<杉田水脈衆院議員は、一連の差別発言について反省するどころか差別を煽るような投稿を繰り返している。SNSを中心に支持者によるヘイトスピーチの再生産も行われている>
7年前のブログの記述が民族差別に当たるとして9月と10月に札幌と大阪の法務局から「人権侵犯」認定された自民党の杉田水脈衆院議員の暴走が止まらない。これまで数々の差別発言が問題になってきた杉田議員だが、今回の件を受けてもなお、自身の言動が差別であったことを認めず、ヘイトスピーチを更に重ねている。
杉田議員が折れないことにより、SNS等ではそれを応援する者などによるヘイトスピーチがむしろ激しくなっている。こうした混乱については、杉田議員が所属する自民党にも責任がある。だが自民党はいまなお、杉田議員に対する処分を下せていない。安倍晋三元首相の肝入りで優遇されてきた杉田議員を、内閣支持率が低下中の自民党は切ることができない。
懲りない杉田議員
「人権侵犯」に認定されたのは、杉田水脈議員が2016年(当時は議員落選中)に投稿したブログ記事での「チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさん」「同じ空気を吸っているだけでも気分が悪くなる」などの記述。これが、在日コリアンやアイヌへの差別だとされた。
しかし杉田議員といえば、これらの「人権侵犯」認定された発言以外にも、様々な差別発言、差別行為が問題になってきた。2018年に雑誌に投稿した、同性カップルは「生産性がない」という記述が問題になり、2022年に総務政務官を辞任したことも記憶に新しい。この「生産性」発言に対しては、性的マイノリティだけでなく、障害を持つ人や難病患者も傷つけるものだとして、そうした当事者たちも抗議を行っている。
他にも、性暴力被害者に対して「女としての落ち度があった」「女性はいくらでもウソをつける」などの発言が問題にされたこともある。杉田水脈議員はエスニシティにせよセクシュアリティにせよ、あらゆる方面に対してヘイトスピーチを繰り返している「常習犯」だと言ってよいだろう。
しかし当の杉田水脈議員は、一連の差別発言について反省する素振りすら見せず、X等で差別を煽るような投稿を繰り返している。その副作用として、SNSを中心に杉田議員の差別発言を擁護する動きが発生しており、そのことによりマイノリティへのヘイトが再生産されるという悪循環が生じている。
たとえば、「在日特権」というデマがある。日本にいる在日コリアンは、様々な優遇措置を国や地方から受けているというもので、10年ほど前「在日特権を許さない市民の会(在特会)」という排外主義団体が繰り返し主張してヘイトデモを繰り返したことで話題になった。「在日特権」の存在は様々な専門家により否定されており、たとえば比較的早期に在特会を取材したジャーナリスト、安田浩一氏の著書『ネットと愛国』でも、「在日特権」と呼ばれる数々のことはデマあるいは「特権」と呼べる代物ではないと示されている。。安田氏は2016年にヘイトスピーチ解消法が成立した際にも、テレビ番組で「在日特権」は存在しないという言質を自民党議員からとっている。
「在日特権」デマは在特会の衰退もあり、近年ではほとんど聞かれなくなった。しかし共同通信が過去に杉田議員が「在日特権」について言及していたことを記事にし、その記事について杉田議員が「言論の自由」と開き直ったことで、再びこのデマがネットで復活しようとしている。
このヘイトスピーチの再生産を止めるには、暴走している本人はともかく、所属政党である自民党が何らかの処分を下すことが必要だろう。本人の意志に反して衆議院議員を辞職させることはできないとしても、離党させることなどは出来る。しかし自民党はまだ、杉田議員に対する対応を何も示していない。
問題の根源は歴史修正主義
なぜ自民党は「人権侵犯」認定をされた杉田議員に対して何も対応しようとしないのか。そもそもこうした差別発言を繰り返してきた杉田議員が、なぜ今なお自民党の議員を続けていられるのか。いや、このような疑問を持つこと自体が間違っているのかもしれない。なぜなら、上述のような差別発言を繰り替えしてきた人格こそが、自民党が杉田議員をスカウトした理由と思われるからだ。
「人権侵犯」認定をされた先述の在日コリアン及びアイヌに対するヘイトスピーチは、2016年にスイスで開かれた国連女性差別撤廃委員会に、当時議員落選中の杉田氏が参加したときに行われたものだ。杉田氏がこの委員会に行ったのは、日本軍「慰安婦」問題について、「慰安婦」の性奴隷性の事実を否定するためだった。
杉田氏は2012年に日本維新の会から出馬して当選するも、2014年、次世代の党から出馬して落選。浪人中は、議員在職中から行っていた歴史修正主義や排外主義的な運動に注力することになる。人脈としては、9月に日本保守党を結成した、故安倍元首相に近かった人々に連なる。LGBTに対する「生産性」発言も、2018年の雑誌記事以前に、2015年のネット番組で同様の発言を行っている。しかし、わざわざスイスにまで行っていることからも分かるように、そのとき中心的に取り組んでいたのは歴史修正主義、特に日本軍「慰安婦」問題の否定だった。
この「熱心な」歴史修正主義活動によって、杉田氏は当時の安倍首相に認められることになる。そして安倍首相の意向で、杉田氏は自民党にスカウトされ、2017年の衆議院選挙で比例中国ブロックの単独一位という、誰でも議員になれるような特別席をあつらえてもらい、議員に当選したのだ。
従って、杉田議員がヘイトスピーチを繰り返すのは、ある意味では与えられた役割を全うしていただけともいえる。杉田議員の様々な差別発言はその都度、自民党支持層の中でも最も保守的なグループを喜ばせてきたからだ。
安倍政権時代の自民党支持率の安定化に貢献したいわゆる「岩盤支持層」の中心は、排外主義や歴史修正主義に喝采する保守層であり、この保守層の離反が今の岸田自民党の低支持率に影響している。参政党や日本保守党など自民党より右の政党が結成される中、杉田議員を処分すれば、自民党はますます保守派の離反を招きかねない。だから岸田政権は安倍元首相の置き土産である杉田水脈議員を切ることができないのだ。
7年前のブログの記述が民族差別に当たるとして9月と10月に札幌と大阪の法務局から「人権侵犯」認定された自民党の杉田水脈衆院議員の暴走が止まらない。これまで数々の差別発言が問題になってきた杉田議員だが、今回の件を受けてもなお、自身の言動が差別であったことを認めず、ヘイトスピーチを更に重ねている。
杉田議員が折れないことにより、SNS等ではそれを応援する者などによるヘイトスピーチがむしろ激しくなっている。こうした混乱については、杉田議員が所属する自民党にも責任がある。だが自民党はいまなお、杉田議員に対する処分を下せていない。安倍晋三元首相の肝入りで優遇されてきた杉田議員を、内閣支持率が低下中の自民党は切ることができない。
懲りない杉田議員
「人権侵犯」に認定されたのは、杉田水脈議員が2016年(当時は議員落選中)に投稿したブログ記事での「チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさん」「同じ空気を吸っているだけでも気分が悪くなる」などの記述。これが、在日コリアンやアイヌへの差別だとされた。
しかし杉田議員といえば、これらの「人権侵犯」認定された発言以外にも、様々な差別発言、差別行為が問題になってきた。2018年に雑誌に投稿した、同性カップルは「生産性がない」という記述が問題になり、2022年に総務政務官を辞任したことも記憶に新しい。この「生産性」発言に対しては、性的マイノリティだけでなく、障害を持つ人や難病患者も傷つけるものだとして、そうした当事者たちも抗議を行っている。
他にも、性暴力被害者に対して「女としての落ち度があった」「女性はいくらでもウソをつける」などの発言が問題にされたこともある。杉田水脈議員はエスニシティにせよセクシュアリティにせよ、あらゆる方面に対してヘイトスピーチを繰り返している「常習犯」だと言ってよいだろう。
しかし当の杉田水脈議員は、一連の差別発言について反省する素振りすら見せず、X等で差別を煽るような投稿を繰り返している。その副作用として、SNSを中心に杉田議員の差別発言を擁護する動きが発生しており、そのことによりマイノリティへのヘイトが再生産されるという悪循環が生じている。
たとえば、「在日特権」というデマがある。日本にいる在日コリアンは、様々な優遇措置を国や地方から受けているというもので、10年ほど前「在日特権を許さない市民の会(在特会)」という排外主義団体が繰り返し主張してヘイトデモを繰り返したことで話題になった。「在日特権」の存在は様々な専門家により否定されており、たとえば比較的早期に在特会を取材したジャーナリスト、安田浩一氏の著書『ネットと愛国』でも、「在日特権」と呼ばれる数々のことはデマあるいは「特権」と呼べる代物ではないと示されている。。安田氏は2016年にヘイトスピーチ解消法が成立した際にも、テレビ番組で「在日特権」は存在しないという言質を自民党議員からとっている。
「在日特権」デマは在特会の衰退もあり、近年ではほとんど聞かれなくなった。しかし共同通信が過去に杉田議員が「在日特権」について言及していたことを記事にし、その記事について杉田議員が「言論の自由」と開き直ったことで、再びこのデマがネットで復活しようとしている。
このヘイトスピーチの再生産を止めるには、暴走している本人はともかく、所属政党である自民党が何らかの処分を下すことが必要だろう。本人の意志に反して衆議院議員を辞職させることはできないとしても、離党させることなどは出来る。しかし自民党はまだ、杉田議員に対する対応を何も示していない。
問題の根源は歴史修正主義
なぜ自民党は「人権侵犯」認定をされた杉田議員に対して何も対応しようとしないのか。そもそもこうした差別発言を繰り返してきた杉田議員が、なぜ今なお自民党の議員を続けていられるのか。いや、このような疑問を持つこと自体が間違っているのかもしれない。なぜなら、上述のような差別発言を繰り替えしてきた人格こそが、自民党が杉田議員をスカウトした理由と思われるからだ。
「人権侵犯」認定をされた先述の在日コリアン及びアイヌに対するヘイトスピーチは、2016年にスイスで開かれた国連女性差別撤廃委員会に、当時議員落選中の杉田氏が参加したときに行われたものだ。杉田氏がこの委員会に行ったのは、日本軍「慰安婦」問題について、「慰安婦」の性奴隷性の事実を否定するためだった。
杉田氏は2012年に日本維新の会から出馬して当選するも、2014年、次世代の党から出馬して落選。浪人中は、議員在職中から行っていた歴史修正主義や排外主義的な運動に注力することになる。人脈としては、9月に日本保守党を結成した、故安倍元首相に近かった人々に連なる。LGBTに対する「生産性」発言も、2018年の雑誌記事以前に、2015年のネット番組で同様の発言を行っている。しかし、わざわざスイスにまで行っていることからも分かるように、そのとき中心的に取り組んでいたのは歴史修正主義、特に日本軍「慰安婦」問題の否定だった。
この「熱心な」歴史修正主義活動によって、杉田氏は当時の安倍首相に認められることになる。そして安倍首相の意向で、杉田氏は自民党にスカウトされ、2017年の衆議院選挙で比例中国ブロックの単独一位という、誰でも議員になれるような特別席をあつらえてもらい、議員に当選したのだ。
従って、杉田議員がヘイトスピーチを繰り返すのは、ある意味では与えられた役割を全うしていただけともいえる。杉田議員の様々な差別発言はその都度、自民党支持層の中でも最も保守的なグループを喜ばせてきたからだ。
安倍政権時代の自民党支持率の安定化に貢献したいわゆる「岩盤支持層」の中心は、排外主義や歴史修正主義に喝采する保守層であり、この保守層の離反が今の岸田自民党の低支持率に影響している。参政党や日本保守党など自民党より右の政党が結成される中、杉田議員を処分すれば、自民党はますます保守派の離反を招きかねない。だから岸田政権は安倍元首相の置き土産である杉田水脈議員を切ることができないのだ。