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ガザ攻撃めぐり、欧米で「親イスラエルvs親パレスチナ」の対立激化...EUは難民危機の再来に戦々恐々

ニューズウィーク日本版 2023年10月17日 19時49分

<米大学ではイスラエル人学生が襲撃されたとみられる事件も。パレスチナとイスラエル、どちらを擁護するかで西側の反応が分裂している>

[ロンドン発]パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム武装組織ハマスの奇襲で火を吹いたイスラエル・ハマス戦争の死者は17日時点でイスラエル側1400人以上、ガザ空爆で2700人近くにのぼっている。199人を人質に取られた上、焼き討ち、斬首、射殺、レイプなど残酷な被害を受けたイスラエルは自衛権を主張するが、西側の反応は分裂している。

イスラエルがガザから撤退したのは2005年末。06年のパレスチナ立法評議会選挙でハマスがパレスチナ解放機構(PLO)主流派ファタハに圧勝。両派は連立政権を樹立し、ハマス指導者イスマイル・ハニヤが首相に就任した。しかしガザでハマスとファタハの衝突は激化し07年ハマスがガザを、ファタハ主導の緊急内閣がヨルダン川西岸地区を掌握した。

国連総会決議を受けイスラエルは先の大戦後の1948年建国を宣言したが、今もイラン、パレスチナのハマスやイスラム聖戦、レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラはイスラエルの生存権を認めていない。「イスラエル破壊とイスラム国家樹立を目標に掲げる」(英BBC放送)ハマスの攻撃と、イスラエルの報復は何度かの停戦を経て繰り返されてきた。

イスラエルの安全保障はガザ封鎖と空爆、鉄壁のはずだった防空システム「アイアン・ドーム」を軸に成り立ってきたが、今回、ハマスの大規模な陸海空統合作戦で完全に破綻した。空爆やイスラエルのガザ侵攻はハマスを徹底的に叩くため容赦のないものになり、一般市民の巻き添え被害拡大が懸念される。

ハマスはガザで戦闘訓練を実施

米英、欧州連合(EU)はハマスをテロ組織とみなす。英国政府は「イスラエルを標的にする無差別ロケット弾、迫撃砲攻撃、襲撃が行われている。21年5月には4000発以上のロケット弾がイスラエルに向け無差別に発射され、子ども2人を含む民間人が死亡した。ハマスはガザのサマーキャンプで未成年者を含むグループの戦闘訓練を行っている」と指摘する。

英国のリシ・スナク首相は14日、「英国はテロに対して常に同盟国とともに立ち向かう。イスラエルの罪なき犠牲者に対するハマスのテロ攻撃を受け、地域の安定を強化し、さらなるエスカレートを防ぎ、人道的努力を支援するために、世界クラスのわが国の軍隊を派遣した」とX(旧ツイッター)に投稿した。

英国は13日、東地中海にポセイドンP-8などの偵察機、英国海軍の支援艦2隻、英国海兵隊約100人を派遣した。しかしパレスチナ寄りの英最大野党・労働党のジェレミー・コービン前党首はハマス批判を避け「即時停戦と緊急の脱エスカレーションが必要だ。(イスラエルの)占領を終わらせることが公正で永続的な平和を実現する唯一の手段だ」と唱える。

「イスラエルでの民間人への恐ろしい攻撃は嘆かわしいものだ。しかしパレスチナ人の無差別殺戮を正当化することはできない」「すべての民間人を標的にすることを非難すべきだ。なぜ政治家はこの基本的な道徳原則を順守し、普遍的かつ平等に国際法を守ることができないのか。どれだけ罪のないパレスチナ人の命が自衛の名の下に抹殺されるべきなのか」

「西側指導者はガザ殲滅にゴーサインを出した」

労働党内に反ユダヤ主義が蔓延るのを黙認したとして党員資格を停止されたコービン氏は「西側の政治指導者はガザ殲滅にゴーサインを出した」「私たちはガザの完全な消滅を目撃している恐れがある。声を上げようとしない政治指導者は自分たちが許している恐怖を永遠の恥と感じるべきだ。パレスチナ人への集団的懲罰は戦争犯罪だ」と言葉を叩きつけた。

一方、ジョー・バイデン米大統領は10日、ハマスのイスラエル攻撃を「純粋無垢な悪」「まさに悪の所業」と呼び「ハマスの残忍さは過激派組織『イスラム国(ISIS)』の極悪の所業を思い起こさせる。これはテロリズムだ。この攻撃はユダヤ人に対する千年にわたる反ユダヤ主義と大量虐殺が残した痛ましい記憶と傷跡を呼び覚ました」と表明した。

バイデン氏は「われわれはイスラエルとともにある。 イスラエルが自国民を保護し、自国を防衛し、この攻撃に対応するために必要なものを確保できるようにする。ハマスが支持するのはパレスチナ人の尊厳と自決の権利ではない。 その目的はイスラエル国家の消滅であり、ユダヤ人の殺害である。彼らはパレスチナ市民を人間の盾として使っている」と非難した。

バイデン政権はアイアン・ドームを補充する弾薬や迎撃ミサイルなどの軍事支援を急増させた。空母ジェラルド・R・フォード打撃群を東地中海に移動させ、戦闘機のプレゼンスを強化した。フランス、ドイツ、イタリア、欧州連合(EU)、英国の首脳と協議し、米欧が一致団結した対応を取れるよう調整した。

米大学ではイスラエル人学生が棒で殴られる?

米非営利団体NPR (公共ラジオ放送)によると、イスラエル・ハマス戦争は全米の大学キャンパスで緊張を高めている。「イスラエルにすべての暴力の全責任がある」とするハーバード大学パレスチナ連帯委員会の書簡に数十の学生団体が署名したところ、学生、教授陣、著名な卒業生、政治家、さらには学長が反発した。

「イスラエルはこの甚大な人命の損失に対して全責任を負う」というニューヨーク大学学生弁護士会会長の書簡が瞬く間に拡散し、非難にさらされた。学生グループによる集会や抗議行動も行われ、親イスラエル派と親パレスチナ派が直接対立するケースもあった。コロンビア大学ではイスラエル人学生が棒で殴られたとみられる事件が起きている。

英紙フィナンシャル・タイムズのヘンリー・フォイ・ブリュッセル支局長は「イスラエルは民間人を中心に1400人以上のイスラエル人を殺害した攻撃に対する報復としてハマスの『抹殺』を宣言した。公の場ではイスラエル支持を表明しているものの、西側指導者の多くは230万人を脅かすガザへの全面侵攻を避けるよう内々に求めている」と解説する。

同支局長によると、EUのウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長はEU首脳からの委任を受けることなくイスラエルでベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談した。フォンデアライエン氏は「イスラエルがどのように対応するかで民主主義国家であることが示される」と表明したが、イスラエルの報復が国際法に適合するよう求める内容は含まれていなかった。

「ウクライナ戦争にどう対応するかという点でEUは一致しているが、イスラエル・パレスチナ問題は常に複雑だ。パレスチナ人に対する『集団的懲罰』に警告を発したアイルランド、イスラエルのガザ避難要請は国際法に反すると述べたスペインはフォンデアライエン氏やドイツ、オーストリア、チェコよりはるかに慎重だ」(フォイ支局長)

イスラエル・ハマス戦争が収束せず地域に拡大すれば100万人を超える難民がEU域内に押し寄せた2015年の欧州難民危機の悪夢が繰り返される恐れがある。


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