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日本政府は「省エネ推進」のはずなのに、このままでいいの? 電力の無駄遣い

ニューズウィーク日本版 2023年11月4日 20時28分

<東京の繁華街を歩くと、電力の無駄使いに違和感を覚える。日本は省エネを推進しているはずだが、この状況は放置でいいの?>

渋谷や新宿を歩くと疑問が湧いてくる。なぜかといえば――。

1996年か97年に初めて渋谷のスクランブル交差点を訪れた時は、屋外広告の大型ビジョンが3台あったように記憶している。最近数えたら、なんと10台以上に増加していた。その間に2011年3月の福島第一原発事故があっただけに、大量の電力を必要とするビジョン広告は減るはずだが、逆に数倍に増えてしまった。日本は資源がない国だから、エネルギー供給を安定させるには原子力が必要だと政府はいつも強調している。だが、街を歩くと電気の無駄遣いが目立つ。

9月8日の松野博一官房長官の会見でこの点を聞いてみた。「官房長官は最近、渋谷に行きましたか。街頭の大画面(広告)が10台はあると思います。大型の広告宣伝車も5分ごとに見当たります。政府が本気で節電するつもりなら、こうしたエネルギーの無駄遣いを規制すべきではないか」

回答は次のとおりだった。「まず私はここしばらくは渋谷に行ったことはありません。ご指摘の民間のさまざまな表示、広告等に関しては個別の事業者によって行われているものであり、いま政府としてコメントすることは差し控えるが、省エネの推進は政府として重要なテーマであり、しっかりと取り組んでいきたいと思います。詳細については経産省にお尋ねいただきたい」

民間企業がやっているからコメントができない? 官房長官の考えを聞きたかったし、政府の役割は一体なんなのかと思い、追加質問をした。「全世界がエネルギー危機にあるなかで、電力の無駄遣いを人々は疑問に思うはずだ。特にG7の国として、日本政府は省エネ政策を高く掲げているが、現実と違うのではないか?」

政府は広告業界に遠慮しているのか

松野官房長官はこう答えた。「政府としてはカーボンニュートラルを目指しており、省エネの推進は重要なテーマなのでしっかりと取り組んでいくが、個別の事業に関して政府としてコメントすることは控えたいと思う。先ほど申し上げたが、政府全体としての省エネ対策に関しては経産省にお尋ねいただければと思う」

いつものパターンで、質問には直接答えず、のらりくらりとかわした上に「別のところに聞いてください」とはぐらかす。

そこで経産省の資源エネルギー庁に尋ねたところ、「現段階では、規制などは検討していない。将来的にはなんとも言えない」という消極的な回答を得た。政府は広告業界の反発を招きたくないのかもしれない。

日本は原油輸入の9割を中東に依存しているが

では、政府が何もしないのなら、都道府県はどうか? 調べてみたところ東京都などは規制の必要性を認めているが、その主な理由はエネルギーの無駄遣いではない。例えば、都が広告宣伝車に求めているのは次のような要件だ。

①公共空間にふさわしいデザイン
②街区の景観に配慮したデザイン
③人々に不快感を与えないデザイン

つまりエネルギーの使い方は問題視されていない。

以前から、地球温暖化対策としてエネルギーの節約が大事だと先進国は訴えてきた。ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、全世界でエネルギー供給の問題が深刻になり、同時にコストが大きく上昇した。イスラエルとハマスの紛争はエネルギー問題をさらに悪化させる。

特に日本は原油輸入の9割を中東に依存している。にもかかわらず、店舗や公共の場での過剰な照明などさまざまなエネルギーの無駄遣いがされており、その規制を政府が検討もしていないのはあり得ないことではないか。これは民間任せではなく、国会議員が取り上げるべき問題だし、マスコミも報じるべきだと思う。

西村カリン
KARYN NISHIMURA
1970年フランス生まれ。パリ第8大学で学び、ラジオ局などを経て1997年に来日。AFP通信東京特派員となり、現在はフリージャーナリストとして活動。著書に『不便でも気にしないフランス人、便利なのに不安な日本人』など。Twitter:@karyn_nishi

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