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台湾海峡に「海の橋」を架けるため中国がRORO船の生産を増強

ニューズウィーク日本版 2023年10月18日 19時17分

<平時には民生用に使われていても、いざ台湾侵攻となったら軍用に徴用し、人民解放軍が台湾海峡を渡るための橋になる船とは>

<動画>世界最大のRORO船、驚くべき内部

中国は、RORO船と呼ばれる船舶の生産を増強している。RORO船とは、「ロールオン・ロールオフ」の頭文字を取ったもので、荷物を積んだトラックやシャーシ(荷台)ごと輸送が可能な船舶を指すが、中国で今作られている船は、台湾への攻撃時に使われる可能性もある。

アメリカのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のチャイナ・パワー・プロジェクトが新たに発表したレポートによると、中国のRRORO船増産は、台湾への攻撃においてこれらの船舶を軍用に供す戦略の存在を示唆しているという。過去数十年、台湾海峡からの上陸作戦阻止を主眼に置いてきた台湾の政治・軍事部門の幹部にとっては由々しき問題だ。

RORO船は、乗用車やトラック、バス、トレーラーを載せ、海の向こうの目的地へと輸送する。中国製電気自動車(EV)への需要増を受けて、RORO船は、中国で生産されたEVを世界各地に運ぶ際の主要な輸送手段となっている。しかし、中国の軍事ストラテジストたちは、RORO船を台湾への攻撃時に転用する案をひそかに検討してきた。

2026年までにあと最大200隻も

CSISのレポートは、こう記している。「RORO船は、一般的には兵器として使われるものではないが、中国の軍事計画立案者たちは、軍民両用(デュアルユース)が可能なその特性に目をつけ、人民解放軍の能力を高めるために利用しようとしている」

中国政府は2016年、中国の海運会社に対し「国益を守るための軍事作戦」を支援することを義務づける法律を成立させた。民間企業が保有するRORO船が、台湾への攻撃時に徴用される可能性はある。

世界全体では700隻以上のRORO船が存在するが、そのうち中国企業が運航している船舶の数は100隻に満たない。CSISレポート執筆者たちの分析によると、中国の造船所では、2023年から2026年の間に最多のケースで200隻のRORO船を建造する可能性があり、これは、軍民両用の能力を持つ船舶の建造数としてはかなりの増加幅だという。

「言い換えれば、現在の人民解放軍は、大人数の部隊や装備を主要戦区に輸送するための軍事的資源を十分に有していないということだ。人民解放軍が台湾に対して大規模な陸海軍合同の上陸作戦を実施するなら、さらなる装備が必要になる」と、CSISレポートには記されている。

シンガポール南洋理工大学ラジャラトナム国際学院(RSIS)の主任研究員、コリン・コーは本誌の取材に対し、RORO船が本来の目的とは異なる目的に転用される可能性はあると述べた。

「ここで考えるべきシナリオは2つある。平時のグレーゾーンと有事発生時だ。前者のケースでは、RORO船に使うことはかなり限定されているだろう。後者では、RORO船に限らず特定の用途を持つ民間船が徴用される可能性がある」

 

コーはさらに、中国政府が台湾侵攻を行なう際には、RORO船で中国本土と台湾を結ぶ「海の橋」を築く可能性もある、と付け加えた。

「侵攻が開始された場合、これらの船は、上陸拠点が確保された後で、後続部隊を運ぶ役割を果たすことになる。こうした上陸拠点には、人民解放軍の部隊の管理下に置かれた台湾の港湾も含まれる。また『海の橋』は、台湾で戦闘を行なう部隊のための補給路の役割も担うことになるだろう。人民解放軍は、これを後方支援の頼りとするはずだ」とコーは述べた。

台湾侵攻の際、現在の人民解放軍では上陸作戦を支援する能力に限界があるが、RORO船は、このギャップを埋められる可能性がある。

RORO船成功の条件

戦時における中国政府の台湾に対する海軍戦略において、RORO船は完璧なアプローチのように見える。だが、よくよく考えると、RORO船も標的にもなるはずだ。CSISレポートは、RORO船の活用にひそむ落とし穴についても触れておいる。つまりRORO船は、「対艦ミサイルを搭載し、攻撃能力を持つ航空機や戦艦による攻撃」の格好の標的になるというのだ。他の複数の専門家も、同様の問題点を指摘している。

「RORO船が戦時の脅威となるのは、中国側がこれらの船舶に対して、空と海から持続可能な防護を提供できる場合のみだ。つまり、これらのRORO船が母港とする中国の港湾や、それを支える港湾インフラに対する敵軍からの攻撃を受けてもなお、RORO船で構成されるこの船隊が残存し、持ちこたえることができる体制を中国が整えている場合だ」

「言い換えれば、これらのRORO船が脅威となるのは、中国が台湾海峡に確実な『海の橋』を維持できる時のみ、ということだ。すなわち、この戦域において、人民解放軍の海空軍が、敵軍の攻撃を確実にはねのけられる状態を意味する」とコーは指摘した。

(翻訳:ガリレオ)

 

<動画>世界最大のRORO船、驚くべき内部

 



アーディル・ブラール(中国ニュース専門ライター)

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