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イスラエル側の犠牲者だけが犠牲者と認められる異常性...パレスチナ人の悲劇に沈黙する非道さ

ニューズウィーク日本版 2023年10月26日 16時40分

<イスラエル人の犠牲に同情しながら、パレスチナ市民の苦しみにも寄り添えるはずだ>

イスラム組織ハマスによる最初の奇襲攻撃の残忍さと規模を目の当たりにして、世界中から、特に欧米を中心とする西側から、イスラエルに向けて同情と連帯が沸き上がった。

一方で、パレスチナ自治区ガザ地区に暮らすパレスチナ人もまた、恐ろしいほど大量に命を落としている。イスラエルは大規模なテロ攻撃に反撃して大規模な空爆を開始。ガザはかつてないほど破壊されている。

それなのにパレスチナ人に対しては、同じような同情の声は聞こえてこない。アメリカは最近まで公式にはパレスチナ市民への配慮を示さず、国連の「戦闘の一時停止」を求める決議案に拒否権を行使し否決させた。イスラエルが事実上、制限なく軍事作戦を遂行することを認めている。

ガザ地区への水、食料、燃料、医療物資の供給を完全に遮断するというイスラエルの決定は、国際法上の重大な戦争犯罪になるはずだ。実際、ほかの国がやったときは、西側の政府高官は「純粋なテロ行為」と断じてきた。だが今回は西側政府から抗議はなく、擁護する声さえある。

パレスチナ側の犠牲者に同情や連帯を公に表明すれば、米政府高官から「テロリストの味方」をするのかと激しく非難される。アメリカの「ゼロサム政治」では、イスラエル側の犠牲者だけが犠牲者と認められる。パレスチナ人の命と苦しみと人間性は、イスラエル人の命と苦しみと人間性より価値が低い。

罪のない人々を殺害することと基本的な自衛の権利は、道徳的に等価ではないとされる。しかし、何が道徳的で何がそうではないのかという判断は、当事者の行動というより彼らのアイデンティティーに基づいて行われる。

ジョー・バイデン米大統領の言葉を借りればテロリストは「意図的に民間人を標的にする」が、アメリカやイスラエルなど民主主義国家は「戦時国際法を守る」とのことだ。

命を「ゼロサム」で考えるな

そして今、イスラエルにとって残虐行為に訴える好機が訪れた。イスラエルの政治および軍の指導者たちは、トラウマと屈辱、そして復讐願望に突き動かされている。

イスラエルのガラント国防相がガザに暮らす200万人のパレスチナ人を「動物のような人間」と呼び、国の指導者たちがガザを「無人島」にすると脅している事実は無視できない。彼らには実際にその手段と動機があるのだ。

リベラルで平等主義的な価値観の擁護者を自任する欧米の政府高官は、一部の人々の命にほかの人々の命より大きな価値を置いていると指摘されれば、間違いなく憤慨するだろう。

しかし、そうでも考えなければ、欧米の態度は理解できない。彼らはイスラエルが飢餓を武器として利用することに無関心で、500人の子供が爆撃の「巻き添え」で殺されることを容認している。

イスラエルは16年間にわたりガザ地区を封鎖しており、国連によれば既に「居住不可能」な状態だ。さらには、首を切り落とされた赤ん坊や集団レイプといった扇動的で虚偽の主張が、西側の政府高官やメディアによって無批判に流布されている。

思いやりと共感は、ゼロサムの類いではない。パレスチナ人の命、苦しみ、人間性を軽んじることなく、同時に、残忍な攻撃で死傷した何百人ものイスラエル人を哀悼することはできる。パレスチナ人を人間として扱わなければ、いかなる現実的な解決も不可能だ。

(筆者はワシントンの中東研究所でパレスチナ・イスラエル情勢プログラムのディレクターを務める)

ハリド・エルギンディ(米ジョージタウン大学非常勤教授)

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