある。ただ今回は閣僚の一人としてジョコ・ウィドド大統領の政策継続を訴えて親密な関係を構築している。

各種世論調査ではガンジャル州知事とプラボウォ国防相が常にトップ争いを演じており、この両者による選挙戦となるのが有力とみられている。

しかしガンジャル州知事、プラボウォ国防相の両候補者ともに16日の時点ではペアを組む副大統領候補を明らかにしておらず、憲法裁判所の判断を待っていた可能性が高いとみられている。

このため17日以降、正副大統領候補の届け出が受付られる19〜25日にかけて両候補者とその政党による副大統領候補を巡る虚々実々の激しい駆け引きが展開される見通しとなっている。

大統領と最大与党党首の不仲説

ここへきて国民の関心を集めているのがジョコ・ウィドド大統領とその後ろ盾であるPDIPの党首メガワティ・スカルノプトリ元大統領との不仲説である。

ジョコ・ウィドド大統領はPDIの党役職にはつかず一党員として活動してきた。中部ジャワ州ソロ市長時代から首都ジャカルタの特別州知事を経て大統領選に臨み勝利した訳だが、この間PDIPの全国組織が票集めに活躍した。

そうした経緯もありジョコ・ウィドド大統領に対してメガワティ党首は政策にまで注文や指示を出して政権運営に口出しするケースが増え、ジョコ・ウィドド大統領は不満を募らせて「面従腹背」の態度を示すことが増えたと地元マスコミは伝えている。

そうした空気からジョコ・ウィドド大統領はPDIPのガンジャル州知事ではなく、プラボウォ国防相を自身の後継者として内心は支持、応援しているとの見方が有力だ。

そんななか、10月に入って前回大統領選でジョコ・ウィドド大統領を支持した市民ボランティア団体の「Projo」が今回の選挙ではプラボウォ国防相を支持することを表明したというニュースが流れた。

会員数数百万人ともいわれるボランティア組織は各政党の支持票とは別に浮動票に影響を与える可能性があり、大統領選の行方は副大統領候補の人選を含めて極めて流動的になって来たといえる。

来年2月の大統領選までインドネシアからは目が離せない状況が続くことになりそうだ。

[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

【動画】憲法裁判所、大統領選の年齢制限引き下げ請願を却下

インドネシアの憲法裁判所は10月16日、大統領に立候補する場合の年齢制限の下限を現行の40歳から35歳に変更するべきだとする政党関係者などの請願を多数決で否決、却下したことを明らかにした。

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大塚智彦

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