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イタリアに続きフィリピンも、中国「一帯一路構想」を離脱する意向

ニューズウィーク日本版 2023年11月7日 17時50分

<中国は最初の触れ込みほど参加国への投資に積極的ではない上、南シナ海での横暴は目に余る。そんな中国に頼らなくてもアメリカや日本が助けてくれる、とフィリピン政府は考えた>

フィリピン政府は、国内の主要な3件の鉄道建設プロジェクトについて、中国からの資金援助を白紙に戻す意向を公式に示した。領有権問題などで両国の関係がぎくしゃくしていることが背景にあるが、フィリピン政府はアメリカや日本が主導する機関など、中国以外からの支援が確保できると自信を持っている。

<動画>緊迫!南シナ海で中国船に囲まれたフィリピン船

今回の発表は、中国が第3回「一帯一路」フォーラムを10月17日〜18日にかけて華々しく開催してから数週間後というタイミングで行なわれた。中国は、10周年を迎えた1兆ドル規模のこの国際インフラ投資構想(一帯一路)について、かつて中国を遠方の地域と結んでいた陸と海のシルクロードの現代版だと喧伝してきた。

中国は今後、3件の主要な鉄道建設プロジェクトについて、資金援助を行わないことになった。具体的には、約70キロに及ぶ貨物鉄道路線と、都市を結ぶ2つの路線だ。フィリピン運輸省は10月26日、その理由として、中国がこの案件に対して関心を示していないことが明らかだからだ、とする同省のハイメ・バウティスタ大臣の発言を引用していた。

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フィリピン運輸省は同じリリースの中で、建設資金の調達先については自信を持っているとする、バウティスタの発言を伝えている。候補として、アメリカが主導する世界銀行、日本の国際協力機構(JICA)、および日米が最大の出資国であるアジア開発銀行(ADB)の名を挙げた。

さらに同運輸相は11月6日、記者会見の席上で、日本、インドおよび韓国から、すでにこれらの3つの鉄道路線に対する融資の申し出があったことを明らかにした。

日本は、フィリピン公共交通機関に対する主要な融資国の1つだ。2029年に開業予定の、同国初となるマニラ首都地下鉄計画にもすでに65億ドル以上の資金を提供している。また、マニラの高速鉄道網およびライトレール網の延伸事業にも融資を行なっている。

日本の岸田文雄首相は11月3日、2日間にわたるフィリピンを訪問。その主な目的は、両国間の防衛連携強化にあった。フィリピンは、日本が「同志国」向けに新たに立ち上げた、政府安全保障能力強化支援(OSA)プログラムから恩恵を受ける最初の国となった。岸田は、フィリピン海軍向けに6億円相当の沿岸監視レーダーシステムを供与するとの書簡に署名し、さらにその後、フィリピン沿岸警備隊向けに巡視船5隻の追加供与も決定した。

フェルディナンド・マルコス大統領が率いるフィリピン政府は7月、先述した3つの主要鉄道プロジェクトに関して、中国が請負業者の候補リストを提供していないことを理由に、再交渉を命じていた。

中国との当初の合意は、マルコスの前任者で、中国寄りの姿勢を見せていたロドリゴ・ドゥテルテ前大統領のもとで締結されたものだった。しかし、マルコスが大統領に就任した後、両国の関係は冷え込んでいる。中国の沿岸警備隊にあたる海警局や漁船団が、これまでフィリピンの漁場とされてきた海域に侵入する行為や、中国海軍の「攻撃的な行動」に対して、マルコスが断固たる態度を示していることがその理由だ。10月後半には、スプラトリー諸島で中国船とフィリピン船の衝突事件も発生した。

今回のフィリピン運輸省による発表は、中国が掲げる一帯一路構想に対して、一部の国の関心が低下している中で行われた。同構想に関しては、相手国を中国の借金で首が回らなくする「債務の罠」外交だとの批判が生じているだけでなく、融資の実績も期待外れに終わっている。

イタリアのジョルジャ・メローニ首相は9月、中国との貿易不均衡が続いていることを理由に、一帯一路構想からの離脱を検討していると述べた。

10月の一帯一路フォーラムでは、フィリピンのマルコス大統領が欠席したことも注目を集めた。2017年に開催された前回の同フォーラムには、37カ国の首脳が出席したのに対し、今回は23カ国にとどまっている。

<動画>緊迫!南シナ海で中国船に囲まれたフィリピン船

<動画>「一帯一路への参加は最大の過ちだった」(メローニ伊首相)



マイカ・マッカートニー

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