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アルカイダの手紙、9.11を知らないZ世代の共感を得る...SNSで拡散中の理由とは?

ニューズウィーク日本版 2023年11月27日 18時10分

<ガザ地区で戦いが続くなか、2001年に9.11同時多発テロを実行した国際テロ組織の書簡がZ世代の共感を得たが>

パレスチナ自治区ガザで戦闘が続くなか、「TikTok(ティックトック)」などのソーシャルメディアで国際テロ組織アルカイダの「手紙」が拡散されている──先頃、アメリカのメディアがこんな話題で持ち切りになった。

2001年の9.11同時多発テロを実行したアルカイダが公表した書簡「アメリカへの手紙」の一節を紹介する動画が大量に投稿されて、一部のZ世代の間で反響を呼んでいるという。

この書簡が最初にネット上に出回ったのは、アメリカで多くの人命を奪った9.11テロの1年ほど後。反ユダヤ的な性格が強く、アルカイダの主張を訴えてテロ攻撃を正義の聖戦だと正当化し、欧米への批判を列挙する内容だ。

【動画】アルカイダの「アメリカへの手紙」に共感する人々の主張

投稿動画は、書簡の数々の主張の中の一部にだけ光を当てている。それは、パレスチナにユダヤ人国家を樹立することを支援したアメリカを厳しく批判したくだりである。

動画では、アルカイダのリーダーだったウサマ・ビンラディン(この書簡の執筆者だと考えている人が多い)を欧米による抑圧と戦う英雄と位置付けている(ビンラディンは11年に米軍特殊部隊の急襲により潜伏先で死亡した)。

「アメリカへの手紙」はもともと、学術的文献で紹介されているほか、英紙ガーディアンのウェブサイトでも閲覧できるようになっていた。

しかし、ガザ戦争が始まり、Z世代のソーシャルメディアユーザーがこの書簡を初めて知って共感を抱いた。この世代の民主党支持者の間では、ガザ戦争でイスラエルを強力に支持するバイデン政権に批判的な人が多いのだ。

9.11を知らない世代

当初メディアはそう分析していたが、実際には、その種の動画が数百点投稿されていたものの、広大なTikTokの世界ではごく一部のユーザーにしか届いていなかった。

一連の動画が本格的に多くの人の目に触れたのは、「X」(旧ツイッター)で大勢のフォロワーを擁する有名ジャーナリストがこの件について投稿し、メディアが大きく取り上げたことがきっかけだった。その後、ガーディアンがウェブサイトから書簡を削除すると、政府による検閲を疑う陰謀論が広がった。

騒動は誇張されているが、そもそもこのような動画が登場した理由は検討に値する。

9.11テロ後に生まれたZ世代のアメリカ人の多くにとって、ビンラディンは遠い歴史上の人物だ。この世代は、あの悲劇の一日を同時代に経験していないために、アルカイダに都合のいい歴史解釈を受け入れやすいのだろう。Z世代のネット利用時間が長く、既存メディアへの不信感が強いことの影響もありそうだ。

加えて、「アメリカへの手紙」は、アルカイダの憎悪に満ちた暴力的イデオロギーにあまり光を当てていない。

この書簡の表面だけ読めば、ビンラディンとアルカイダは、弱者の代弁者として植民地主義に異を唱え、中東地域を牛耳る欧米の資本主義支配と戦っているように思えるだろう。アルカイダの思想について深い知識を持たない若者が、書簡に盛り込まれた主張に共感を抱いても不思議でない。

一方、分派として生まれた過激派組織「イスラム国」(IS)は、イデオロギー上の共通点は多いのに、Z世代にあまり支持されていない。主な理由は、ISによる欧米でのテロや中東での残酷な処刑の映像を、Z世代もリアルタイムで目撃しているからだ。

さらにアメリカの多くのZ世代は、9.11テロが欧米で生み出した反射的な愛国心やナショナリズムに疑念を抱いている。03年の悲惨なイラク戦争は実際にはアルカイダや9.11テロと関係なかったが、当時は残虐なテロに対する正当な対応と喧伝されたことも、彼らの疑念を強めた。

パレスチナ軽視だった

最近も10月7日のイスラエルに対するイスラム組織ハマスの奇襲攻撃を「脱植民地化」に必要な「苦い現実」と見なす言説がネット上で人気を集めた。アルカイダのような凶悪なテロ組織の文章が都合よく切り取られ、ネットの片隅で正当な抵抗の言葉として再評価される背景には、このような現実認識がある。

ネット空間には、ビンラディンは貧しい家庭で育ち、米軍の占領に苦しんだ個人的体験があるという誤った思い込みもある。実際にはビンラディンもその片腕で後継者のアイマン・アル・ザワヒリも、裕福なエリート家庭の出身だ。

アルカイダのような組織の大義に共感する若者の一部は、国際政治と世界史に対する理解が危険なほど狭い。その根底にあるのは、抑圧や問題行動を欧米の専売特許と見なす発想であり、それによって欧米以外の勢力の役割と責任を無視している。そのため、いかなる組織や人物も非欧米というだけで正義のために戦う善良な存在と見なされる。

皮肉なことに、アルカイダのような組織は現地では本質的に極右に位置付けられる。宗教や民族のアイデンティティーを利用して女性や他宗派、LGBTQ(性的少数者)の権利を抑圧するファシストだ。

実は「アメリカへの手紙」はビンラディンではなく、ザワヒリによって書かれた可能性がある。07年にザワヒリが書いた「欧米へのメッセージ」と題された一連の文章の中で、この書簡が取り上げられているからだ。

こうした重要な細部は、ソーシャルメディアを使って情報の断片を拡散させる人々の目に留まらない可能性が高い。

もう1つ、この書簡の一部を広めた人々が見落としているのは、ビンラディンとザワヒリが80年代、パレスチナ人イスラム法学者のアブドゥラ・アッザムと決別したという事実だ。アッザムは旧ソ連のアフガニスタン撤退後、次の世界的聖戦の目標はパレスチナだと主張していた。

実際、パレスチナがアルカイダの最優先目標の1つだったことはない。パレスチナの大義を意図的に強調することで、アラブ世界の大衆の同情を集め、アルカイダへの支持を広げようとはしたが。

若い世代のアルカイダへの関心の高まりは、この組織の問題点も含めた歴史の全体像を出発点にしなければならない。動画の切り取りやミーム、アルゴリズムではなく。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2023年12月5日号掲載>

Over the past 24 hours, thousands of TikToks (at least) have been posted where people share how they just read Bin Laden's infamous "Letter to America," in which he explained why he attacked the United States.The TikToks are from people of all ages, races, ethnicities, and... pic.twitter.com/EwjiGtFEE3— Yashar Ali (@yashar) November 16, 2023



サジャン・ゴヘル(アジア太平洋財団ディレクター)

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