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解雇した「当たり屋」社員に裁判で負け、3000万円を失った。労働者は常に「弱者」だと言えるのか

ニューズウィーク日本版 2023年11月7日 19時20分

<不当解雇されたので会社を訴え、大金を勝ち取ったという経験談がネットを賑わせている。似た経験が、私にもある>

ブラック企業に不当解雇されたため、裁判に訴え和解金700万円を手にした。その後、勤めた運送会社も解雇され、2年争った末、4000万円を勝ち取った──。そんな記事がネットで話題になっている。紹介されているのは解雇された男性側の経験談。裁判に負けた企業側の「言い分」は不明だ。

実は私にも似た経験がある。といっても私の場合は、企業側としての経験。車ではなく企業相手の「当たり屋」に狙われた。

東京で小さな通訳・翻訳の派遣会社を経営する私は数年前、新規事業の開拓を考え、顧問税理士に相談した。「良い人材を紹介してくれる業者を知っている」。そう言って税理士が連れてきたのが人材紹介業をしているという人物と、自信満々に「億単位のお金を引っ張ってこられる」と語る自称実績豊富な営業マン(以下、Aとする)。信頼していた税理士の後押しもあり、私はAを雇うことにした。年俸は800万円に決まった。

しかし、初年度の売り上げはなんと数万円。しかも「組織が小さいから」と言い訳するばかりで、必死に営業活動をしている様子も見られない。しまいには反抗的な態度を取るようになり、私は顧問社労士や弁護士にアドバイスを仰いでAと話し合った。合意による退職を目指す適法な手続きを踏み、退職勧告を出したが、彼は断固として拒否。その後、仕方なく解雇通知を出すと、Aが騒ぎ出した。「不当解雇だ!」

弁護士を雇い、調べてみると、Aは入社後にトラブルを起こし、解雇に仕向けて金をせしめる「当たり屋」だったと分かった。被害に遭うのは、私の会社が4社目。まるでパラサイト(寄生虫)だ。「これは詐欺。勝てますよ」と弁護士は言った。そこで相手に裁判を起こされる前に、こちらから提訴することにした。

弁護士の調査で、Aを連れてきた人材紹介業者が無免許だったことも判明。警察への通報により、業者は検挙され、払っていたAの紹介手数料はなんとか戻ってきた。一方、その業者を私に紹介した顧問税理士には裏切られた形となった。税理士は人材紹介業者の監査役も務めており、無免許だと知らなかったはずがない。責任を追及すると、税理士は決算直前にわが社から手を引いた。

そんななか、進んだ民事裁判。有利なはずだったが、Aの弁護に付いたのは某野党系の弁護士事務所で「労働者の味方」。Aの弁護を引き受けるのは、少なくとも2回目らしい。私に言わせれば、 彼らが味方をしているのは「弱い労働者」ではない。

そして先日、地裁の判決が出て、私は敗訴した。裁判官からは「採用を決めたのはあなた自身」という趣旨の話をされた。本当かどうか分からないが、弁護士の説明によれば、「労働者の味方」をすると出世に有利に働くため、裁判官にバイアスが働くのだという。敗訴と驚くべき金額の支払い命令に納得がいかなかったが、控訴には踏み切れず、結局、弁護士費用を含め3000万円近い大金を失った。

昨今、ブラック企業が社会問題となっている。確かに労働者が弱い立場にあるのは事実だろう。だが実際には、労働者側がブラックである場合もあるのだ。詐欺行為が明白なのに、ぬれ手で粟のA。なぜこんなことがまかり通るのか。日本は法治国家ではなかったのか。裁判官の正義はどこにあるのか。「労働者は弱者」という先入観が正義をゆがめたのだとしたら、法治国家の根幹を揺るがす深刻な問題だ。

私には妻と4人の子供がおり、守るべき従業員もいる。「当たり屋」への怒りと日本の司法に対する失望感は到底解消されそうにないが、彼らのためにも自暴自棄になってはいられない。今までどおり、私は今日も法を守り真面目に働いていく。

周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院修了。通訳・翻訳の派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレント、YouTuber(番組名「周来友の人生相談バカ一代」)としても活動。


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