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「いずれ地上作戦も実行」「ハマスはISと同等のテロ組織」...駐日イスラエル公使が語ったパレスチナ政策の行方

ニューズウィーク日本版 2023年11月1日 17時20分

<イスラエル側から見た、今回のハマスによる攻撃とイスラエルによる報復。2人の駐日イスラエル公使に話を聞いた>

2023年10月7日早朝、パレスチナ自治区ガザ地区からパレスチナの武装勢力(ハマスとイスラム聖戦)がイスラエルに数千発のロケット弾を発射した。それと同時に、1500人規模の戦闘員らがイスラエルに侵入し、一般市民を次々と殺害。音楽フェスの参加者多数を銃殺したり、住居にも侵入するなど外国人を含む市民が犠牲になった。さらに225人以上のイスラエル人が誘拐されて、ガザに連れ去られている。

10月25日の段階で、イスラエル国内で約1400人が殺害され、5240人が負傷したことがわかっている。

イスラエル政府は挙国一致の戦時内閣を発足。イスラエル国防軍は、ガザに向けて報復攻撃を続けている。ガザ保健省によれば、イスラエルによる空爆などでパレスチナ側にこれまで7000人以上の死者が出ている。今後、イスラエル国防軍による地上侵攻がどれほどの規模で行われるのかによって、巻き添えになる死者数は増える可能性も指摘されている。

いまだ予断を許さない状況のイスラエル・パレスチナ情勢。筆者は先日、イスラエル・ストゥルロヴ駐日イスラエル大使館公使に話を聞くことができた。

駐日イスラエル大使館公使「戦闘はまだ終わらない」

──今回の攻撃はこれまでとは何が違うのか。

今回の攻撃は、これまでと違う大きいスケールであり、これまでとは違うオペレーションで、これまでにない連携が行われ、かかっている資金の規模も違う。これまでイスラエルが経験したことがない規模である。

またかなり詳細に計画されたもので、現時点でわかっているところでは1500人以上ほどのハマス戦闘員がこれまでにない残虐性でテロを行った。イスラエル人の殺害方法や、イスラエル人をどのように最も怯えさせる方法で殺害するのかまで指令があった。またどのようにイスラエル人を誘拐するのかについても言及されており、死亡した戦闘員のポケットからそういう指示が書かれたメモが実際に押収されている。

まず言いたいのは、ハマスがテロ組織だということだ。しかも資金も豊富で支援も得ているかなり巧妙な組織である。多くの西側諸国がそう認識していて、この点は非常に重要だ。政治部門と軍事部門を持っているが、単なる武装集団ではなく、テロ組織だということを理解すべきだろう。

──今回は、ミサイルによる激しい攻撃も起きた。

集中的に短期間で行われた攻撃で、過去に経験したことのないレベルだった。実はガザからのミサイル攻撃は、戦闘員がイスラエル領内に潜入するため、人の注意をそらすためでもあった。巧妙な作戦だった。

──歴史的な争いは言うまでもなく、これまでイスラエルがガザ地区を押さえつけてきた過去があり、ガザからの攻撃はずっと頻発してきた。ただ今回はそんなレベルではなかった。

今回、ハマスの戦闘員は、イスラエル人を斬首したり、内臓を取り出すようなこともしている。それらの行為もハマスの指示書に書かれており、残忍性という意味でもこれまでとは違う。今回のハマスの計画性と目的、残忍さから、われわれはハマスが、IS(イスラム国)と同等のテロ組織であると認識している。

ハマスらは、いくつかのチームに分けて攻撃する計画で動き、それぞれの戦闘員が自分たちがどこを攻撃するのかもしっかりと把握していた。ハマス側の部隊は、道路などを破壊したり、ドローンで小さい爆弾を投下するといったことも実施している。さらに、イスラエル軍兵らが駆けつけるのを待ち伏せて返り討ちにするため、民間人の服装をしていたり、イスラエル軍の軍服を身に着けていたテロリストもいた。

何カ月もの計画が必要で、報道でもイラン国内やレバノン南部でハマスの戦闘員のための訓練が行われていたと報じられている。

テロ組織であるハマスはこれまでも長く活動してきた。ヨルダン川西岸地区からも、ガザ地区からも攻撃を実施している。実は被害を受けてきたのはイスラエルだけでなく、パレスチナ人自身もハマスによる攻撃の被害者になってきた。

──北部でもレバノンのイスラム武装組織ヒズボラから、イスラエルへ攻撃が続いている。

確かに、イスラエルがガザ地区への対応を行っている間に、北部ではヒズボラとの戦闘も激化している。イランと関係が深いヒズボラは、これまで220発以上のミサイルなどや、50発以上の対戦車誘導ミサイル(ATGM)でイスラエルを攻撃してきている。またイスラエルにヒズボラの戦闘員が侵入しようとするケースが数件確認されており、ドローンによる攻撃も起きている。銃撃戦も15件以上発生している。

──イスラエルの軍事力とハマスの攻撃力は非対称的で、軍実力で勝るイスラエルがガザ地区に対してやりすぎではないかとの批判もある。

われわれはパレスチナ人に恨みがあるわけではない。近年もガザに暮らす人たちには普通の生活を送れるようにして、ハマスが入り込む余地を無くそうとした。だが残念ながら、ハマスはそれを利用して今回の攻撃の準備をしていた。ハマスの戦闘員はわざと市民が暮らすインフラの下に隠れて活動をしている。

さらに今回、ハマスはガザの各地からミサイルを発射しているが、そのうち約550発のミサイルを誤射していて、それらはガザ地区内に着弾している。

──テルアビブに暮らすイスラエル人の知人からも「やはりまだ怖い」というメッセージが届いていた。いつになったら状況は落ち着くのか。

イスラエル国内では現在も、フラストレーションと怒り、失望があるのは確かだ。

いつ状況が落ち着くのかについては誰もわからない。公式な立場は明確だ。現状に対処し、ハマスという組織の基盤を破壊すること。つまり政治的にも軍事的にも、である。そう考えれば、地上作戦もどこかのタイミングで実行されるだろう。状況が揃うまで待機している状態で、そう考えると、戦闘はまだ終わらないだろう。

また北部も懸念だが、10月7日朝のハマスのテロ攻撃によって、イスラエルはさらなる挑発に対する忍耐力がかなり低くなっている。北部の動きは注目である。イスラエルの予備役についても、世界中からイスラエルを守る国防軍に参加するために大勢が集結し、予備役の数は140%以上にも増えている。

──今回、イスラエルがハマスの攻撃を食い止められなかったのは情報当局などに責任があるという批判もある。

これについては、これから調査が行われるはずで、それには時間がかかるだろう。現在は、まだ検証する段階ではない。

経済部門の担当公使が語った「日本への影響」

公使のインタビューは以上だが、実は筆者は先日、テレビ愛知の夕方のニュース番組に出演した際に、愛知県の企業がビジネス関係のあるイスラエル企業との連絡が滞っていると聞いた。それ以外にも今回の大規模テロを受けて、イスラエルとビジネスを行っている、または、これからビジネスを行う予定の日本企業など一部で不安が広がっていた。

そこでイスラエル大使館で経済部門を担当するダニエル・コルバー経済担当公使兼経済貿易ミッション代表にも話を聞いた。

──今回の大規模攻撃を受けて、10月10日に予定されていたイスラエル経済産業省ニール・バルカット大臣の来日が中止になった。日本とイスラエルのビジネス関係にどんな影響がでそうか。

一般的に戦争など混乱が起きると経済的にも対応しなければならないことが出てきますが、イスラエルの場合は対応に慣れているということがあります。ミサイルが飛来したり、国民が予備役に招集される状況にも、過去何十年という経験があるので、どう対応すべきかについてはわかっています。

実際に、イスラエル企業は、これまでと同じく日本企業ともミーティングを行っています。来日しているイスラエルの企業関係者もいますし、新しい契約が締結されたりもしています。またテクノロジー部門では、物品のやり取りではなく、ソフトウェアを扱うのでビジネスに支障はありません。

国民の中には緊急事態に対応しないといけない人もいるので、コミュニケーションがスローになっているところも一部あるかもしれませんが、引き続きこれまで通りのビジネスをしてもらえると思います。

◇ ◇ ◇

イスラエルとガザ地区では、まだ先行きが見通せない情勢は続くだろう。しばらくは、中東から目は離せない。


山田敏弘(国際ジャーナリスト)

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