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【一覧】イスラエルに対抗するのはハマスだけではない...知っておくべき、これだけ多くの政治・武装組織

ニューズウィーク日本版 2023年11月21日 13時20分

<入り組んだ歴史の中でこれだけ多くの反イスラエル組織が生まれた>

イスラム組織ハマスの奇襲に対してイスラエルが報復攻撃を強化し、中東は大混乱に陥っている。攻撃は、世界で最も長く続いている紛争の1つを劇的にエスカレートさせた。

しかし、パレスチナ人の民族自決権のためにイスラエルと戦おうという組織は、ハマスだけではない。危機の時だからこそ押さえておきたい反イスラエルの主要組織は──。

◇ ◇ ◇

ハマス

200万人以上が暮らすパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するスンニ派イスラム系政治組織。イスラエルを承認せず、軍事部門のエゼディン・アル・カッサム旅団などが武力抵抗を続け、長年にわたりイスラエルに対する数多くのテロ攻撃やミサイル攻撃を主導してきた。

1987年の第1次インティファーダ(パレスチナ人の反イスラエル闘争)を機に結成され、アラビア語の「イスラム抵抗運動」の頭文字を取ってハマスと名付けられた。母体となったのは、エジプトのスンニ派イスラム組織「ムスリム同胞団」だ。

ハマスは武装組織であると同時に、パレスチナの2大政党の1つでもある。ライバル政党であるファタハは、イスラエル占領下にあるヨルダン川西岸地区を統治するパレスチナ自治政府の主流派。だがハマスは2006年のパレスチナ立法評議会選挙で圧勝すると、ファタハをガザ地区から追放し、07年にガザを全面掌握した。多くの西側諸国は、ハマスあるいはその軍事部門をテロ組織に指定している。

カタールもハマスとは関係が深い。ハマスの指導者イスマイル・ハニヤは、カタールの首都ドーハから指揮を執っている。レバノンのシーア派イスラム系武装組織ヒズボラとは、宗教やイデオロギー面で意見の対立はあるものの、イスラエルとの戦いにおいては長年の同盟関係にある。

ファタハ

組織の名称は「パレスチナ民族解放運動」を意味するアラビア語の頭文字を逆からつづった。パレスチナ最大の世俗派政党であり、PLO(パレスチナ解放機構)およびパレスチナ自治政府の主流派だ。

設立は、48年の第1次中東戦争とイスラエルの建国によって75万人以上のパレスチナ人が住む場所を追われた「ナクバ(大厄災)」から約10年後の59年。PLOのヤセル・アラファト元議長やマフムード・アッバス現議長など、パレスチナから外国に離散した活動家が中心となって結成された。

ハマスと異なりイスラエルを承認しており、67年の第3次中東戦争後に設定された境界線を国境とする「2国家解決」を望んでいる。ガザ、ヨルダン川西岸と東エルサレムを「パレスチナ」と定義する案だ。

パレスチナ立法評議会選でハマスが予想外の勝利を収めた翌年の07年、ファタハはハマスによってガザを追われ、現在はヨルダン川西岸のみを支配している。

PLO(パレスチナ解放機構)

64年に創設されたPLOは現在10の政治組織を統括し、国連をはじめとする国際機関でパレスチナ人を代表する。主流派ファタハのメンバーが過半数を占めるが、パレスチナ解放人民戦線やパレスチナ人民党なども参加している。

ハマスやイスラム聖戦などの武装組織は、PLOに加わっていない。パレスチナ自治政府とPLOがヨルダン川西岸の治安維持のため、イスラエル当局と協力関係にあることに反発しているためだ。

パレスチナ自治政府(PA)

93年にノルウェーでPLOとイスラエル政府が行った秘密交渉を受けて、翌94年に発足。この交渉が、パレスチナ自治政府がヨルダン川西岸とガザを統治する「2国家解決」の枠組みを示したオスロ合意(93年)につながった。

PAの初代議長はアラファト。04年に彼が死去した後は、アッバスが議長を務めている。

多くのパレスチナ人は、PAを「占領の協力者」だとして信用していない。ヨルダン川西岸の治安維持でイスラエル軍と協力していることが、その理由だ。

イスラム聖戦

ハマスに次いで、ガザで活発な活動を展開する2番目に大きなイスラム系武装組織。ハマスと同じく、イスラエルの生存権を認めていない。創設は81年。イランとシリアの支援を受けており、レバノンのシーア派イスラム系武装組織ヒズボラと積極的に協力している。

パレスチナ国家実現に向けた道筋については、ハマスと意見が対立している。ガザを実効支配するハマスとしては、市民の支持を得て効果的に機能するために地域の安全を考慮しなければならない。対照的にイスラム聖戦は、武力のみを戦略の中心に据えている。

最終的に受け入れ可能な中東の在り方についても、ハマスとは意見が異なる。ハマス指導部はイスラエルを承認しないものの、67年以前の境界線を国境とする「2国家解決」は支持しているが、イスラム聖戦はこれを拒否。イスラエルの破壊と、ガザおよびヨルダン川西岸だけでなくイスラエル領も含むパレスチナ国家の創設を唱えている。

ヒズボラ

アラビア語で「神の党」を意味するシーア派イスラム系武装組織。イスラエル軍の侵攻への抵抗を主な目的として、82年にイランの支援の下、レバノンで結成された。

これまでイスラエルとアメリカの軍と市民を狙った攻撃を繰り返している。83年にはレバノンの首都ベイルートで、米大使館を狙った爆弾テロを実行。06年にはイスラエル兵8人を殺害した上に、2人を誘拐し、イスラエルと34日間にわたって交戦した。00年には、22年間にわたってレバノン南部を占領していたイスラエル軍を追い出すことに成功した。

ヒズボラは長年にわたってパレスチナの大義を支持し、イスラエルの壊滅を掲げてきた。手ごわい軍事能力と戦闘経験を持ち、イスラエルの最も強力な敵の1つとみられている。

92年のレバノン議会選挙で12議席を獲得して以降、政治的な影響力も拡大しつつある。現在は、レバノン議会で13議席を持つ。

アメリカとイギリス、アラブ連盟、ドイツは、いずれもヒズボラを国際テロ組織に指定。EUはヒズボラの軍事部門のみを国際テロ組織に指定している。

From Foreign Policy Magazine



アレクサンドラ・シャープ、リシ・アイエンガー(いずれもフォーリン・ポリシー誌記者)

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