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嫌われる人の「会話」には、明らかな共通点があった...いい人間関係を作るため絶対に避けるべきこととは?

ニューズウィーク日本版 2023年11月1日 17時0分

<「未来視点」で作る望ましい人間関係について、人気の書籍『否定しない習慣』著者である林健太郎氏にインタビュー>

否定しない習慣──。このタイトルにドキッとした方は多いのではないでしょうか。楽しく会話しているときに「ちがくて」と話を折ってしまったり、相手がしてきた提案に対して「もっとこうしたらいいんじゃない?」と言葉をかぶせてしまったり。私たちは様々なシーンで「否定」を日々したりされたりしています。そんな中、2022年12月に発売された『否定しない習慣』(フォレスト出版)は、数あるコミュニケーション本のなかでも「否定しない」に着目した話題の書籍。ビジネス書の枠を越え、老若男女はばひろく手に取られている一冊です。「否定」はコミュニケーションにどんな影響を及ぼし、相手を否定しないためにはどうしたらいいのでしょうか。エグゼクティブ・コーチとして活躍する著者の林健太郎さんにお話を伺いました。(この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です。)

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誰もが否定したりされたりしている

──今回、本のテーマに「否定しない」を選ばれた理由をお聞かせください。

企画の打ち合わせをしている中で、「否定しないっていうコンセプトはどうだろう」という話が出てきました。私はコーチングを仕事にしているのですが、コーチングというとちょっと硬いイメージがありますよね。「否定しない」はコーチングのコンセプトにも合うし、多くの人に興味を持ってもらえるテーマではないかと思いました。

あとは、ターゲティングしやすいというのもありましたね。否定されたことない人はいないだろうし、否定したことがない人も一人もいないと思います。そういう意味では、全員が被害者であり加害者なんですよ。

『否定しない習慣』
 著者:林健太郎
 出版社:フォレスト出版
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──林さんは2010年にプロコーチとして独立されていますが、コーチングに目覚めたきっかけは何でしょうか。

私は海外生活の経験があって、それを言い訳にして生きているような人間だったんです。ことあるごとに海外と比較して「日本おかしいよね」とか「日本の政治は間違っている」とか。でも、偶然オーストラリア人のプロコーチにコーチングを受ける機会があったのですが、そのときに、「自分の解釈の仕方が間違っているのではないか」とハッとした瞬間があったんです。

それまでは自分は環境の被害者だと思ってきたんですけど、「周りで起きていることをどう解釈するか」で人生のクオリティは変わるかもしれないことに気がついたんです。そこからですよね。自分で何を変えられるのかを考えるようになりました。

──コーチングは「自分の人生のセンターラインを歩く」ためのお手伝い

コーチングで大事にしているのは「自律性」です。自分でやるということですね。例えば、お母さんに「宿題をやりなさい」って言われてやるのはやらされた経験であって、自分で選んで責任持ってやるということじゃないですよね。これは自分の人生を生きることとは違います。

自分がやりたいと思うからやる。うまくいったときの成果を享受するけど、うまくいかなかったときの責任も取るというのが、自分の人生のセンターラインを歩いていく、つまり「自分の人生を生きる」ことだと思います。だから、やると決めたけどやらなかったことも一つの成果ですし、それはその人に必要な経験です。

コーチングは失敗も含めて一つの「セット」なんですよ。失敗した、じゃあ次はどうするか。この積み重ねなんです。

──「否定しない」と「肯定する」は一見似ているように感じます。両者の大きな違いはなんでしょうか。

「肯定する」って一見良い行いに見えますけど、上下関係を無理やりつくっている会話とも言えます。肯定するっていうことは、それが良いという判断がある。だから関係性によっては対等に受け取られないこともあるし、場合によっては判断を押し付けていることもある。

「もう少しニュートラルに会話をつくれないか」っていうところがコンセプトですね。いいとか悪いとか言わないで、ニコッとすればすむんじゃない?みたいなね。何をいいとか悪いとかって判断すること自体を、ちょっと考え直してもいいと思うんです。

相手を否定するごとに関係性は悪化する

──「否定」は無意識であるゆえに、意識的な「褒める」「肯定する」よりも難しいように感じます。「否定しない」ことを習慣にするポイントがあれば教えてください。

何を目的にしているかですよね。その場の関係やそのときの自分の感情だけを考えれば、否定するということも有用な選択肢かもしれません。

場面によってはきっぱり駄目って言わなきゃいけないときもあるし、そのときの判断上必要なことを伝えるわけですけど。ただ、それで怒鳴られたとか、あからさまに否定されたと相手が感じることがあれば、それがたとえ善意だとしても関係性自体にはマイナスに働くはずです。

怖かった、怒られた、不満だった、悲しかった、と。そういうネガティブな感情が起きるので、それが積み上がっていくことは、長い関係を考えたときにはプラスにならない。否定することは、人間関係の発展性や良好な関係を妨げる要因になることは明らかなんですね。

エグゼクティブ・コーチ林健太郎氏(flier提供)

まず考えたいのは、「そのとき、なぜあなたが話すのか」ということです。おそらく自動反応的に言葉を発してしまいがちだと思うんですけど、それって本当に必要なのか、というところをまず考えたいですね。

「会話はキャッチボール」と言いますけど、みんな自分も相手もボールを持っているようなキャッチボールをしてますよね。相手からボールを受け取る前に「俺今日こういうことがあったんだけどさ」って投げてしまうような。

「今日こういうことがあったんだよ」ってボールがきたら、「そういうことがあったんだね」って丁寧に受け取る。それだけで、シンプルに否定しない会話ができます。そういう意味では、相手に対する好奇心をもちたいですね。「今日やけに言葉がチクチクしてるけど、何かあったのかな」とか。そういう裏読みしていくような好奇心があるといいと思います。

会話の69%には正解がない

本にも書いたのですが、およそ69%の会話には正解がないという統計データがあるそうです。今は多様性の時代ですし、相手を「間違ってる」と決めつけるのはちょっと危ない気がします。

例えば、部下が商談に遅刻してきたら「普通さ、最初の商談に遅刻してこないよね」と言いたくなりますが、部下にもそれなりの理由があるはずです。もちろんお客さんに迷惑をかけているなら注意すべきですが、不用意に非難することで、部下との関係性が悪化するという側面もまた事実です。

その両面を理解しておくと、後でリカバリーができますよね。「あのときは、こういう理由で言っちゃったんだけど、気悪くした?ごめんね。きっと事情があったんだよね、教えてよ」と。それだけでも全然違ってきます。

あとは、なぜ相手を否定してしまうかというと、「何か有意義なことを言わなきゃいけない」「価値提供しなきゃいけない」というプレッシャーがあると思います。そうしないと認められないと思っているというか。

でもね、あなたはそこにいるだけでも十分な価値を持っています。存在だけで価値提供できているということは、知っていてほしい大事なポイントです。

ポジティブな感情を先に伝える「イエス・エモーション話法」

──本書で紹介されている「イエス・エモーション話法」はとても気持ちのいいコミュニケーション法だと感じました。

言葉ってトレンドがあるので、使い古されていくんですよね。ちょっと前までは「イエス・バット(Yes, but)話法」(※相手の話を肯定したあとに「でもね」と否定の言葉をつなぐ話法)はとても良かった。でも、みんなやり口がわかってきちゃったんですね。そうすると、前に置いたポジティブさは何の意味もなくなってしまう。

そこで私が考案したのが「イエス・エモーション話法」です。「これやってくれたんだね、すごい嬉しかったよ」と、ポジティブな感情を先に伝えてしまうんです。

私達のコミュニケーションの中で、感情が語られないことへの不安って大きいですよね。例えば、あなたが部下として会社で働いているとしたら、上司の感情っていつも気になりませんか? 私たちは関係する人たちの感情を察することに意外と敏感です。だとすると、自分の感じている感情を先に伝えると安心するんじゃないかと。

ネガティブな感情を感じたときはどうするのかというと、それは言わなくていいです。ネガティブなことはわざわざ言わない。そのときは「仕事頑張ってるね」ぐらいで止めるっていうのがポイントです。

ビジネスでは否定することも必要、でもリカバリーを忘れずに

──ビジネスの場では常に成果を出すことが要求されます。心ならずも相手を否定してしまうシーンは多々あると思いますが、そんな上司に一言アドバイスをお願いします。

意図的に否定しないといけないときもあるので、そのときは鮮やかに否定してください。線引きがないと、上司やリーダーとして適切な判断や意思決定ができなくなるので、ダメなものはダメ、やり方が決まっているものは決まっていると、言わないといけないときもあります。否定すること自体がダメというわけではありません。

ただ、先ほども話したように、否定を一回するごとに関係性自体は悪化する方向に向かうので、何らかのリカバリーが必要です。時間が取れるときに改めてその方とレビューする時間を取る、面談する、あるいは一緒にご飯を食べるというようなことがリカバリーにあたります。

相手との関係性をきちっとつくっていくために、普段より時間を長く取って相手と丁寧に対話することは、あなたと相手との関係を育む「時間の先行投資」だと思ってください。ビジネス上必要な強い指示命令や助言は否定と取られがちですが、先に挙げたリカバリー策とのコンビネーションで、関係性をうまくつくっていくことが理想です。

──上司が否定してきたら部下はどう対応したらいいでしょうか。気持ちの持ち方を含め、対応策を教えてください。

残念ながら、感情が高ぶっているときは相手に何を言っても無駄なので、とにかくやり過ごすことを考えてはいかがでしょうか。「そういうこともあるよね」って自分を傷つけないマインドで受け流すといいのではないでしょうか。

そして、冷静な頃合いを見計らって、もう一回話しに行く。「あのとき言われたことなんですけど......」って。そういう歩み寄りがあると、よりまろやかなコミュニケーションがとれると思います。

「未来に種をまく会話」をつくりたい

──最後に、林さんが今後やっていきたいことを教えていただけますでしょうか。

お互いがどういう対話をするとうまくいくのかというような、ワンウェイではない対話ですね。お互いの関係性を良くするような、未来の関係性に種をまくような会話をどうつくるかということに、取り組んでいきたいと思っています。

『できる上司は会話が9割』
 著者:林健太郎
 出版社:三笠書房
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『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?』
 著者:林健太郎
 出版社:三笠書房
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林健太郎(はやし けんたろう)

リーダー育成家。合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ。一般社団法人国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。

1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、日本におけるエグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。2016年には、フィリップ・モリス社の依頼で、管理職200名超に対するコーチング研修を実施。日本を代表する大手企業や外資系企業、ベンチャー企業や家族経営の会社まで、のべ800人を超える経営者やビジネスリーダーに対してコーチングを実施。企業向けの研修講師としての実績も豊富で、フェラーリ社の日本の認定講師を8年間務めるなど、リーダー育成に尽力。『コーチング忍者の2分コーチング入門講座』など、斬新な切り口でコーチングを啓発中。

著書に『できる上司は会話が9割』『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?』(ともに三笠書房)がある。

https://number-2.jp/

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flier編集部

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