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韓国の高齢化率が日本を超える日は近い......少子高齢化の深刻な現実

ニューズウィーク日本版 2023年10月16日 19時11分

<韓国の高齢化問題は急速に進行しており、今後の数年で世界で最も高齢の国となる見込みだ。この高齢化に伴い、育児施設の減少や高齢者福祉の不足が社会的な課題となっている......>

韓国で少子高齢化問題が再燃している。2022年の合計特殊出生率は0.78で、23年4月〜6月期には0.7にまで減少、年内に0.6台となる懸念が現実味を帯びてきたのだ。

カリフォルニア大学法科大学院のジョアン・ウィリアムズ名誉教授は「これほど低い出生率は聞いたことがない」「大韓民国は完全に終わった」と話す。

対策の歴史とその効果

少子高齢化が進むと総人口に占める生産年齢人口が少なくなって経済環境が悪化する。加えて、オックスフォード大学のデービッド・コールマン名誉教授は、韓国が「人口消滅国家第1号」になると警告する。

経済開発協力機構(OECD)加盟国で合計特殊出生率が1.0を下回っているのは韓国だけである。先立って少子高齢化が社会問題となった日本は2005年に史上最低の1.26まで落ち込みながらも2015年には1.45まで回復した。2022年はふたたび1.26まで落ち込んだが、コロナ禍による婚姻数の急減が一因とみられる。

韓国政府は少子高齢化が社会問題として浮上した2005年、当時の盧武鉉政権が「低出産・高齢社会基本法」を制定して育児期の短時間勤務制度を導入した。続く李明博政権は一定規模以上の企業に保育施設の設置を義務付け、朴槿恵政権も0歳児から5歳児を対象に保育施設を無料で利用できる無償保育を実施した。また、文在寅政権が児童手当の導入や父親の育児参加を促進するなど、2006年から21年の15年間に280兆ウォン(28億円)を投じたが、出生率は下がる一方だ。

尹錫悦大統領は今年3月28日に主宰した低出産高齢社会委員会で「失敗原因をしっかりと突き止めなければならない」と指摘した。大統領が同委員会を主宰したのは朴槿恵政権時以来7年ぶりである。

韓国政府は15年以上にわたって子を持つ親の子育て環境を整えてきたが、既婚女性の出産率は2.0を超えている。結婚しない若者の増加が問題なのだ。

雇用環境と若者の結婚

若者が結婚しない最大要因は雇用環境といってよい。20代の就業者377万9000人のうち、141万4000人(37.4%)が非正規労働者。つまるところ不安定な雇用が結婚を阻んでいるのだ。

職場内の性差別も出生率低下の一因だ。女性の大学進学率は男性を上回り、20代女性の就業率も男性を上回るが、30代から50代女性の雇用率は男性よりはるかに低い。競争が激しい韓国で出産はキャリアの断絶に繋がるだけでなく、職場を追われることもある。高学歴の女性ほど苦労して得た地位や収入を出産によって失いたくないと考える。
結婚しない女性が子供を産むことはない。

高齢者の増加と施設不足

高齢化も深刻だ。2022年の韓国の高齢化率は17.5%で、超高齢社会の日本(29.1%)より低いが、2025年に20.6%に達し、2045年には日本を抜いて世界1位の高齢国家になるとみられている。

少子高齢化の影響で育児施設が大幅に減って高齢者施設が増えているが、十分とは言い難い。育児施設は2017年の4万軒余から2022年は約3万900軒まで5年間で4分の1が閉鎖した。児童数の不足から閉校した小中高校も少なくない。

一方、17年に7万6000軒だった老人介護施設や専門病院、高齢者福祉機関等の高齢者施設は22年には8万9643軒と18%増えたが、有料老人ホームや高齢者住宅は足りていない。

韓国の65歳以上人口は927万人。2022年時点の高齢者向け住宅は韓国全土で39か所、8840世帯にとどまっている。日本は65歳人口3600万人に対して1万6724か所、63万4395人が入居する。

ソウル市江南区にある健康管理施設やフィットネスセンター、レジャー文化施設などを備えたシニアタウン(老人福祉住宅)は、いま申し込んでも入居まで4年以上、待たなければならないという。今年3月に賃貸分譲を行ったソウル市江西区のシニアタウン「VLルウェスト」の平均競争率は19倍、なかには200倍を超えた部屋もあった。

貧困と年金の問題

高齢者の貧困はさらに深刻だ。韓国はOECD加盟国で唯一、65歳以上の相対的貧困が4割を超えている。韓国は20年以上、年金に加入すると65歳から国民年金を受給できるが、2021年の需給率は64.9%で平均受給月額は58万ウォン。単身者の老後適正生活費162万ウォンには程遠く、夫婦で受給しても夫婦の老後適正生活費253万ウォンの半分にも満たない。

「2022年5月 経済活動人口調査高齢者付加調査」によると、55~79歳の68.5%が「働きたい」と回答、1番の理由は「生活費の補填」だった。

韓国は2016年から60歳定年制が義務化されたが、22年度の調査による平均退職年齢は49.3歳で、退職事由は事業不振による休・廃業が最も多く、勧奨退職が続いている。定年前に退職を余儀なくされた人が少なくない。

韓国中央銀行の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は大韓商工会議所済州フォーラムの講演で、韓国経済は日本の後追いになるのではないかという質問に「日本は豊かな老人、韓国は金のない老人」と回答した。

15歳から64歳の生産年齢人口100人が扶養する幼年者と高齢者を合わせた総扶養比は、2020年の39.9人から2028年は50人、2040年には79.5人になるとみられており、保健福祉部は2055年には年金が枯渇するという見通しを発表した。官民挙げて有効な対策を打ち出さない限り、韓国はまさに終わってしまうだろう。


佐々木和義

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