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学校の宿題が多い日本と少ないフランス......教育にはどちらがいいのか?

ニューズウィーク日本版 2023年11月22日 12時0分

<毎日宿題が出るクラスは主要国では日本が最も多いが、宿題にかかる時間を見ると日本より多い国もかなりある>

学校の長期休暇中は、宿題が出される。そのねらいは、前学期に習ったことの定着、または生活のリズムを整える、というものだろう。休みとはいえ、勉強の習慣が崩れてしまうのは困る。毎日、一定時間は机に向かってほしい。こういう思いから、長期休暇には宿題が出されている。

ただ宿題は学習指導要領で規定されているものではなく、出すか出さないかは各学校、あるいは担任教師の任意だ。休み中は色々な体験をしてほしいという願いから、宿題は最小限、いや撤廃している学校もあるだろう。バカンスの国フランスでは宿題など出ない、という話も聞く。

国際教育到達度評価学会(IEA)の理数系の国際学力調査「TIMSS 2019」では、小学校4年生の担当教員に対し「週当たり、算数の宿題をどれくらいの頻度で出すか」たずねている。日本の教員の回答を見ると、「毎日」という回答が59%と最も多い。「そうだろう」という印象だが、他国の教員の回答は違っている。<図1>は、日韓と欧米諸国の結果をグラフにしたものだ。

どの回答が最も多いかは、国によって異なる。日本と同じく「毎日」が最多なのはドイツで、宿題を重視しているようだ。

フランスは、「出さない」という回答が35%と最も多いが、他の選択肢にも回答が分散していて、出す教員もいれば出さない教員もいる。子どもによかれと思うなら出す、そうでないなら出さない。教員の裁量に幅があり、お国柄を感じさせる。

階級値(出さない=0、週1回未満=0.5、週1、2回=1.5、週3、4回=3.5、毎日=5)を使って、週に宿題を出す回数の平均値を計算すると、日本が3.9回、韓国が1.1回、アメリカが2.7回、ドイツが3.7回、フランスが1.5回、スウェーデンが0.6回、スペインが2.3回となる。主要国の中では、日本が最も多い。

なお宿題といっても数分で終わる簡単なものがあれば、手間がかかるものもある。上記の調査では、「どれくらいの時間がかかる宿題を出すか」もたずねている。回答分布から平均値を出すと、日本は22分であるのに対しフランスは10分だ。横軸に宿題を出す回数、縦軸に宿題に要する時間の平均値をとった座標上に、調査対象の57カ国のドットを配置すると<図2>のようになる。

右上は、比較的ヘビーな宿題が多く出る国で、旧共産圏やアジア諸国が多い。日本もこのゾーンで、勤勉な国民性と関連があるのかもしれない。

対局の左下にあるのは、宿題に重きが置かれない国だ。フランスはこの典型で、自由の国・オランダも近辺にある。韓国もこのタイプで、他のアジア諸国と隔たっているのは意外だ。超受験社会で、早いうちから塾通いなどをする子が多いためか。右上は大きな課題を少数出す国で、イタリアが該当する。

宿題が多い国があれば、そうでない国もある。それぞれのお国柄の所産で、どちらがいい・悪いという話ではない。

長期休暇中の宿題など子どもの才能の芽を摘む足かせで、夏休みくらいやりたいことをうんとやらせればいいのではないか。ユーチューバーを志す子がいるなら、思う存分動画を作らせればいい。理想と現実のギャップを知る機会にもなる。こういう考えもあるだろう。

一方で、夏休みの宿題は大きな仕事をコツコツ計画的に成し遂げることを体験させる「隠れたカリキュラム」でもあり、それを取り上げるのは、子どもの成長を阻むことにもなる、という捉え方もあるだろう。

極端な結論は出さず、地域や学校の実情に応じてグラデーションをつければいい。だが最近流行っている宿題代行業は感心できない。子どもを受験に集中させたい親から依頼を受けてやっていることだが、ズルをしてもいいのだと子どもに教え込むことになってしまう。宿題は学習指導要領で定められたことではないので、取り締まりのしようがないのだが、文科省もよくは思っていない。

現在は「代行」の時代だが、許される代行もあればそうでない代行もある。この区別はつけておきたいものだ。

<資料:IEA「TIMSS 2019」>

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舞田敏彦(教育社会学者)

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