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ロシアの大軍から要衝アウディーイウカを防衛したウクライナ軍の高度なドローン戦術

ニューズウィーク日本版 2023年10月17日 19時15分

<少なくとも3大隊を投入したロシア軍だが、緒戦で大損失を被り勢いが衰えたと専門家は分析する>

ウクライナ軍の反転攻勢が続くなか、ロシア軍はウクライナ東部の要衝アウディーイウカに大規模な攻撃を仕掛けている。だが一時の勢いは衰えつつあるようだと、新たな分析が示された。

<マップ>ロシア軍がアウディーイウカに執着する理由が一目でわかる

米シンクタンク「戦争研究所」は最新の戦況分析の中で、ロシア軍が10月15日に「アウディーイウカの包囲」を狙った攻撃を仕掛けたと指摘。だが「この地域でのロシア軍の作戦展開の勢いが衰えているようで、その後さらなる進展はみられていない」とつけ加えた。

戦争研究所によれば、ロシア軍はアウディーイウカ周辺への進軍初期に「大規模な損失」を被り、また進軍ペースも思いどおりにいかなかった可能性が高い。(公開情報を利用して情報収集・分析を行う)オープンソース・インテリジェンスの複数のアカウントは、アウディーイウカへの攻撃でロシア軍の装備にかなりの損失が出たと示唆していた。

ロシア軍は10月10日にアウディーイウカ周辺への大規模攻撃を開始。少なくとも3つの大隊を投入したとみられている。ウクライナの大統領首席補佐官を務めるアンドリー・イェルマクも、アウディーイウカが「ロシア軍の迫撃砲や航空機による集中攻撃を受けている」と述べていた。

14日夜にはヴォロディミル・ゼレンスキー大統領も、アウディーイウカを激戦地の筆頭に挙げ、「拠点を守り、ロシア軍を撃退している全ての者に感謝する」と述べた。

ウクライナ守備の重要拠点

アウディーイウカはずっと以前から、ウクライナとロシアの紛争の影響を受けてきた。ビタリー・バラバシ町長は以前、今も町に残っている住民は1600人程度だろうと言う。戦争が始まる前には約3万人が住んでいた。

ウクライナ軍のビクトル・トレフボフ少佐は、ロシア軍と親ロシア派武装勢力は9年前から、アウディーイウカを支配下に入れようとしてきたと指摘する。「ロシア軍の攻撃は激しいが、いまだ成功には至っていない。その大きな理由は、ウクライナの戦闘用と偵察用ドローン(無人機)がかつてないほど効果的に運用されているからだ」と彼は16日に本誌に語った。

ウクライナのミハイロ・フェデロフ副首相は16日、ウクライナ軍のドローンは10月9日から16日までの1週間で、ロシア軍の装甲車88台、戦車75台、榴弾砲と大砲101門とロシアの防空システム2つを破壊したと明らかにし、無人テクノロジーが「アウディーイウカの防衛において優れた効果を発揮したことが証明された」とX(旧ツイッター)への投稿の中で述べた。

戦争研究所は11日の戦況分析の中で、アウディーイウカは「ウクライナ軍の守備の重要拠点で、要塞化されていることで有名」だと述べ、ロシア軍が制圧するのは難しいだろうと指摘していた。

それでもハーグ戦略研究センターの戦略アナリストであるフレデリック・マーテンスは、ロシア軍が自分たちの防衛ラインに割り込む「突出部」であるアウディーイウカ(マップ参照)を制圧しようとするのは、驚くにはあたらないと指摘。ロシアは今回の戦争で、以前にもこの地域を制圧しようと試みており、それは「軍事的に筋の通った」戦略だと本誌に述べた。

ロシア軍がアウディーイウカを制圧すれば、6月に反転攻勢を始めたウクライナ軍と激しい戦闘を続けているロシア側にとっての大きな戦果となる。

マーテンスは、「もしもウクライナがアウディーイウカを失えば、それはロシア側の防衛にとって重要な勝利になる」と説明。ロシアがアウディーイウカを支配下に入れれば、ウクライナ東部の要衝ドネツク州を今後、ウクライナ軍の攻勢からより強力に守ることができるようになるからだと述べた。

だがキングズ・カレッジ・ロンドン戦争研究学部の教授であるマイケル・クラークは先週、ロシアがアウディーイウカに照準を合わせたのには、ほかの前線からウクライナ軍の注意を逸らす狙いもあった可能性が高いと本誌に語る。ロシアは「流れが変わるまでの時間稼ぎをしながら、アウディーイウカの前線の至るところで攻撃を仕掛けている」ようだと指摘した。

マーテンスも、「ウクライナ軍の兵士たちを釘付けにするために攻勢を仕掛ける場所という意味では、理論的にアウディーイウカが最適だろう」と分析した。

秋と冬も反転攻勢は続く

ウクライナ軍は何カ月も前から、ウクライナ東部と南部でロシア軍に対する激しい抵抗を繰り広げており、幾らかの成果を上げているものの、反転攻勢の進展ペースは遅く、大きな代償も伴っている。秋と冬は雨や雪が多く前線が泥でぬかるむが、ウクライナ政府は条件が悪化しても、反転攻勢を続けると宣言している。

ロシア軍は15日の戦況報告の中でアウディーイウカについては言及しなかったが、ウクライナ軍参謀本部は16日、前日にアウディーイウカでロシア軍から15回を超える攻撃があったと述べた。

ウクライナ国防省情報総局の報道官は先週、アウディーイウカに対するロシア軍の攻撃は想定していたと述べていた。戦争研究所は先日の戦況分析の中で、地雷を敷設するなど、ウクライナ軍が攻撃に備えていた兆候がみられると指摘していた。

<マップ>ロシア軍がアウディーイウカに執着する理由が一目でわかる

<動画>アウディーイウカで橋から落ち、砲撃も餌食になるロシア軍戦車の車列

<動画>ウクライナ軍の自爆ドローンの直撃を受け戦車から転がり出るロシア兵たち



エリー・クック

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