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ハマスの奇襲で「テロの時代」再び...テロ組織のリクルート活動が活発化

ニューズウィーク日本版 2023年10月31日 13時40分

<ガザ戦争でのハマスの「活躍」が、ISやアルカイダ、タリバンを刺激して新たなテロ攻撃の連鎖を起こすリスク>

イスラム組織ハマスがイスラエルで残虐なテロ攻撃を行った10月7日以降、欧州各地で過激思想に染まった不満分子による無差別テロが相次ぎ、テロ組織のリクルート活動が活発化している兆候がある。ハマスの大胆な攻撃に触発されて、イスラム過激派や反ユダヤ主義者が新たな攻撃方法を探っている可能性があると、情報機関は警戒を強めている。

アルカイダやIS(イスラム国)、タリバン系列の組織は鳴りを潜めたように見せかけ、ひそかに影響力を広げて襲撃の規模と残虐性を競い合っている。どの組織もメディアの注目を集めようと攻撃能力の誇示に余念がない。

結局のところテロ組織は新兵を募り、資金と武器を入手し、頼りになる後ろ盾を得るために、残虐極まりない襲撃を実行して世界にその名をとどろかす必要があるのだ。

テロ対策などのために機密情報を共有する英語圏5カ国(米英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)の協力の枠組み「ファイブアイズ」の情報機関トップが10月中旬、米カリフォルニア州で会合を持った。会合後に5カ国代表は共同声明を発表、中東で進行中の危機の直接的な結果としてテロの脅威が増大していると警告した。

この会合を主催したFBIのクリス・レイ長官は報道番組『60ミニッツ』で、「中東の流動的で緊迫した情勢は何らかの形でアメリカにも波及する恐れがある」と警鐘を鳴らした。「間違えてはいけない。今は危険な時代なのだ」

実際、ヨーロッパではイスラム過激派絡みの襲撃が相次いでいる。10月16日にはベルギーの首都ブリュッセルで行われたサッカーの試合中、市内でスウェーデン人のサポーター2人がテロリストに射殺される事件が起きた。チュニジア人の男がネット上でISのメンバーを名乗り、スウェーデンでコーランが燃やされたことへの報復だと犯行声明を出した。この男は市内のカフェにいるところをベルギーの警察に見つかり射殺された。

イタリアではISの新兵募集を行っていた疑いで2人の男が警察に逮捕された。ベルリンではシナゴーグ(ユダヤ教会堂)に火炎瓶が投げ込まれ、フランスではチェチェン共和国出身の男が高校教師を刺殺し、アラビア語で「神は偉大なり」と叫ぶ事件が発生。フランスではほかにも同様の事件が起き、当局がテロ警戒を最高レベルに引き上げた。

高まる脅威 欧州各国は警戒を強化(10月17日、銃撃事件が起きた翌日のブリュッセル市内) AP/AFLO

タリバンの復権が契機

10月7日の奇襲攻撃で世界を驚かせたおかげで、ハマスは今、数あるテロ組織の頂点に君臨している。国際NGO「過激派対策プロジェクト」の解説によれば、ハマスはイスラム主義とパレスチナ民族主義を折衷した過激思想を信奉し、イスラエルの破壊に執念を燃やす組織だ。

米英、EU、オーストラリア、ニュージーランド、日本はハマスを「テロ組織」に指定しているが、国連はそうしたレッテル貼りを控えている。

ハマスはイランから潤沢な資金と軍事援助を受け、その資金を活用してパレスチナ人の草の根の支持を取り付け、2006年にガザ地区で行われた最初の(そして今のところ最後の)選挙で勝利した。加えてカタールもガザにエネルギー・人道支援として資金を提供しており、おかげでハマスはガザ住民の支持をつなぎ留めているとの見方もある。

一方でテロ増加の背景としてはタリバンの影響も無視できない。21年に米軍がアフガニスタンから撤退し、タリバンが政権に復帰したことで世界中の過激派が大胆になったと、アナリストらは指摘する。

タリバン支配下でアフガニスタンは再び01年の米軍の侵攻以前のような「テロの温床」になった。タリバンの勝利は過激なイスラム主義者の間で誇らしげに語り伝えられていると、イスラム学者のモハマド・モヘクは言う。イスラム主義者は、タリバン復権の延長線上に「イスラエルの破壊」を位置付けているのだ。

モヘクによると、タリバンは教育制度を大幅に見直し、少年たちはマドラサ(イスラム神学校)で急進的なムラー(宗教指導者)から反イスラエルのレトリックを含む過激派のイデオロギーをたたき込まれている。訓練キャンプにはアラブ諸国からアルカイダ関係者が派遣され、新兵にイデオロギー教育をしている。

「タリバンの復権が、新しい世代の過激派戦闘員を訓練し教育する絶好の機会をもたらした」と、アフガニスタン政府の駐エジプト大使や大統領顧問を務めたモヘクは語る。

国連安全保障理事会の分析支援・制裁モニタリングチームは、アフガニスタンでタリバンの庇護下にある過激派グループを数多く特定している。その中には、再び活発化している旧アルカイダ勢力もいる。

アルカイダとハマスの指導者は21年にタリバンの勝利をいち早く祝福し、タリバンの最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダに忠誠を誓った。ハマスの指導者イスマイル・ハニヤは、タリバンの共同創設者でアフガニスタンの暫定副首相を務めるアブドゥル・ガニ・バラダルに電話をかけ、アメリカの「占領」が終わることは「全ての占領勢力の終焉への序曲であり、その最たるものがイスラエルのパレスチナ占領だ」と伝えた。

ISが世界で動き始めた

独立調査機関のアフガン・ピース・ウォッチによると、21年に米軍が撤退した際に放置された武器が、ガザ地区、インドのカシミール地方、パキスタンで見つかっている。

マイケル・マコール米下院外交委員長はCNNに、「タリバンがエルサレムを解放するために、彼らの言葉で言えばシオニストと戦うために、現地に行きたがっている兆候がある」と語った。モヘクは、既に100人以上のタリバンの狙撃兵がガザに派遣されているとみる。

ハマスの攻撃は、地域の戦争をエスカレートさせる可能性があるだけではない。それ以前に世界中のテロ集団が、ハマスが10月7日に行った大規模な殺戮に匹敵する攻撃を試みるかもしれないのだ。

「テロ組織は自分たちの力を見せつけなければならないという必要に駆られ、そのためにますます危険な存在になっていく」と、過激派対策プロジェクトのシニアディレクター、ハンスヤコブ・シンドラーは言う。

ヨーロッパでは、この1年に逮捕された多くのテロリストの共通項である「IS」に注目が集まっている。「ISは明らかに自分たちの関与を示そうとしている」とシンドラーは言う。ISはアルカイダから派生したスンニ派の武装組織で、14年にイラクとシリアにまたがる領域でカリフ制国家の樹立を宣言した。

治安筋によると、タリバンは競合相手であるIS傘下のグループ「ISホラサン州(IS-K)」の工作員をアフガニスタン国境近辺で追跡して殺害するために、米バイデン政権と協力している。

しかし、IS-Kは隣国パキスタンではかなり大きな影響力を持つ。7月30日には北西部のカイバル・パクトゥンクワ州で開かれた親タリバンの政治集会で爆弾テロが発生し、50人以上が死亡。IS-Kが犯行声明を出した。

ヨーロッパでISとIS-Kの工作員が動き始めたことに、安全保障当局と諜報機関は警鐘を鳴らすべきだと、シンドラーは指摘する。「今はハマス一色だが、ISにしてみれば面白くない。ニュースで取り上げられなければ、誰もカネを出してくれない」

From Foreign Policy Magazine



リン・オドネル(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)

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