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「自転車と盆栽のまち」さいたま市で、遠隔制御ライトアップが生み出す地域活性化の種

ニューズウィーク日本版 2023年11月22日 17時0分

<盆栽美術館をライトアップするパナソニックの街演出クラウド「YOI-en」が、地域の魅力を増幅させる>

去る11月5日、120年の歴史を持つ世界最高峰の自転車レース、ツール・ド・フランスをその名に冠する「2023ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」が、埼玉県のさいたま新都心駅周辺で開催された。

これは、今夏に開催されたツール・ド・フランスの総合優勝者をはじめ、各賞を獲得したトップ選手が参戦した本格的なロードレース。「クリテリウム」とは、市街地などにコースを設けて周回する方式のレースを言う。

今回で9回目の開催であり人気が定着したこともあって、会場には多くの自転車レースファンが詰めかけ、沿道から大きな声援を送った。接戦の末、スロベニアのタデイ・ポガチャル選手が優勝を飾った。

ただし今年の大会、ただの自転車レースではない。本格的なインバウンド回復を図るため観光庁が公募した「観光再始動事業」に採択された「SAITAMA Wheel 2023」のコンテンツのひとつでもあったのだ。

観光再始動事業の事業要件には「インバウンドに資する体験コンテンツ・イベント」とあり、注釈として「これまでに一度も開催されたことがない」と記されている。そしてこの要件を満たし、採択の決め手となったであろう「SAITAMA Wheel 2023」の、もうひとつのコンテンツがある。

さいたま市大宮盆栽美術館で開催中の、夜間特別ライトアップイベント「THE盆栽 小宇宙の旅」だ。

日本唯一の盆栽専門美術館で、初のライトアップイベント

さいたま市には「大宮盆栽村」と呼ばれるエリアもあり、日本の伝統産業であり文化でもある盆栽のメッカである。例年5月には「大盆栽まつり」が開催され、国内外から愛好家が集う。

今回の「THE盆栽 小宇宙の旅」は、ライトアップという通常とは異なる見せ方で、自動車レースをきっかけに訪れるインバウンド観光客を含め、より多くの人に盆栽の魅力を知ってもらうため企画された。日本唯一の盆栽専門美術館、さいたま市大宮盆栽美術館にとっても、初の試みとなるイベントだ。

ライトアップされるさいたま市大宮盆栽美術館の庭園

ライトアップシステムとして導入されたのは、照明器具のリーディングカンパニーであるパナソニックの「YOI-en(ヨイエン)」である。

ライトアップは通常、現場で照明を制御する必要があるが、同社が「街演出クラウド」と呼ぶこのシステムは、インターネット経由で遠隔地から制御できる。広域・多拠点にわたる多彩な照明演出も可能な、「街あかり」のクラウド型サービスだ。

今回パナソニックは、美術館の庭園全体に各種の照明を配置。「盆栽×宇宙」をテーマに、伝統的で温もりを感じる電球色をはじめ、四季それぞれの色彩を表現した演出、そして秋を代表する星座であるアンドロメダ座も浮かび上がる宇宙の計6シーンを各90秒にわたって表現している。これを約10分間で1ターンとして、ループ再生される。

来場者が自分でライトアップを制御できる体験型コンテンツ

今回のイベントでは、「YOI-en」を使った来訪者向けの体験型コンテンツ「YOI-iro(ヨイイロ)」も複数用意された。

そのひとつが、庭園全体を見渡す美術館2階のテラスから楽しめるパノラマ演出だ。体験者がスマートフォンで2次元コードを読み取り、アプリ内で自身の誕生日を入力すると、12色あるパターンの中から誕生日カラーが選ばれ、庭園全体のライトアップが体験者だけの特別なものとなる(20秒間)。

ふたつめが、1階庭園の入り口に配置されたメイン盆栽にプロジェクションマッピングを投影するインタラクティブ演出だ。これも体験者が2次元コードをスマホで読み取り、同じく誕生日を入力するものだが、目の前の盆栽には「おすすめの惑星への旅」という映像が投影される。同時に体験者のスマホ画面には、太陽系惑星をイメージした占い結果が表示されるというプログラムだ。

「YOI-en」ならではの仕掛けであり、盆栽が映し出す小宇宙を体感できるユニークな試みと言えるだろう。

会場に用意された「YOI-iro」の2次元コード

先進デジタルテクノロジーが「地域のファン」づくりの一助に

「YOI-en」を用いたさいたま市大宮盆栽美術館のライトアップイベントについて、開発者であるパナソニック エレクトリックワークス社の青木昌広氏は、その多彩な照明演出により「新しい街の賑わいを創出し、街演出の運用支援を行いたい。何より、新たな体験価値を生む『心を動かすコンテンツ』で感動を届けたい」と語る。

これまでに「YOI-en」は、京都で2022年秋に開催されたアートイベント「NAKEDヨルモウデ2022平安神宮」や、2023年2月の「サッポロアートキャンプ」(札幌芸術の森)に導入された実績がある。直近ではインドや横浜、そして来年度中には常設での運用も予定されている。

インドの照明演出は、日本国内のクラウドサーバーを通じて、つまり日本から遠隔で照明演出をコントロールするものだ。となれば、このシステムの活用により、日本や世界のどこであっても、その自然や街並みといった風景のポテンシャルを増幅させ、観光資源として価値を高めることができるのではないか。

さいたま市は「自転車レース」と「盆栽」を観光資源として活用し、地域活性化につなげようとしている。これら2つのコンテンツをさらに強化し、持続可能なまちづくりを進めるためには、「さいたま市に愛着を抱く自転車レースファン、盆栽ファン」を増やしていく努力が必要だろう。

照明演出が、そんな「地域のファン」づくりの一助となる――。さいたま市の取り組みは、先進のデジタルテクノロジーが持続可能なまちづくりにも役立つことを示していると言えるのかもしれない。

<イベント概要>
■タイトル:THE BONSAI microcosm journey THE盆栽 小宇宙の旅
■開催場所:さいたま市大宮盆栽美術館
■開催日時:2023年12月10日までの金・土・日・祝日夜間限定
      土曜:17:00~20:00、金・日曜:17:00~19:00
■入場料:一般310円(通常時同様)

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