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【人質家族 独占手記】「あの時、私と一緒に過ごそうと言っていたら...」ハマスのテロに遭遇したアメリカ人家族の苦悩

ニューズウィーク日本版 2023年11月7日 13時0分

<「全ての人質を取り戻す日まで」...解放されたアメリカ人の家族が世界に訴える、愛する人を暴力的に奪われた果てしのない悪夢について>

私はイスラエルに住んでいる。政治家でも軍事専門家でも評論家でもない。私はサライ・コーエンという名の1人の母親であり、妹であり、叔母である。

この原稿を書く手は震え、頭の中がぐるぐると渦巻いている。10月7日にイスラエル南部で壊滅的な大虐殺が起きた時、私の姉ジュディス・ラーナンとその娘ナタリーがイスラム組織ハマスの人質になり、先日、解放された。

しかし、悪夢は終わっていない。だからこそ私たちの経験を共有しなければならないと感じている。

7日土曜日の早朝に空襲警報のサイレンが鳴り響き、キブツ(農業共同体)のナハル・オズがハマスのテロリストに襲撃されているという狂乱したテキストメッセージが届いて、私たちはとてつもない不安に引きずり込まれた。

何もかも現実とは思えなかった。ロケット弾が飛んできたとき、ジュディスとナタリーは米イリノイ州エバンストンの自宅からイスラエルに来ており、南部のキブツを訪れていた。ロケット弾から避難するための隠し部屋に駆け込んだが、テロリストの地上の襲撃には無防備だった。

午後12時18分、2人と連絡が途絶えた。

私たちは警察や軍など思い付く限りのところに連絡して、家族の無事を確認してくれるように懇願した。しかし、虐殺は現在進行形の危機だった。
銃を持った男たちが暴れ回り、罪のない人々をレイプし、拷問し、殺していた。イスラエル側の治安部隊はとにかく反撃しなければならず、市民を救出する余裕はなかった。

安堵と感謝と苦悩の涙

午後10時半にようやく、私たちは情報の断片をつなぎ合わせ、何が起きているのか状況が見えてきた。

姉たちが滞在していた家にテロリストが押し入ったのだ。彼らはドアを蹴破った。そこらじゅうにガラスの破片が散乱し、服や化粧品が床に投げ出されていた。しかし、2人はどこにもいなかった。

遺体らしき痕跡もなく、携帯電話もパスポートもなくなっていた。彼らが拉致されて、生きているとしてもガザ地区で人質になっていることを私たちは理解した。

夜ふと目が覚めて、姉のさまざまな姿を思い出した。コーヒーを飲む姉、2人で子供時代の思い出を語り合ったこと。庭に座ってたわいもない噂話を交えながら、困難なときも互いに支え合ったこと。

もしあのとき......そう考えると私は胃がねじ切れそうになった。もし私が、土曜日の午後にナハル・オズへ迎えに行くと約束するのではなく、北部の私のキブツで一緒に過ごそうと強く言っていたら。そうしたら姉たちは無事だっただろうか。

暖かくしているだろうか。食べ物はあるだろうか。テロリストは彼らを傷つけていないだろうか。彼らは生きているのだろうか。

およそ2週間の最悪の地獄が過ぎ、ジュディスとナタリーは解放された。帰ってきた。体は無事だった。私は2人を強く強く抱き締めた。そのまま放したくないと思った。

ようやく深呼吸をすることができて、私は涙がこぼれた。安堵の涙だ。感謝の涙だ。しかし同時に、苦悩の涙でもある。ガザで今も人質になっている人々を思う苦悩、イスラエルや世界中にいる彼らの家族の不安を思う苦悩だ。

今なお罪のない人が230人以上も冷酷なテロ集団の人質になっていることを知りながら、姉と姪の帰還を心から祝うことなどできない。誰かの祖母や祖父、母親や父親、負傷した若い男女、家族全員、怯える子供や幼児。私は毎晩、目を閉じるたびに、生後9カ月の赤毛の赤ちゃんの顔が浮かんでくる。

戦争は人生を打ち砕く

私たちの親族もまだ7人がガザにいる。最悪の悪夢の中にしか存在しないと思っていた怪物の、その腹の中にいるのだ。大人だけでなく、3歳と8歳のきょうだいや12歳の女の子もいる。そして、3人の親族が殺された。

ジュディスとナタリーは一連の出来事は何も知らず、解放されたときは打ちのめされ、恐怖におののいていた。私たち親族は皆、残りの人質を取り戻すために必要なことは何でもする決意だ。

私は彼ら全員のことを思う。私の大切な親族、ポスターやニュースで見た一人一人の顔。若いカップル、巻き毛の愛らしい女の子、誰かの祖父母であり、誰かの親である人たち。あの土曜日、澄んだ青空の下で朝を迎えた人たちが奪われた。その苦しみはとても耐えられるものではない。

けがをしていないだろうか。出血は止まっているか。食事は取れているか。寒くはないか。子供たちは母親が恋しくて泣いているだろうか。それとも諦めて、暗闇の中で独り座っているのだろうか。

私はジュディスとナタリーを抱き締め、安堵の息をつこうとしている。彼らの解放はかすかな希望をもたらしたが、他の家族にはまだ真っ暗な時が流れている。いまだ捕らわれの身である人々の苦しみを無視することなどできない。彼らの多くは今すぐに医療的措置が必要でもある。

この悪夢は、紛争がいかに予測不可能であり、人々の人生を打ち砕く力を持っているかということを思い知らされる。そして、私たちの深いつながりを。この闘いを共有したときに、私たちは1人の痛みが全ての人の痛みであることを思い出す。

自分の姉と姪が無事でも、他の人たちを見捨てるわけにはいかない。

私たちには助けが必要だ。私たちの経験を知って、語ってほしい。全ての人質を無事に、可能な限り完全な形で家族の元に取り戻すために、あなたたちの支援と声が必要なのだ。彼らの物語を埋もれさせず、私たちのメッセージを共有して、地元や国の議員に手紙を書いてほしい。テロに引き裂かれた家族を再会させるために、私たちと共に立ち上がってほしい。

悪夢はまだ終わっていない。私たちと一緒に悪夢を終わらせよう。

小さな子供を含む3人の親族が殺害されたと述べるジュディスとナタリーの親族

Family of Judith and Natalie Raanan confirms another missing family member is dead/NBC News

    


サライ・コーエン

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