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「ハマスの虐殺が汚名返上の『絶好の機会』になる組織へ」

ニューズウィーク日本版 2023年10月27日 17時45分

<イスラエルの法学者・弁護士が寄稿。この20年、無能力やプロ意識の欠如、政治的バイアスのせいで信頼を失っていたのがICCだ――>

2023年10月7日はイスラエル史上、最も血にまみれた日になった。

国際刑事裁判所(ICC)にとって、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルで行った虐殺は、汚名返上の絶好の機会だ。恐るべき犯罪の責任者を直ちに訴追しなければならない。

戦争犯罪や人道に対する罪に問われる個人を訴追する機関として設立されたICCはこの20年ほどの間、無能力やプロ意識の欠如、政治的バイアスのせいで信頼を失っている。今こそ、正義のための闘いにおいて、正しい側に立つチャンスだ。

あの日、ハマスは民間人に対する前代未聞の暴力と蛮行を詳細に記録した。大量の動画、法科学的証拠や証言が存在し、指導部は自らの犯罪責任を誇らしげに主張している。

ハマスが撮影した動画は、児童や音楽フェスに集まった若者、中高年女性や老人を追い詰め、殺害する様子を捉えている。犠牲者の遺体を引き回し、拉致した捕虜を殴打したり、レイプしたりする場面もある。

一方、「犯罪現場」には兵士や民間人の遺体が残され、その多くは残酷な拷問が行われたことを示していた。手を縛られて焼かれたり、頭部を切り落とされた犠牲者もいる。

攻撃の生存者は、子供が殺されるところを親やきょうだいが、親やきょうだいが殺されるところを子供が、銃を突き付けられて目撃させられたと証言している。

いずれも犯罪の圧倒的な証拠だ。訴追の条件は十分にそろっている。

イスラエルの報復は「正当」

確かに、ICCの管轄権をめぐって疑義を唱える余地はある。パレスチナが主権国家でないなら、ICCの管轄権行使の対象にならないのでは?

だが2015年、パレスチナはICCにイスラエルの訴追を求め、ICC設立条約であるローマ規程に加盟している。221年には、ICC判事らが「パレスチナの状況」はICCの管轄下にあるとの判断を下した。

つまり、もはや言い訳は残されていない。2021年のICCの判断は(当然ながら)批判を受けているものの、パレスチナ人による犯罪の訴追を回避するため、今さら態度を変えて管轄権を否定することは許されない。

矛先をそらすべく、ハマスはイスラエルを非難する。ガザ地区の保健省などに言わせれば、イスラエルの報復攻撃は民間人を標的にしている。イスラエルには倫理規定や法的審査(標的決定に当たっては、軍内の法務官の承認が求められる)が存在し、そうした攻撃は事実上不可能にもかかわらず、だ。

封鎖措置といったイスラエルの正当な戦闘方法は、国際法で禁じられているとの主張もある。

こうした非難は、イスラエルのような被侵略国に(たとえ敵側の民間人が大勢死傷しようと、標的が正当である限り)自衛権行使を認める国際法を愚弄している。イスラエルとハマスを比べるのは、倫理的におぞましい。イスラエル軍は、NATO部隊が各地で採用してきた法的慣行に倣っている。対照的に、ハマスの残虐行為は法的に弁護不可能だ。

必要次第ではICCに迅速な行動が可能なことは、既に示されている。今年3月には、ウクライナでの戦争犯罪の疑いで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とロシア当局高官に瞬く間に逮捕状を出した。

ICCは名誉を挽回し、国際的な司法機関としての信頼性を取り戻す唯一無二のチャンスを手にしている。

ここで立ち上がらなければ、批判派の意見が正しいと再び証明されることになるだろう。ICCは政治的で偏見だらけの無能な組織だ、と。

アビ・ベル(イスラエル・バルイラン大学法学教授)、アブラハム・シャレブ(弁護士)

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