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日本のテレビは幼稚なのに、専制国家イランは政府批判を堂々放送...違いはどこから?

ニューズウィーク日本版 2023年10月26日 17時5分

<低俗なバラエティーやドラマ、素人起用のワイドショー...日本には見るに堪えないテレビ番組が多い一方、イランでは弾圧されつつも政府批判を放送し、硬派な社会派ドラマも人気だ>

私は日本に住んで22年にもなるが、いまだに慣れないのは、英語で話しかけられることでも、役所で在留カードを見せろと言われることでもない。テレビ番組がどうしようもなく幼稚であることだ。

スイッチを入れれば、食べ歩き番組、たくさんの芸能人が大騒ぎするバラエティー、若いタレントが演じる能天気なドラマ、専門家でもない芸能人や元スポーツ選手が時事問題にコメントするワイドショー。テレビは娯楽だから楽しければいいじゃないかという意見もあるし、硬派な報道番組もあると言う人もいるが、いかんせん幼稚で見るに堪えない番組が多すぎる。

ちまたでは旧ジャニーズ事務所における性加害問題が大きな話題になっているが、結果的にこの問題が長年にわたり放置されてきた最大の原因は、テレビ局とスポンサーの視聴率至上主義だろう。高視聴率を望むスポンサーのプレッシャーのもと、テレビ局が手っ取り早く視聴率を稼ぐために人気アイドルを起用した番組を作り続けてきた。日本人はスポンサーもテレビ局の制作現場も視聴者も慣れてしまい、これが当たり前の番組制作、当たり前の番組だと思ってきた。だが日本を一歩出れば、全くそうではない。

スポンサーは物議を醸す番組を喜ぶ

イランでは、テレビ局は全て国営である。イランの強権的な政府の息がかかった放送局の番組なんて一方的で高圧的で見るに堪えない、というイメージを持つ読者もいるだろう。確かに政府に都合のよいニュースばかりが流れるが、はっきり物を言う国民性からか、政府や社会を批判し、揶揄するトークショーも同じくらい放送されるし、社会問題を扱う重い内容のドラマも多く、人気がある。

私がイランのドラマを見ていると、妻は近寄ってこない。「エンディングまでずっと暗いから」だそうだ。スポンサー(テレビ局は広告収入と国からの予算で運営されている)もそうした社会問題を扱ったり、政府を批判したりする番組に資金を出すし、物議を醸す番組のスポンサーとなることを喜ぶ。

例えば1999年から続いていた人気サッカー番組『ナバド』は、司会者のアデル・フェルドシプールの社会やサッカー業界・スポーツ省へのジョークを交えた鋭いコメントで知られていた。2019年の番組終了後も彼はネット配信の番組を立ち上げ、多くのファンを獲得している。

イラン女性の人権問題でニュースになったように、声を上げる人は逮捕され投獄されるケースも多い(検挙されるかどうかの線引きは実に曖昧だ)のだが、それをかいくぐって発言するテレビ出演者は多いし、テレビ局もそれを容認する。政府が厳しい社会であるからこそ、テレビは声を上げて批判をし、視聴者もそれを支持する。イラン人も新しいもの好きで、食べることが大好きだが、日本のような食べ歩き一辺倒、アイドル一辺倒の番組構成はあり得ない。

では、日本は平和で社会問題もなく、多くの人が幸福に暮らしている社会だから、こんなにフワフワした番組ばかりが制作されるのだろうか。そんなはずはない。日本にも社会問題はある。経済格差、教育現場の疲弊、福島第一原発の処理水、少子高齢化、子供の貧困や虐待、政府の債務の拡大。どれも一朝一夕に解決できるものではないし、考えると気持ちが暗くなるが、それでももっと番組で取り上げられ、真剣に議論され、ドラマのテーマにもなるべき問題だ。

ただそのような番組を制作しても、もはや高い視聴率は望めないのかもしれない。そういった番組は日本では望まれていないのだろうか。日本人が物を考えなくなったからテレビが幼稚になったのか、テレビが幼稚だから日本人が物を考えなくなったのか、どちらだろう。

石野シャハラン
SHAHRAN ISHINO
1980年イラン・テヘラン生まれ。2002年に留学のため来日。2015年日本国籍取得。異文化コミュニケーションアドバイザー。YouTube:「イラン出身シャハランの『言いたい放題』」 Twitter:@IshinoShahran


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