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読書で「自己肯定感」が高まる...ストレス軽減の「癒し効果」、長生きにもつながる読書の効能とは?

ニューズウィーク日本版 2023年10月28日 18時26分

<『心と体がラクになる読書セラピー』の著者・寺田真理子氏が語る読書の意外な効果。「タイパ」の時代にこそ本の「癒し」が必要だ>

「思い返すと、つらいとき、あの本が心の支えになってくれた――」あなたには、そんな本はありますか? 本にはスキルアップや娯楽の側面だけでなく、人の心と体をラクにしてくれる「効用」があります。読書によってストレスが軽減され、長生きにもつながる。そんな研究結果が出ているのが「読書セラピー」です。

タイパ(タイムパフォーマンス)が求められる時代にこそ立ち返りたい、読書がもたらす効果とは何なのか? 「なんだか疲れるし、自己肯定感も下がっている」、そんなときには、どんな本を読むといいのでしょうか? 『心と体がラクになる読書セラピー』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者で、日本読書療法学会会長を務める寺田真理子さんにお聞きします。
※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です。

◇ ◇ ◇

イスラエルには国家資格がある、世界で注目の「読書セラピー」

──「読書セラピー」とは何か、改めて紹介していただけますか。

「読書セラピー」とは、読書によって問題が解決されたり、なんらかの癒やしが得られたりすることです。さまざまな研究や調査によって、読書にはストレス軽減や、共感力の育成など、多くの効果があることがわかっています。「セラピー」といっても気軽なもので、題材は小説や自己啓発書に限らず、実用書、絵本、詩集、マンガなど、何でもかまいません。たとえば、マンガの主人公に勇気づけられる、人づきあいで悩んだときにコミュニケーションの本から解決のヒントをもらう、といったことも読書セラピーの一種です。

読書の効用は世界が注目しています。イギリスでは国として本を処方する取り組みがなされ、イスラエルでは読書セラピストが国家資格として存在しています。

──イスラエルでは国家資格があるとは驚きです! 2021年に『心と体がラクになる読書セラピー』を執筆した背景は何でしたか。

もともと日本読書療法学会として、さまざまな研究結果をもとに読書の効用をまとめた『読む薬』の監修を務めていたほか、『うつの世界にさよならする100冊の本』を執筆していました。読書セラピーを学びたい方向けに勉強会や講演をすることが増え、その資料をまとめようと思っていたタイミングで、「寺田さん自身の本を出してみないか」と編集者の方が声をかけてくれました。それが執筆のきっかけです。

『心と体がラクになる読書セラピー』
 著者:寺田真理子
 出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
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「人間的なやりとり」を取り戻したい

──本書を発刊されたときから、読書について新たな動きはありますか?

本によって癒やされた経験が「読書セラピー」の一種だという認識が広がっていったように思います。特に「読書で癒やされた経験を共有する場が大切だと気づけた」という声も寄せられました。

本の内容理解や勉強を目的として、学びを共有する機会はよくあります。それに対し、本を通じて自身を癒やし、その思いをわかち合う場があってもいいんだ、というのが、多くの方にとって発見だったそうです。自分にとって切実なテーマであればあるほど、他者に気軽に共有できないもの。ですが、本を媒介にすれば、自分の思いを話しやすいという声もあります。

最近の読書全般の動きとして、社内で図書館をつくる動きや、個人の蔵書を持ち寄って「まちライブラリー(図書館)」をつくる動きが広がっています。後者は、個々人の独自の書棚ができ、本をきっかけに対話やお茶会が生まれています。

こうした動きが活発になっている背景に何があるのか。世の中で資本主義化が進み、効率化の波にのまれて、どこか心が渇いていく部分があるのではと思います。人間的なやりとりが失われていることへの反動というのでしょうか。本を媒介にして、深いつながりを取り戻したいという思いがあるのだと思います。

倍速視聴は、「感情を揺り動かされたくない」から

──いまはタイパ(タイムパフォーマンス)の時代といわれ、効率化が重視されています。ビジネスパーソンの読書にも何か影響があるのでしょうか。

実は、以前は映画や読書などでタイパを追求することに疑問を抱いていました。映画を倍速で視聴したら、登場人物の心の機微をつかめなないし、作品をちゃんと味わえないのではないかと。ですが、『映画を早送りで観る人たち』を読んで、驚く発見がありました。

倍速視聴や10秒飛ばしをするのは、単に効率化を求めているだけではない。映画1本1本に感情を揺り動かされて、疲れるのを避けたいというのです。これは映画だけでなく本など他のコンテンツも同じ。「ちゃんと味わわない」ことで、感情の消費量を節約している。「大量のコンテンツを消化しないといけない」というプレッシャーに、それほどまでに追い込まれ、疲れてしまっている姿が浮かび上がってきました。

──なるほど。フライヤーのユーザーはスキルアップに意欲的な方が多いですが、要約ランキングで、「ストレス緩和」「癒やし」「自己肯定」につながる本がランクインすることが増えました。フライヤーとしては、情報収集の時短効果だけでなく、豊かな読書体験の時間を届けたいという思いがありますが、こうしたプレッシャーへの疲れとも何かしら関連があるのでしょうか。

本に求めるものは人それぞれですが、ストレス緩和や癒やしにつながる本を志向するのは、一見無駄に思えることも大事にしたい、という気持ちの表れかもしれませんね。

手っ取り早く身につけられるものばかり追い求めていると、人間としての魅力が減っていくように思います。人間の魅力は一見「無駄な部分」に宿るものです。無駄をそぎ落として効率化のみ追求していくと、それは「いかに早く死ぬか」に行きついてしまいます。

もし常にタイパを意識するようなら、「そもそもなぜ効率化したいの?」と自分に問いかけるような読書の機会があるといいなと思います。

自己肯定感を上げてくれるのは、 “禅の教え” を体現した「パンダ」の絵本

──ビジネスパーソンの数ある悩みの中で、「自己肯定感が下がってしまう」という悩みをよく聞きます。私自身もその悩みを抱えているのですが、こうしたときは、どんな本を読むといいでしょうか。

まずは、「どういうときに自己肯定感が下がりやすいのか?」を知ることから始めるとよいでしょう。一人ひとり状況も受け止め方も違うので、自己肯定感が下がったときの背後にある要因を考えて、それに合いそうな本を探せるといいと思います。「●●の言葉が気になるのは、親から長年いわれてきたあの言葉と通じるものがあるのかな」というふうに。

実は私も自己肯定感が低めなのですが、自分自身にあえて厳しいハードルを課しておきながら、「クリアできないのでは」と落ち込むことがよくあります。似た状況にある方には、次の3冊をおすすめします。

1冊目は『怠惰の美徳』。戦後派を代表する作家・梅崎春生さんが、自身がどれほど怠け者として生き抜いてきたのかを綴ったエッセイと短篇を集めた一冊です。冒頭から自分へのダメ出しの嵐。32歳になるのに2畳の部屋で寝起きしていて、ろくな文章も書けない。年若い新進作家の悪口ばかり、といった話から始まります。「雑巾にでもなって 生れてくれば よかったのに」など、表現も面白い。著者のダメっぷりにふれるうちに、「あ、これくらいでいいのか」と力が抜けていきます。

『怠惰の美徳』
 著者:梅崎春生
 編集:荻原魚雷
 出版社:中央公論新社
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2冊目は『今日こそ自分を甘やかす』。人気カウンセラー根本裕幸さんが、自分への厳しすぎる基準を緩める方法を具体的に解説した一冊です。「成果を上げているのに満足できない」という方に読んでいただきたいですね。

『今日こそ自分を甘やかす』
 著者:根本裕幸
 出版社:大和書房
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3冊目は『パンダはどこにいる?』。鎌倉・円覚寺の老大師が「禅の教え」をわかりやすく教えてくれる絵本です。主人公のパンダは、自分がパンダと知らないまま、愛され者のパンダへの憧れを募らせ、パンダになろうと修行を始めていく。あるとき、水たまりに映った自身の姿を見て、自分がパンダだと気づきます。そこから、自分らしくくつろいで生きるようになり、周囲の人も癒されていくというお話です。

禅の世界には「無事是貴人(ぶじこれきにん)」という言葉があります。これは「あなた自身が仏ですよ」という意味です。「自分の外に向かって求めなくても、そのままのあなたで十分にすばらしい」といった意味だととらえています。自分に求める基準が厳しいと、完璧に準備しなくてはと思いがちですが、今のままで十分だと安心感を与えてくれることでしょう。

『パンダはどこにいる?』
 著者:横田南嶺
 イラスト:横山由馨
 出版社:青幻舎
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人生の源は、「ワクワクすること」にある

──寺田さんの人生観に影響を与えた本は何でしたか。

3冊あって、1冊目は『ソース~あなたの人生の源は、ワクワクすることにある。』という本です。一般的な自己啓発書では、「優先度をつけよう」「意思決定はすばやく」などと書かれていますよね。ですが、この本では逆説的な教えが推奨されています。「決断は後回しにしていい」「やる気が出るまでぐずぐずするのはいいこと」といった具合です。

この本を読んだのは、外資系企業の通訳の仕事がハードで、仕事をやめた時期です。当時は効率至上主義にどっぷり浸かっていたので、真逆の世界観に衝撃を受けました。私たちは、たとえ会いたい人がいても、出向いていくことの費用対効果を考えはじめて気持ちがしぼんでしまうことも。ですが、そんなことを考えずに、「会いたい」という気持ちに素直になったほうが得られるものは多い。「自分がワクワクすること(ソース)」にこそ、人生を活性化させる力が宿っているのだと学びました。

『ソース~あなたの人生の源は、ワクワクすることにある。』
 著者:マイク・マクマナス
 翻訳:ヒューイ陽子
 出版社:ヴォイス
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2冊目は『心の杖ことば366日』。恩師である松原泰道先生が、禅語や和歌、川柳から「心の杖」になることばを一日一言綴った上下巻の本です。「粗(そあら)なることばをなすなかれ(荒々しいものの言い方はいけない)」といったことばが印象的で、10年間毎日のように読み返し、そのたびに心の手入れになる一冊です。

3冊目は、私に古典の面白さを教えてくれた清川妙先生の『兼好さんの遺言』という本です。印象的だったのが、「死は前よりしも来たらず、かねてうしろに迫れり(死は前のほうから来るとは限らない。気づかないうちに音もなく、すぐ後ろに迫っている)」という死生観を表す言葉。でも、その事実に打ちのめされるのではなく、だからこそ「存命の喜びを味わおう(日々を楽しんでいこう)」というスタンスに励まされました。日々スキルアップをして上をめざしていても、うまくいかないこともある。そんなとき、『徒然草』のような思想とそこから得た言葉が自分の軸にあると、支えになってくれるように思います。

『兼好さんの遺言:徒然草が教えてくれる、わたしたちの生きかた』
 著者:清川妙
 出版社:小学館
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──最後に、寺田さんの今後のビジョンをお聞かせください。

日本読書療法学会は、読書会を開催していて、そのファシリテーションができる方を増やしたいなと考えています。私自身も4年もの間、毎月読書会を開いているのですが、当日本を読んだのは1行だけになるほど、参加者の方々とのお話が弾むこともありました。それくらい、本を介して、親しい人にはかえって話しにくいようなことを打ち明けられて、そして他の参加者もそれを受け止められる場になっています。

孤独感や不安を抱いている方も多いですが、受容してもらえる場があるだけで心と体がラクになります。そんなサードブレイスというか、安心して集えるセーフティネットを全国各地につくれたらと思います。

『古典の効能』は、遠き世の、しなやかな人々の生き方を、『万葉集』『枕草子』『古事記』から紹介する寺田さんの古典エッセイです!

『古典の効能』
 著者:寺田真理子
 監修:林望
 出版社:雷鳥社
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寺田真理子(てらだ まりこ)

日本読書療法学会会長

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演・執筆・翻訳活動。読書によってうつから回復した経験を体系化して日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。また、うつの体験を通して共感した認知症について、著書や訳書、全国各地での講演活動を通じてパーソンセンタードケアの普及に力を入れている。介護施設や病院の研修、介護・福祉関連団体主催セミナーの講演で多数の実績があり、日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラーとしての知識を生かした内容が高く評価されている。

出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。

仏教を松原泰道老師に、万葉集や枕草子、徒然草などの古典を清川妙氏に師事。

著書に『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)、『翻訳家になるための7つのステップ』(雷鳥社)など。訳書に『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと』(Bricolage)、『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)、『虹色のコーラス』(西村書店)など多数。

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flier編集部

本の要約サービス「flier(フライヤー)」は、「書店に並ぶ本の数が多すぎて、何を読めば良いか分からない」「立ち読みをしたり、書評を読んだりしただけでは、どんな内容の本なのか十分につかめない」というビジネスパーソンの悩みに答え、ビジネス書の新刊や話題のベストセラー、名著の要約を1冊10分で読める形で提供しているサービスです。

通勤時や休憩時間といったスキマ時間を有効活用し、効率良くビジネスのヒントやスキル、教養を身につけたいビジネスパーソンに利用されており、社員教育の一環として法人契約する企業も増えています。

このほか、オンライン読書コミュニティ「flier book labo」の運営など、フライヤーはビジネスパーソンの学びを応援しています。



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