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ロシア軍元将校で反プーチン極右のギルギン、拘置所から大統領選に決死の出馬表明──「第2のプリゴジン」の運命か

ニューズウィーク日本版 2023年11月21日 16時14分

<厳しいプーチン批判で訴追・拘留されている元ロシア軍将校ギルギンは、大統領選でプーチンの対立候補として名乗りを挙げた。プーチン当選が決まった「出来レース」を妨害するためと、黙っていても危うい自分の身を守るため。命懸けの挑戦だ>

元ロシア軍司令官のイーゴリ・ギルキンが、2024年の大統領選に立候補する意向を表明した。専門家はこの動きが、ロシア政府やウラジーミル・プーチン大統領にとって厄介な問題になるだろうと指摘している。

<画像>施設で殴られた後、とされるギルギンの顔

 

熱烈なナショナリストで、プーチン政権やロシア軍指導部のウクライナ侵攻戦略を公に批判してきたギルキンは、極右を扇動した疑いで7月に身柄を拘束され、訴追された。8月には公判前の拘留は不当だと不服申し立てを行ったものの退けられ、現在も拘留中だ。

ロシア連邦保安庁(FSB)の元大佐であるギルキンは、2014年にロシアがクリミア半島を一方的に併合した際に主要な役割を果たして名を馳せた。また同年7月17日にウクライナ東部ドネツク州の上空でマレーシア航空の旅客機が撃墜され298人が死亡した事件に関与したとして、オランダ・ハーグの裁判所から終身刑の判決を受けている。

ギルキンは7月、ロシアによるウクライナ本格侵攻について、ロシア軍の戦略や失敗を公に批判していたことで身柄を拘束された。身柄を拘束される数日前には、プーチンを「臆病で凡庸」な人物と呼び、プーチン政権があと6年続けばロシアはもたないだろうと述べていた。

やらせ選挙を妨害

ギルキンを支持する政治組織の代表を務めるオレグ・ネルジンは、11月18日にロシアの独立系メディア「SOTA」が公開した動画の中で、ギルキンが盟友たちに2024年3月17日に実施される大統領選への出馬に向けた準備を指示したことを明らかにした。

ギルキンはメッセージアプリ「テレグラム」の自身のチャンネルで、「今のロシアの状況で大統領選に出馬することは、詐欺師とポーカーをするようなものだと十分に理解している」と述べた。

自分の出馬表明が「愛国勢力を結集」させ、「既に当選者が決まっている虚偽の選挙」を妨害できることを期待しているとも述べ、「これは私たちにとって、外部と内部の脅威に対抗して団結するチャンス」だと呼びかけた。

ギルキンによる出馬表明で、プーチンの指導力やウクライナ戦争に疑問を呈した彼の過去の発言に改めて注目が集まることになり、ロシア政府にとって厄介な問題になっている。本誌はこの一件についてロシア外務省にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。

英オックスフォード大学所属で冷戦後の旧ソ連と東欧諸国の専門家であるブラド・ミフネンコは本誌に対し、ギルキンは、ロシア政府は自分の名前が候補者リストに載るのを何としても阻止しようとすることを予想していると述べた。

「ギルキン出馬の表向きの目的は、有権者の10~15%を占める極右に訴えることだ。極右は、ウクライナを屈服させて、さらにポーランドに進軍することができないロシア軍の『無能ぶり』と『腐敗』を非難している」

だがギルキンの真の狙いは「自分の身を守ることだ」とミフネンコは言う。「ロシア政府を怖がらせて、『プーチンの再選まで口をつぐんでいれば起訴を全て取り下げてやる』と言わせることだ」と述べた。

「ギルキンは最近、拘留中に健康状態が急速に悪化したと訴えている。9月後半には、拘留施設で殴られて血を流し、目の周りにあざが出来て鼻はひどく腫れているか骨折した様子の屈辱的な写真が、ロシア政府のプロパガンダを発信するメディアに流出した」と、ミフネンコは言う。「だからギルキンには、自分の命の危険を心配する十分な理由がある。大統領選への出馬は彼にとって、大勢の人の注目を集めて最悪の事態を避けるための方策の一つだ」

第2のプリゴジンか

ギルキンは8月にテレグラムで、自分がプーチンよりも優れた候補者である6つの理由を挙げ、プーチンは国を率いるにはあまりに「寛容」で「人を信じすぎる」と指摘。「軍務に関しては私の方が現大統領よりも有能だ」と主張していた。

ウクライナ戦争を公然と批判していることで、ギルキンはロシアの傭兵組織「ワグネル」の創設者だったエフゲニー・プリゴジンと比較されることが多かった。プリゴジンは6月24日にロシア軍の上層部に対する反乱を企てたものの失敗。その数週間後、プライベートジェットの墜落によって死亡した。

プリゴジンは反乱を率いる何カ月も前から、ロシア軍の上層部や、彼らによるウクライナ戦争への対応ぶりを非難していた。従ってその墜落死は、暗殺の憶測を呼んだ。ロシア政府は、プリゴジンがプーチンの命令によって殺害されたという憶測は「真っ赤な嘘」だと主張した。

英シンクタンク「王立国際問題研究所」のキア・ジャイルズ上級顧問研究員は本誌に対して、ギルキンが本当にプーチンの対立候補ならば「立候補が許されるはずがない。立候補が許されるかどうかは、プーチンの裁量に委ねられている」と指摘する。

「彼の名前が実際に候補者リストに記載されたとすれば、それは次の2つの理由のうちどちらかだ。ありもしない民主主義を演出する見せかけの選択肢としてか、あるいはロシア政府がギルキンの獲得票数を屈辱的なほど少なくして彼の評判を落とすためだ」

だがジャイルズは、ギルキンがプーチンに批判的な立場を取りながら、極右の武装集団の支持も維持するというかつての立場に戻ることが許される可能性はきわめて低いとも指摘した。

「プーチンは、再びプリゴジンのような人物が出るリスクを許さないはずだ」

 

<画像>拘留施設で殴られた後、とされるギルギンの顔
I wonder why those who are not supposed to spread disinformation praise the right-wing crazy "propaganda" photo of "heroic" Igor #Girkin with Vodka and bruise. That's obviously a fake in real and from the looks! In both ways. Those expats(the evacuee of the tyranny) of Russia... https://t.co/wIFMNmOGVz pic.twitter.com/Cn7vngnEPb— Hannah K (@hannahkauthor) July 3, 2023
投稿者はこの写真は「極右のプロパガンダ」でフェイクだ、とコメントしている

 

<動画>プーチン対ギルギン

 


イザベル・ファン・ブリューゲン

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