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「迎撃不可能」ロシアの極超音速ミサイルはやはり評判倒れ

ニューズウィーク日本版 2023年10月23日 20時7分

<キンジャールは「事実上、試験運用の段階にとどまっており、ウクライナでの実績はまだ乏しい」と英国防省>

<動画>パトリオットvsキンジャール

ウクライナ侵攻が始まってからこのかた、ロシアの極超音速空対地ミサイル「キンジャール」の戦績は今ひとつぱっとしない──英国防省は10月21日、そんな評価を発表した。ちなみにロシアは黒海上空のパトロールにこの「次世代」兵器を搭載した迎撃機を投入すると発表したばかりだ。

キンジャールは「事実上、試験運用の段階にとどまっており、ウクライナでの実績はまだ乏しい」と、英国防省はX(元ツイッター)への投稿で指摘した。

これに先立つ18日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、黒海上空の中立空域において「恒久的な形で」パトロールを開始すると発表した。パトロールはキンジャールを搭載した改良型ミグ31迎撃機で行うという。

キンジャールはロシア語で「短剣」の意で、NATOでは「キルジョイ」というコードネームで呼ばれている。ロシア政府の触れ込みによれば、極超音速ミサイルで迎撃不可能。音速の最大10倍の速度で飛行し、航続距離は約2000キロに達するという。2022年2月の侵攻開始後は、ウクライナに対するロシアのミサイル攻撃の際によく使われるようになった。

実はパトリオットで迎撃可能

ロシアの国営メディアによれば、キンジャールが初めて実戦で使われたのは22年の3月半ば。ウクライナ空軍はロシアがキンジャールをウクライナ領内に向けて発射したと何度も明らかにしているが、ロシアの他の型のミサイルと比べるとその頻度は少ない。

キンジャールは2018年にプーチンによって「次世代」兵器の1つとして発表された。だが西側の専門家に言わせれば、モスクワの「極超音速ミサイル」の触れ込みには誇張があり、ロシアが言うほどに迎撃不可能でもない可能性があるという。

軍事専門家のデービッド・ハンブリングは以前、本誌に対し「どう見てもキンジャールはただの空中発射型の弾道ミサイル」で、本物の超音速兵器と比べると軌道修正能力でも劣ると指摘した。ウクライナ軍もアメリカ製の対空防衛システム「パトリオット」を使ってキンジャールを迎撃したと発表しており、この点は米国防総省も認めるところだ。

極超音速で飛行できて近代的な防空システムをかいくぐることができるというのだから、キンジャールは「紙の上では確かに高性能だ」と英国防省は言う。一方で「ただしそれだけの性能を発揮するには運用面で大きな改良が必要だろう」と英国防省は指摘する。

 

プーチンは18日の発表文の中で、イスラエルとパレスチナのガザ地区を実効支配するハマスとの軍事衝突後、東地中海において米軍がプレゼンスを増していることについて暗に触れ、「それらが状況をエスカレートさせている」と述べた。米軍が2つの空母打撃群を新たに中東に送り込んだことを、プーチンはロシアの黒海パトロール強化を正当化するために使ったのだ。

「(プーチンの)発表は、ロシアの国内向けの典型的なレトリックだ。西側を侵略者呼ばわりし、ロシアの行為を国防に不可欠なものという枠組みで語る」と英国防省はXへの投稿で述べた。

また英国防省は、航続距離の長いキンジャールを黒海パトロールに使うとわざわざ言及したのも「ほぼ間違いなく、戦略的なメッセージを送る目的からだろう」と指摘した。「ウクライナでの戦争を続けながらもさらにキンジャールを増産・配備する能力が残っている」ことを示す意図があるというわけだ。

 

<動画>パトリオットvsキンジャール

 



エリー・クック

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