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トランプ不在の第3回共和党討論会、際立ったニッキー・ヘイリーの強さ

ニューズウィーク日本版 2023年11月9日 20時40分

<「ハイヒールを履いたチェイニー」という皮肉も今のヘイリーにとっては勲章>

米共和党の大統領候補を決める予備選は、年明け早々にスタートしますが、その候補者を絞り込むためのテレビ討論が続いています。3回目の討論会はNBCの主催で、現地時間8日夜にフロリダ州で開催されました。まず、今回はテレビ討論に参加する資格要件として、個人献金が7万件以上、世論調査の支持率が4%以上というハードルが設けられました。

当初は、この基準をクリアできるのは3人だけ、つまりロン・デサンティス(フロリダ州)知事、ニッキー・ヘイリー元国連大使、ヴィヴェク・ラムズワミだけではないかと言われていました。また、その他の候補に関しては今後の上昇も望み薄と言われるなかで、例えばペンス前副大統領は早々に選挙戦の中止(要するに撤退)に追い込まれています。

その後、クリス・クリスティー元ニュージャージー州知事と、ティム・スコット上院議員が巻き返して「基準に滑り込み」となり、結果的に5人の参加となりました。また、ドナルド・トランプは今回も討論をボイコットして、会場近くで政治集会を行いました。

直前の動きとしては、今週の月曜日(11月6日)にはニューヨーク・タイムズとシエナ大学の連合による世論調査の結果が発表となっています。過去2回の大統領選(トランプの勝った2016年、バイデンの勝った2020年)の勝敗を決定付けたといって良い「激戦州(ミシガン、ジョージア、ペンシルベニア、ネバダ、アリゾナ)」で、「トランプかバイデンか」を有権者に選択させたところ、5州ともに4%から10%の差でトランプ優位という数字が出ており、現職バイデンが苦戦という印象が広がっています。原因は圧倒的に、インフレ問題に対して「ノー」が突き付けられたという解説がされています。

整然と進んだ議論

一方で、翌日の7日の火曜日には、同じく激戦州であるオハイオ州で「妊娠中絶禁止を州憲法に書き込む改正」に関する住民投票が行われ、結果は否決となりました。ケンタッキー州で知事の座を守るなど、数は少ないとは言え、この日の地方選挙や住民投票では民主党が勢いを見せていました。

また8日のテレビ討論当日には、ニューヨークで行われているトランプのファミリー企業における「乱脈経営問題の裁判」に、長女のイヴァンカが証人として出廷、自身の関与を否定していました。容疑の否定につながる材料は出せず、自身の関与を否定しただけですので、既に有罪を認めている証人などの証言を中心とした判決に向かう流れを放置したというのが一般的な評価です。

そんなわけで、様々な状況が動いていく中での「第3回テレビ討論」となったわけです。今回は、最初の2回とはかなり様子が異なりました。まず、主催がFOXニュースからNBCに代わり、事実上の進行役を努めたクリスティン・ウェルカー(女性記者)の仕切りが完璧だったので、混乱はなく整然と進行しました。時間オーバーは厳格に管理され、話題も逸脱することなく進みました。もしかしたら、討論の勝者はウェルカーかもしれません。

結論から言えば、今回の討論は軍事外交が中心の話題となりました。イスラエルとハマスの戦争においてイスラエルを支持すること、温度差はあれどウクライナを支援すること、台湾海峡が動揺しないように抑止することなど、「強いアメリカ」の復権を強く主張したのが、ニッキー・ヘイリーで、彼女はブッシュ、マケイン流の「軍事タカ派的なクラシックな共和党」という立場で一切ブレず、改めて存在感を見せつけたように思います。彼女は討論の最後を「世界が燃えている今、戦争を抑止するのは強いアメリカだけだ」という決め台詞で結んでいました。

一部の州で進んでいますが、デサンティス候補は今回もパッとしなかったので、恐らくヘイリー候補が2位の座を固めて「トランプへの挑戦者」となるのは時間の問題だと思います。ミレニアル世代を代表して「独自の小さな政府論」を展開する起業家のラムズワミに言わせれば「ヘイリーはハイヒールを履いたディック・チェイニー(元副大統領)」なのだそうですが、そんな皮肉も彼女には勲章になるかもしれないぐらい、今回の討論における彼女の存在感は際立っていました。

これからの展開ですが、3つの流れが進むと考えられます。

依然としてトランプとは大差が

1つは、4つの訴訟を通じてトランプが有罪判決を受ける可能性です。一部の世論調査では、起訴だけなら不当な政治弾圧とも思えるが、本当に有罪になったらトランプ支持を考え直すという有権者は一定数いるようです。有罪判決が次々に出れば、現在共和党内で58%程度あるトランプの支持率が下がってくる可能性はあるかもしれません。

2つ目は、今回の討論の成功に加えて、国際情勢がこのまま問題を抱えて推移するようですと、ヘイリーへの期待感が高まる可能性はあると思います。

3つ目は、現時点ですでに「仮にバイデン対ヘイリーの戦いになった場合」についての投票行動調査では、ヘイリー優位という数字が出ています。今後、インフレの高止まりと、国際情勢の行き詰まりなどでバイデンの支持率が下がり、バイデンから離れた中道票が「現実的な共和党候補」に向かう可能性はあると思われます。

問題は、現時点では共和党内の「反トランプ票」を全部まとめたとしても30%程度しかなく、58%のトランプとは大きな差があるということです。この3つの流れをまとめてこの倍近い大差を詰めていくことができるのか、当面その動きに注目しなくてはならないわけですが、とりあえず、トランプへの挑戦者としては、ニッキー・ヘイリーの存在が高まっていくと見られます。


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