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「タイミング悪すぎ」...ディズニーを悩ませる、イスラエル人女戦士サブラの『キャプテン・アメリカ』参戦

ニューズウィーク日本版 2023年11月24日 14時58分

<映画『キャプテン・アメリカ』の新シリーズ発表直後に、ハマスとイスラエルの戦争勃発。イスラエル人女性ヒーローへの反発が起きないかたちで作品を描くことは可能なのか?>

2022年9月、マーベル・スタジオはシリーズ第4弾『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(原題)に新たなメンバーが加わると発表した。イスラエル人の女性スーパーヒーロー、サブラだ。

この発表は直後から物議を醸したが、今年10月にイスラエルとイスラム組織ハマスとの間に戦争が勃発。マーベルの親会社でマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品を配給するディズニーの立場は、ますます厳しくなっている。

10月7日にハマスの奇襲を受けたイスラエルは、報復としてパレスチナ自治区ガザに空爆を開始した。11月11日現在イスラエル側で少なくとも1200人、ガザでは1万1000人以上が死亡したと、AFP通信は報じている。

「サブラが(アメリカの正義を象徴する)キャプテン・アメリカと一緒に戦えば、国粋主義や政治的イデオロギーをあおることは必至で、中東ではいっそう緊張感が高まるかもしれない」と、ケース・ウェスタン・リザーブ大学のディーパク・サーマ教授(哲学)は指摘する。

反発が起きない形でサブラを描写することは可能なのだろうか。

サブラが初めてマーベル・コミックに登場したのは1981年の『超人ハルク』でのこと。ミュータントの彼女は怪力などのスーパーパワーを持つだけでなく、イスラエルの秘密情報機関モサドの工作員という設定だった。コードネームのサブラは「イスラエル生まれの人」を意味する。

25年に全米公開予定の『キャプテン・アメリカ』では、ネットフリックスのドラマ『アンオーソドックス』で知られるイスラエル出身のシラ・ハースが彼女を演じる。

もともとサブラはキャプテン・アメリカのイスラエル版として考案された。初期のコミックでは胸にユダヤ民族の象徴である青い「ダビデの星」をあしらった、白いボディースーツを着ていた。肉弾戦に強い一方で、傷ついた体を癒やすパワーも併せ持つ。

「中東の複雑な情勢や愛国心を考えるなら、パレスチナ人、アラブ人、イスラム教徒はサブラを不快に思うだろう」と、サーマは言う。「しかも今はイスラエルとハマスの戦闘で緊張が著しく高まっている」

多様性がテーマの一人芝居『フリーダム・オブ・スピーチ』の上演を続ける活動家で声優のエライザ・ジェーン・シュナイダーは、こう語る。

「サブラはイスラエル人で、しかも政府に雇われてテロと戦う工作員。幅広い影響力を持つマーベルがそんなスーパーヒーローにスポットライトを当てれば、さらなる分断をあおりかねない。マーベルとアメリカは共にイスラエルの政策を支持し、喧伝していると見なされるかもしれない」

サブラを演じるイスラエル出身のシラ・ハース ARTURO HOLMESーFILMMAGIC/GETTY IMAGES

「平和の使者」に変身?

本誌はマーベル・スタジオにコメントを求めたが、回答はなかった。

昨年サブラの登場に対してバッシングが起きると、同社は声明で次のように述べた。「われわれのキャラクターと物語はコミックに着想を得ているが、映画化の際は現在の観客に合わせて創造し直す。サブラについても新しいアプローチを取っている」

サブラに関しても、イスラエル・パレスチナ間の根強い対立に関しても、コミックの描写は細やかさを欠いていた。

イスラエルの漫画家ハガイ・ギラーがタイムズ・オブ・イスラエル紙で、「マーベルはろくに調べず、イスラエルをステレオタイプに描いた」と批判したとおりだ。

サブラは初登場回でハルクがアラブの武装組織を支援していると誤解し、彼を攻撃する。やがてパレスチナ人の少年が彼らの戦闘に巻き込まれて死亡。

ハルクは「この子が死んだのは、彼の民族とおまえの民族が土地を奪い合うからだ。おまえたちが分かち合わないせいでこの子は死んだのだ」と、サブラに説教する。

この一件で慈悲に目覚めたかに見えたサブラだが改心は長続きせず、その後もアラブ系のキャラクターに対する色眼鏡は変わらなかった。

95年のコミック『ニュー・ウォーリアーズ』ではパレスチナ人を恨む動機の説明として、幼い息子をテロで殺された過去が付け加えられた。

マーベルの単細胞な愛国主義は1941年のキャプテン・アメリカ誕生までさかのぼる。だがキャプテンはその後コミックでも映画でも何度も自分の正義を疑い、見つめ直した。マーベルもコミックを映画化する際は、世論や政治の変化に合わせてキャラクターをアップデートした。

例えば60年代の冷戦下に登場したレッド・ガーディアン。キャプテン・アメリカに対抗してソ連が生み出した超人兵士だが、2021年の『ブラック・ウィドウ』ではデビッド・ハーバーが初老のレッド・ガーディアンを哀愁を交えて演じ、笑いを誘った。

サブラもそんなふうに肉付けすればいいと、シュナイダーは考える。「(映画は)パレスチナ紛争の両側からサブラに人生と愛を体験させるチャンス」だと、彼女は言う。

「欠点はあるが献身的なこの女性スーパーヒーローがどちらの味方なのか、終盤まで曖昧にしておくのもいい。自分の忠誠心に疑問を抱き、敵味方に関係なく子供と民間人を守りたいという願いと愛に揺れるサブラを描けば、万人に等しく備わった命の大切さを訴えられる」

一方、サーマは懐疑的だ。「映画館で抗議活動が起きるどころか、アラブ諸国やイスラム教の国々では上映禁止になりかねない」と、彼は言う。

マーベルとディズニーがキャラクターのポジティブな特性を生かすことを、シュナイダーは期待している。

「サブラには自分の生命力を使って他人の傷を癒やすパワーが、備わっている。愛や許し、慈悲、平和の使者に彼女はうってつけだ」

『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』公式トレイラー

Marvel Studios' Captain America: New World Order - First Trailer (2024)/Screen Culture

  

イスラエル人女戦士サブラ役・シーラ・ハースのインスタグラム

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