Infoseek 楽天

共和党メルトダウン──自己顕示欲しかない「トランプ教信者」が地方から全米を乗っ取る

ニューズウィーク日本版 2023年11月3日 11時23分

<MAGA派と中道派の対立が地方レベルでも激化。来年の大統領選挙を控え、共和党は自滅の道をたどるか>

【動画】暴走トランプがここまで引き下げた共和党のレベル

米共和党の内紛は、連邦議会と州レベルの両方で激化し、党の未来像をめぐる戦いに発展しつつあると、米政治の専門家が本誌に語った。

いくつかの州では党が分裂しかねない対立が起き、連邦上下院でも重要な政治課題をめぐって強硬派と中道派が鋭く対立している。

共和党が多数を占める連邦下院では、つなぎ予算の成立をめぐって共和党強硬派の反発を買った前任のケビン・マッカーシー下院議長が解任され、以後3週間にわたってゴタゴタが続き、下院が機能停止に陥る異常事態となった。4人目の候補者であるマイク・ジョンソンが新たな議長に選出されて、ようやく決着がついたものの、ジョンソンはドナルド・トランプ前大統領のお墨付きを得た保守派。上院共和党のトップであるミッチ・マコネル上院院内総務と、ウクライナ支援をめぐって真っ向から対立しかねないと懸念されている。

共和党の内紛劇は地方レベルでも泥沼化の様相を呈している。

州共和党の有力者同士が泥仕合

ミシガン州ヒルズデール郡では、共和党内の「米国第一(アメリカ・ファースト)」議連のメンバーと、郡の行政委員を務めるブレント・レニンガー率いる派閥との対立が激化の一途をたどっている。

「米国第一」派は2020年の選挙で議席を獲得し、郡議会共和党の支配権を握ったが、2022年の中間選挙を前にレニンガー派が暫定執行委員会を設立し、主導権を奪還。「米国第一」派はこの動きを党規違反と主張し、今年8月にはレニンガー派とは別個に郡の党員集会を開催した。指導部の正統性をめぐる2派の対立は法廷闘争に発展している。

テキサス州でも共和党内の確執が深刻化し、州議会のデード・フェラン下院議長が同じ共和党のダン・パトリック副知事と泥仕合を繰り広げている。問題になったのは、パトリック副知事が政治資金団体「テキサスの自由を守る」から献金を受け、慈善事業に寄付したこと。

この団体の指導者が白人至上主義者で反ユダヤ主義者でもあるニック・フェンテスを事務所に招いて歓談したことをメディアが暴露したため、イスラエルがハマスと戦っているこの時期に、反ユダヤ主義者とつながりがある団体の献金を受けるとは何事かと、下院議長が副知事に噛み付いたのだ。

 

パトリック副知事はイスラエル・ガザ紛争を「自分の政治的な利益のために」利用したと、フェラン下院議長を非難し、辞任を求めている。

ニューハンプシャー州では、2020年の選挙でトランプに後押しされて連邦上院議員になったブライアント・メスナーがトランプに反旗を翻し、暴動や反乱に関与した者は公職に就けないと定めた合衆国憲法修正第14条を根拠に、「トランプは大統領選に出馬する資格なし」と主張。

これに対しクリス・エイガー同州共和党委員長は8月、「共和党は誰であれ候補者の出馬が制限されないよう戦う」と宣言し、メスナーとの対決色を鮮明にした。

バージニア州では、最近設定された第17選挙区における指名候補選びの方式をめぐり、共和党全国委員会のドーン・ジョーンズ立法委員長が州レベルの決定を不服として裁判を起こす騒ぎが起きた。

トランプの熱烈な支持者であるジョーンズは、同州のグレン・ヤンキン知事とジェーソン・ミジャレス司法長官(いずれも共和党。州民に人気があるヤンキンはトランプと距離を置いている)の求めに応じて州当局が第17選挙区では予備選ではなく党員集会で指名候補を選ぶ方式にしたことに待ったをかけたのだ。

党の団結は夢のまた夢

法廷はジョーンズの主張を認め、第17選挙区でも予備選が実施されることになった。ジョーンズはこれとは別に、州知事と州司法長官の圧力に屈したとして、同州の選挙管理委員会に対しても訴訟を起こしている。

本誌が10月31日に取材した2人の政治学者は、こうした地方における対立は全国レベルで共和党をむしばむ分断を反映していると述べた。

共和党の内紛は党の進むべき道をめぐる争いとも解釈できると、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの米政治研究所の創設者で所長のトーマス・ギフトは本誌に語った。

「州レベルでの共和党の数々の内紛劇を見ると、機能不全に陥っているのは連邦議会の共和党だけではないようだ。首都ワシントンで共和党をずたずたに引き裂いている(保守と中道の)対立は国中でこの党を分断していると見ていい」

「地方レベルの内紛の中には他とは無関係な個別の揉め事もあるだろうが」と断りつつ、ギフトはこう付け加えた。「全体として、党の今後の方向性をめぐる、より広範な対立が起きているという印象を否めない」

「下院共和党の状況をおおむね反映するように、全米各地で共和党の魂をかけた熾烈な戦いが繰り広げられている」と言うのは、英サリー大学の政治学の准教授で、『大統領になったトランプ/選挙遊説から世界の舞台へ』The Trump Presidencyの共同編集者であるマーク・シャナハンだ。「連邦レベルの対立が急速に地方に波及し、あちらこちらで派閥争いが起きている。2024年の選挙まで残り1年足らずというのに、現状では党の団結などとても望めない」

 

シャナハンによれば、「過去何十年も、州レベルでの共和党内の争いは、ウォール街や企業の利益団体から選挙資金を得ている金融族と、地元のカントリークラブで党内政治を行うような昔ながらの主流派との対立だった」という。

それが変わったのは2008年だ。「うまく組織化された草の根の過激な保守派・ティーパーティーの台頭をきっかけに共和党の右傾化が進み、州レベルの共和党の伝統的な中道派の威厳を剥ぎ取る保守派の活動が活発化した」と、シャナハンは言う。

共和党内の対立は何十年も前からあったとはいえ、トランプを熱狂的に支持するMAGA(Make America Great Againアメリカを再び偉大な国に)党員の存在が、党の分断を招く決定的な要因になっている。

シャナハンによれば、ここ数年で「MAGA活動家がティーパーティーに完全に取って代わった」。MAGA党員もティーパーティーと同様、保守的でキリスト教福音派の色合いも多少はあるが、むしろ「トランプ教の信者」と呼ぶに相応しい。

「彼らは、かつての党幹部のように地元の支持を固めようともせず、支持母体づくりもしない。その戦術はしばしば対立候補を誹謗中傷するネガティブキャンペーン頼みで、恨みや憎悪をパワーにしているように見える。全米各州には、2020年の選挙結果を否定し、いまだに法廷で争っている共和党員がどんなに多いことか」

どちらの派閥が勝つか

「MAGA党員は権力が欲しいだけで、社会を良くするために権力をどう行使するかにはあまり関心がないようだ」と、シャナハンは言う。「これはトランプ流のやり方だが、彼らは対立を解決するために有権者の意思を問うのではなく、裁判沙汰にしたがる傾向がある。また往々にして論理的な説得力ではなく、声の大きさで目立とうとする」

MAGA党員の自己顕示欲が招く内部分裂のせいで、共和党は選挙で大きな痛手を被ることになりそうだ。

有権者は地元の問題の解決を期待してMAGA派の候補者に投票したのに、彼らはトランプの流儀を真似て、国家レベルの大言壮語を並べたがると、シャナハンは指摘する。

「その結果、今の共和党は醜悪の極みのように見える。深い亀裂が走り、憎悪に満ち、極論が入り乱れる集団と化していて、2024年の選挙に向けて、州・自治体レベルで一貫性があり、有権者の共感を得られるマニフェストを打ち出すことなどとうてい不可能だ」

「党内闘争でどの派閥が勝つかは重要だ」と、ギフトは言う。「とりわけ、共和党はここ数十年、州議会と地方の行政当局で要職を抑え、大きな影響力を持ち」、選挙の区割りなどで民主党より有利な状況をつくれたからだ。

それも終わるかもしれない。醜悪な内紛劇のせいで、有権者に「混乱した政党」と見なされれば、共和党は地方レベルでこれまで握ってきた権力を手放すことになるだろうと、ギフトは予想する。

 



ダラ・ロシュ

この記事の関連ニュース