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ポーランドのエネルギー革命、原発への巨大投資をもたらす過去の幻影

ニューズウィーク日本版 2023年10月27日 14時27分

<対立を繰り返してきたリベラルと保守だが原発導入では一致。ただしEUで最も化石燃料に頼る国での実現は不透明だ>

ポーランドに今後、さまざまな変化が起きそうだ。10月15日に行われた総選挙の結果、リベラル派「市民連立」が率いる野党連合が政権を握る可能性が高まってきたのだ。対EU関係から女性の権利に至るまで、長いこと政権を握ってきた保守派と市民連立の間には大きな隔たりがある。

だが国内政策で両者の意見が一致している分野が少なくとも1つある。近く原子力エネルギーを導入することだ。

筆者はこの10月にポーランドの首都ワルシャワを訪れ、各省庁やシンクタンクを取材した。そこで話を聞いた人々のほとんど全てが、原発導入を大々的に進める計画を誇らしげに語った。

その計画が道理にかなっているかどうかは、また別の問題だが。ポーランドはエネルギーの80%近くを化石燃料に頼っている。EUで最も高い数字だ。

ドイツとポーランドの国境地帯を流れるオーデル川の両岸を見ると、ドイツ側は巨大な風力タービンや太陽光パネルがずらりと並んでいるのに、ポーランド側はまばらだ。

だが、もうポーランドは気候変動の危機を否定も無視もしていない。それどころか、この問題の答えを手にしているとさえ自負している。

「わが国のエネルギー政策は、やがて再生可能エネルギーと原発の2本柱になる」と、ポーランドのアダム・ギブルジェチェトウェルティニュスキー気候環境副大臣は語った。

保守派の現政権は先頃、今後数年でフルサイズの原子炉8基と、最大100基の小型モジュール炉(SMR)を建設する計画を発表した。既にポーランド初の原発となる加圧水型炉(PWR)1基の建設準備が始まっており、9月には国営エネルギー企業が米エネルギー大手ウェスティングハウス・エレクトリックとベクテルの企業連合との間でAP1000加圧水型炉の開発契約を結んだ。

10年後には稼働開始の予定で、建設費は200億ドルを超えそうだ。

原子炉建設の財源は?

ワルシャワのシンクタンク「フォルム・エナジー」によれば、昨年は電力供給の21%が環境に優しいテクノロジーによって賄われた。この控えめながらも確かな進展には、政府の助成金プログラムによって太陽光発電設備の設置が過去3年で急増したことが影響している。

いまポーランドでは住宅の4分の1が、太陽光パネルを設置している。政府が助成金を昨年中止しなければ、さらに普及しただろう。調査によればポーランド国民の約60%が地球温暖化は「人災」だと理解し、気候変動対策を価値あるものと考えている。

次期政権を率いるかもしれない市民連立は、2029年末までに主な電力源を石炭から風力、太陽光と原子力に移行させると宣言している。

とはいえ政権交代によって、ポーランドの石炭使用の段階的廃止が加速されるかどうかは分からない。現在は49年までの廃止が計画されている。

この目標は、もっと早めなければEUの気候変動対策の妨げとなり、ポーランド経済にも打撃が及ぶだろう。これまでポーランドは家庭用太陽光パネルの普及という小さな革命を達成しながら、発電所規模の太陽光発電施設や風力発電施設、次世代送電網や蓄電技術の展開には着手しようとしなかった。

「政府はエネルギーの移行を一貫して妨げてきた」と、シンクタンク「インストラト」のミハル・ヘトマンスキ所長は言う。「基本的に政府は、原子力を導入するまでは石炭で賄うという考え方だ」

筆者はギブルジェチェトウェルティニュスキーと会ったときに、アメリカで過去45年間に建設・運用された原発はわずかしかないと話した。これは原子炉の建設に法外なコストがかかるためだ。

アメリカで運用された最も新しい原発は、米ジョージア州のボーグル原発。そこにある2つのAP1000原子炉は、ずさんな管理や監視の不備から建設費用が250億ドルを上回り、主契約業者のウェスティングハウス(ポーランドの契約相手と同じ企業)が一時、経営破綻に陥る事態を引き起こした。

アメリカが建設費用を捻出できないのに、ポーランドはどうやって108基の原子炉の建設費用を賄うのか。私のこの問いにギブルジェチェトウェルティニュスキーは、政府が460億ドルを拠出予定で、それに加えてアメリカの援助もあるはずだと説明した。

さらに彼は、14年のロシアのクリミア併合以降、ポーランドはロシア産の化石燃料から速やかに脱却したと説明。最後に、原発の展開は極めて迅速に行えるだろうとも真顔で語った。

大型原子炉は建設から稼働開始まで約7年半、より小型ならはるかに短期間で可能なのだという。

夢の後押しをする理由

この期間の見通しについて、彼は極めて楽観的だ。だがヨーロッパで15年ぶりに建設されたフィンランドの原子炉オルキルオト3号機は、建設開始から稼働までに17年を要した。これは当初の計画の3.5倍に当たり、建設費用も当初予定の3倍近くに膨らんだ。

より小型な原子炉SMRについては、同様の技術を使用した原子炉はいまロシアと中国の計2基しかない。SMR建設の認可を取得しているの米ニュースケール社だけで、大口投資家が見つからなければ試験導入プロジェクトを進められない。

米コロンビア大学グローバルエネルギー政策センターのマット・ボーウェン上級研究員は「過去に一つも建設されていないので、SMR技術はまだ実証されていない」と独立系メディア「エナジー・モニター」に語った。「SMRの建設が(ボーグル原発の)AP1000建設と同様の事態を招くなら、あまり多くは建設されない可能性が高い」

ポーランドをはじめとする中・東欧のエネルギー関連組織・企業は極めて保守的で、多くが共産主義時代の考え方を引きずっている。ヨーロッパ各地に多くの研究や成功例があるのに、100%再生可能エネルギーや次世代送電網、蓄電容量、水素や需要を制御する需要応答戦略に基づくエネルギーシステムの運用が可能だと理解できていない。

ポーランドに4社しかない国営電力会社が石炭に多額の投資を行っていることも、状況改善の助けになっていない。頼りにしてきた石炭の存在が脅かされれば、これらの企業の利益は減る。

だからこそ彼らは、原発を夢見る人々の背中を押している。夢に終わることを知っているからだろう。

From Foreign Policy Magazine

ポール・ホッケノス(ジャーナリスト)

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