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CO2排出の削減と、災害に強い街づくり...2つを一挙に実現する「日本初」の試みが千葉県市川市で始まる

ニューズウィーク日本版 2023年11月15日 11時0分

<パナソニックは市川市と協定を締結し、EV用充電インフラの整備促進と啓発活動を実施するプロジェクト「everiwa no wa 市川Action」を開始した>

日本政府が2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すなか、重要となる取り組みのひとつとして、自動車による排出ガスの削減が挙げられる。国内の各自治体では、補助金などを含めたEV(電気自動車)普及のためのさまざまな施策が導入されているが、千葉県市川市ではこれまでにない新たな試みが始まった。

10月27日、パナソニックエレクトリックワークス社(以下、パナソニック)と千葉県市川市は、「EV用充電インフラの整備促進及び啓発に向けた協定」を締結した。市川市は、今年を「カーボンニュートラル元年」と位置付け、2030年には二酸化炭素排出量の50%以上を削減し、2050年にはこれを実質ゼロ、つまりカーボンニュートラルを実現すると表明している。それに加えて、災害時におけるレジリエンス(回復力)向上を図ることも目指している。

市川市の田中甲市長はその目的を、「市民や事業者を守り、持続可能で住みやすい活気あるまちづくりを進める」ことと説明。これを実現するため、市川市は産官学の協力・連携体制を構築し、強化を進めている。今回のパナソニックとの締結も、その一環となる取り組みだ。

EVの普及促進だけではないメリットが

これまでにも市川市は、EV車購入に独自の補助金制度を設け、公用車にEVのシェアリング使用を行うなどの対策を講じてきた。そして今回、パナソニックと協定を締結したうえで実施するプロジェクト「everiwa no wa 市川Action」も、市が課題に挙げる「交通のCO2削減」を推進するためのものだ。

everiwaとは、社会課題の解決を目指してパナソニックが2022年秋にスタートさせた「共創型コミュニティ」のこと。現在、そのビジョンに賛同する20社が参画しており、最初の取り組みとして今春より運営が始まったのが、EV充電器のシェアリングサービス「everiwa Charger Share」だ。

これは、EV充電器を貸したい人(ホスト)と、借りたい人(ユーザー)をつなぐプラットフォームを提供するサービスで、ユーザーは専用のアプリケーションソフトで近隣の充電器を探して予約。充電後はオンライン決算により支払いを行うシステムだ。なお登録する充電器は、サービスを提供するパナソニックの製品である必要はなく、ホストは所有する充電器のメーカーに関係なくサービスに参加できる。

everiwa Charger Shareの仕組み

このシステムの導入によってEV充電器(スポット)が増加すれば、その地域にはEVの普及促進だけにとどまらないメリットが生まれる。そこは「EV(=バッテリー)が集まる街」となるため、膨大な量の電力がプールされることになるからだ。

エネルギーは災害など非常時の電源となり、電力需給バランスの調整にも活用することが可能となる。こうしたエネルギー循環こそ、パナソニックが目指す「誰もが安心してEVで暮らせる街」というイメージである。

同社は、このような地域から社会課題解決を目指すプロジェクト「everiwa no wa Action」を設立。EV普及による脱炭素化と、その環境整備による「EV充電に不安のないまちづくり」を推進する市川市と締結が交わされた、今回の「everiwa no wa 市川Action」がその第一弾になるというわけだ。

「EV用充電インフラの整備促進及び啓発に向けた協定」に署名する市川市の田中市長とパナソニックエレクトリックワークス社の大瀧社長

みずほ銀行と損保ジャパンも参加を表明

今回のeveriwa no wa 市川Actionには、アクションパートナーとして、みずほ銀行と損保ジャパンの2社も参加を表明している。両社は協定締結式にも参加し、それぞれの具体的な取り組みを紹介した。

everiwa Charger Share専用の決済システム「everiwa wallet」を開発し、提供しているみずほ銀行は、今回の取り組みとして、市川市内のみずほ銀行利用者に向けeveriwa Charger Shareの実施を紹介。EV充電インフラ整備とEV普及促進に向けた情報提供を行うとともに、既存アセットの活用として、市川支店のお客様用駐車場へのEV充電設備の導入を検討しているという。

また、損保ジャパンは、everiwa Charger Share専用のシェアリング保険を開発。利用の際の充電器およびカーポートの破損といった物損事故をはじめ、充電機器の故障などによる利用不能や充電作業中の怪我といった人身事故など、ホストとユーザーのリスクに対応した保険を提供する。さらには市内の自動車保険関係など損保代理店のネットワークを活用し、みずほ銀行と同じくユーザーやホストの獲得に向けた推進活動も担っていく。

市庁舎にEVユーザーの誰もが使用できる充電スポット

パナソニックが提供するEV充電器のシェアリングシステムを中心に、銀行の顧客基盤を活用した情報提供と、保険による利用者の不安解消を加えた確固たる"共創体制"を組織し、スタートしたeveriwa no wa 市川Action。

協定締結にあたり、田中市長は「今回、パナソニック株式会社エレクトリックワークス社と締結できることは、市川市として大変望ましいこと。EV、そしてEV充電器の普及推進、公共施設への充電器の設置を第一に進めていきたい」と語った。

そしてその言葉通り、市川市役所第一庁舎の地下駐車場には、everiwa Charger Share に登録されたEV充電器を設置。締結式当日よりEVユーザーの誰もが使用できる充電スポットとして開放するとともに、今年度中には市内の公共施設に8箇所のEV充電器を設置する予定であるという。

「everiwa no wa 市川Action」

一方、everiwa no wa Actionを推進するパナソニックの大瀧清社長は、「市川市と弊社のビジョンが共鳴し、協定を締結させていただいた。これにより、EV充電に対する不安のない街、誰もが安心してEVで暮らせる街の、全国初のエリアを創る取り組みに挑戦させていただくこととなった」と語る。

大瀧社長が言うように、everiwa no wa 市川 Actionはeveriwa no wa Actionのファーストアクションであり、パナソニックは今回の試みを成功させることをきっかけに、このプロジェクトの全国への展開を想定している。日本国内のあらゆる市町村で脱炭素エリアを展開させ、国内におけるカーボンニュートラルの実現と電力需給バランスの安定した社会づくりを目指しているということだ。

パナソニックグループが掲げる長期ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」では、2020年には1.1億トンであったCO2排出の削減量を、2050年には3億トンにまで増加させることを目標としている。

今回の市川市との協定締結をロールモデルとするこのプロジェクトが、今後どこまでエリアを拡大し、浸透するのか──。国内における将来的なEV普及とSDGs達成に大きな影響を与えるであろう日本を代表する電機メーカーによる充電インフラ施策「everiwa no wa Action」。大手企業が自治体と協定を結びカーボンニュートラルの実現を目指す国内初の試みとなった今回のプロジェクトの行方を、期待を込めて見守りたい。


高野智宏

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