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風雲急、中東に展開する米空母打撃群と最新鋭の中国海軍はどちらが強いか

ニューズウィーク日本版 2023年10月26日 19時51分

<海軍力の増強と中東での覇権拡大を進める中国海軍が、中東情勢緊迫で派遣された2つの米空母打撃群とあい見える時>

10月初めに中東で新たな戦争が勃発し、東地中海は風雲急を告げているが、この海域では米軍のみならず中国も軍事的プレゼンスを維持している。ただ「リーチ(軍事作戦を展開できる到達範囲)では、中国軍は米軍に遠く及ばない」と、アメリカがさらなる資源をこの紛争地域に送り込むなかで、軍事専門家が本誌に語った。

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10月7日にパレスチナの武装組織ハマスがイスラエル領内に大規模な奇襲攻撃をかけて以来、アメリカはこの地域における軍事的プレゼンスを大幅に拡大してきた。7日以降イスラエルはハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザに連日空爆を行い、地上侵攻の準備を着々と進めている。対してハマスはイスラエル各地をロケット弾とミサイルで猛攻。今なお多数のイスラエル人を人質としてガザ地区内に拘束しているとみられる。

米軍は2群の空母打撃群を東地中海に移動させ、それに伴いイスラエルにTHAAD(高高度防衛ミサイル)砲兵隊を配備し、「地域全体で米軍部隊の防護を強化するため、防空システムのパトリオットを運用する大隊を追加派遣」したと、ロイド・オースティン米国防長官は発表した。米軍の各部隊には派遣準備命令が下り、10月24日にはF16戦闘機の飛行隊が現地入りした。

敵対勢力に対する強固な意思表示

アメリカはまず空母「ジェラルド・フォード」を中心とする空母打撃群を東地中海に移動させ、続いて空母「ドワイト・アイゼンハワー」率いる空母打撃群にも「長期」の派遣でこの海域に向かうよう命じたと、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー報道官が発表した。

「米軍はこの地域において、使用可能な相当量の火力を保持することになる」と、独立系の軍事専門家パトリック・フォックスは空母打撃群の派遣前に本誌に語った。

空母打撃群の派遣により、米軍は「世界中どこでも、到着後すぐに、単独で作戦を開始」できると、24日の記者会見で米国防総省の高官は述べた。空母打撃群を「どこかに派遣する時、われわれは(同盟国に支援の意思を伝えるとともに)、敵対勢力に極めて強固な(牽制の)メッセージを意図的に送ろうとしている」と、国防総省幹部らは付け加えた。

だが中東でプレゼンスを誇示しているのは米軍だけではない。中東諸国がイスラエルとハマスの戦闘激化を固唾を飲んで見守る中、中国海軍の艦船もペルシャ湾とオマーン湾を航行している。

中東には今、中国海軍の艦船6隻が派遣されている。この6隻は第44次と45次護衛艦隊の船だと、米シンクタンク・ランド研究所欧州支部で防衛・安全保障調査を担当するブルース・スパーリングは本誌に話した。

スパーリングによれば、護衛艦隊は駆逐艦、フリゲート艦、補給艦の3隻から成り、現在は「第44次の中国帰還を前に、第45次に任務の引き継ぎを行なっているところだ」という。

    

中国は多大な資源を注ぎ込んで海軍力の増強を推進し、わずか数年で大幅に規模を拡大した。今もその勢いはとどまることを知らないようだ。この動きに、アメリカは神経を尖らせている。先週発表された米国防総省の年次報告書によると、中国海軍が保有する軍艦と潜水艦は370隻に上り、今や「艦船の保有数では世界最大の海軍」となっているという。

「これらの艦船は実戦で試されたことは一度もないが、高度な性能を誇り、中国海軍の先端技術導入が急ピッチで進んでいることをうかがわせる」と、スパーリングは言う。「この状況下で戦闘地域の周辺海域に6隻の最新鋭艦を派遣できる国は、世界を見回しても数えるほどしかない」

とはいえ中国軍が「到達範囲で米軍に追いつくには、まだまだ時間がかかる」と、スパークリングはみる。東地中海に展開する米海軍の空母打撃群は中国の艦隊より大規模かつ強力で、特に艦載機による空からの攻撃が可能な点が大きな違いだという。

アデン湾派遣の狙い

「米軍が世界中に築いてきた基地と各国の軍隊との連携ネットワーク、さらには世界各地で作戦行動を展開したことで得た経験知を考慮すると、中国軍とはメジャーリーグと草野球ほども差がある」と、スパーリングは言う。「中国軍が追いつけ追い越せと必死に頑張っても、現状ではいつの日か米軍に追いつくことさえ望めそうもない」

中国の艦隊はイスラエルとハマスの戦闘を受けて派遣されたわけではない。中国海軍はアラビア半島とソマリア半島の間のアデン湾に「長期にわたり」護衛艦隊を交替で派遣しており、今いる6隻もその一部だとスパーリングは説明する。海賊の活動を抑止し、重要な海上輸送ルートを守るためでもあるが、本国から遠く離れた地域に軍隊を送り込み、その経験を通じてノウハウを蓄積する狙いもあるとみられる。

「中国人民解放軍海軍の艦隊は、護衛任務と友好訪問のため関係各国を訪れている」と、在米中国大使館の劉鵬宇(Liu Pengyu)報道官はロシアの国営メディア・スプートニクに語っている。「関連諸勢力は事実を尊重して、こうした訪問について根拠なく(覇権拡大だと)騒ぎ立てることをやめるべきだ」

第44次護衛艦隊は22日に「友好親善」のためクウェートを訪れ、その後クウェートの巡視船との合同演習を行う予定だと中国軍が発表した。その前にはオマーンを訪れ、やはり合同演習を行って14日に出航した。

第44次艦隊と近々交替する第45次艦隊は、誘導ミサイル駆逐艦「ウルムチ」、ミサイル・フリゲート艦「臨沂」、補給艦「東平湖」から成ると、中国国営の新華社通信は伝えている。



エリー・クック(本誌安全保障担当)

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