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「参加者に華がなさすぎ」...軌道修正を迫られる「一帯一路」はあと10年もつのか?

ニューズウィーク日本版 2023年10月24日 13時52分

<習近平の「現代版シルクロード構想」が10年を迎え、大きな転機に。量より質を重視する軌道修正はどこへ向かうのか>

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、自らの看板政策である現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を新たな段階に導こうとしている。

だが、参加国の首脳級を北京に集めて10月18日に開かれた「一帯一路フォーラム」で強く感じられたのは、追い風よりも逆風だった。

それを雄弁に物語るのが、参加首脳らの「集合写真」だろう。前回2019年は37人が出席したが、今回は23人。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領など大物もいたが、EUからはハンガリーのビクトル・オルバン首相だけとなるなど、かつての華々しさは乏しかった。

その一方で、アフガニスタンのイスラム主義政権タリバンの代表団が顔を見せ、一帯一路に参加したい意向を正式に表明した。

習は基調講演で、世界がますます細分化していることを示唆した。そして、「われわれはイデオロギー的対立や、地政学的な競争、そしてブロック(地域圏)政治にはくみしない」と述べ、「一方的な制裁や、経済的圧力、デカップリング(経済関係の断絶)に反対する」と断言した。

そして、こうした緊張やコロナ禍の余波、世界的な債務危機、そして中国経済の不振があるなかでも、引き続き一帯一路を推し進めていくことが「正しい道」だと習は語った。その決意を強調するべく、中国の二大政策銀行を通じて約1000億ドル、さらにシルクロード基金から約110億ドルを融資すると発表した。

この発表は、中国がコロナ禍の最悪のダメージを乗り越えて、再び国際金融に乗り出す意欲を示していると、ボストン大学グローバル中国イニシアチブのレベッカ・レイ上級研究員は指摘する。

「5年前ほどの規模にはならないだろうが、より賢く、より小規模で、より持続可能な方法で、国際的なプレゼンスを確保するという中国の新たな決意が感じられる」

世界銀行の穴を埋める

なぜ中国は、これほど積極的に国外への投資を続けるのか。その理由の1つとして、一帯一路が10年前の発表以来、明らかに中国と、中国が投資した国々に恩恵をもたらしてきた事実がある。

一帯一路の覚書に署名した150カ国超に対して、中国が公的または民間の融資を通じて実施してきたプロジェクトは計1兆ドルを超える。これには、既に開通した中国ラオス鉄道もあれば、トルコに巨大石炭火力発電所を建設する計画もある。

中国は、世界銀行など国際機関の開発援助が入っていきにくい領域の大規模プロジェクトに融資をしてきたと、ボストン大学の報告書は指摘している。

長年にわたり中国の活動に注目してきた独立系ジャーナリストのエリック・オランダーは、主宰するブログ「中国・グローバルサウス・プロジェクト」で、中国の金融機関や企業による融資は、他の国や国際機関のそれよりも効率がいいと指摘する。

「きっちり結果を出すという意味では、中国のほうが確実だ」

一帯一路の一環として建設された道路や橋、港湾、発電所は、途上国に新たな経済機会をもたらしてきた。ボストン大学の研究でも、中国の融資で行われたインフラ整備プロジェクトは、その国の貿易や経済成長に貢献してきたことが分かっている。

一方、中国にとっては、こうしたインフラ融資はたとえ金銭的に莫大な利益にならなくても、大きなメリットをもたらしてきた。それは中国経済にとって何よりも重要な資源を確保することだ。

例えば、国家開発銀行は融資の「返済」として、ベネズエラからは原油を、ガーナからはボーキサイトを得てきた。また、国外のインフラ整備プロジェクトは、鉄鋼や石炭など中国国内では斜陽産業にいる国有企業にビジネスチャンスをもたらしてきた。

さらに一帯一路は、中国という国を世界に売り込む機会でもあった。一帯一路という多様な領域をカバーする看板をつくったことで、中国は国外の開発、融資、事業をまとめて提示し、世界的なプレゼンスを確立してきたのだ。

「もしこれら全てが2国間協力という形で行われていたら、これほどの注目は集めていなかっただろう」と、一帯一路を研究する豪グリフィス・アジア研究所のクリストフ・ネドピルワン所長は語る。

そのイメージと、実際に巨大な建設工事が進んでいる光景は、外交面で中国に恩恵を与えてきた。最近の例では、ホンジュラスが、それまで外交関係のあった台湾から多額の開発援助が得られないと分かると断交して、中国と正式な国交関係を結んだ。

このように一帯一路は中国に多くの恩恵をもたらしてきたが、当初のモデルに問題がなかったわけではない。今回の会合では、この現実を認識して軌道修正を図る中国の努力が浮き彫りになった。

当初、中国の銀行はデューデリジェンス(融資案件の価値やリスクの適正評価)をきちんとせずに巨額の融資を行ったと、レイは指摘する。

そのツケが今、回ってきている。コロナ禍とインフレ、ウクライナ戦争によるサプライチェーンの混乱などにより、多くの途上国が債務返済に窮しており、中国は債務再編交渉に追われているのだ。

中国からの借金を返せなくなり、99年間リースすることになったスリランカのハンバントタ港 AP/AFLO

グリーン投資の危うさ

このため現在の中国は、新規融資に慎重になっていると専門家は指摘する。「当初の一帯一路は、公的なインフラ整備事業が中心だった」とネドピルワンは言う。だが今は、「多くの意味で、民間(商業)志向になっている」。

この一帯一路の軌道修正は、習の講演における「小さくても美しい」プロジェクトを推進するという発言に表れている。今後は量より質を重視するというわけだ。

習は今回、一帯一路におけるもう1つの軌道修正も明確にした。より環境に優しいプロジェクトを重視する方針だ。

当初の一帯一路プロジェクトはエネルギー、とりわけ石炭火力発電所の建設計画が多く含まれていた。気候変動への影響を指摘する声があっても、中国は石炭を多用する自らの成長モデルを途上国に輸出し続けてきた。

ところが習は、21年の国連総会で石炭火力発電所の新規建設を他国で行わない意向を示し、「途上国における環境に優しい低炭素エネルギーの開発支援を強化する」と宣言した。

実際、今年1~6月期のエネルギー分野における一帯一路プロジェクトは、風力発電施設と太陽光発電関連の建設計画が41%を占めた。

とはいえ、その成功は容易ではない。世界資源研究所のリウ・シュアン中国金融部長は、中国が諸外国や金融機関と連携して、グリーンプロジェクトへの投資リスクを最小限に抑えるとともに、必要な専門的技術の支援もしていく必要があると指摘する。

国内経済の不振が伝えられるなか、途上国への莫大な投資(しかもグリーン投資)を維持していけるのかという問題もある。「経済発展の先頭に立つ国々は、まだ追い付いていないパートナーに手を差し伸べるべきだ」と、習は18日の講演で語った。

このメッセージは、この10年間に中国が友好国を獲得して、世界に影響を与える存在になるのに役立った。その懐の深さが、あと10年続くかどうかは、また別の問題だ。

From Foreign Policy Magazine

「第3回一帯一路フォーラム」の様子

Belt and Road Forum: Xi says China stands against unilateral sanctions, economic coercion/CNA

    

「一帯一路」の10年

China's Belt And Road Initiative: 10 Years Of Evolution And Beyond | Insight | Full Episode/CNA Insider



リリ・パイク

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