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お金のプロはこう考えている...「老後の備え」と新NISA、本当の「最適解」とは?

ニューズウィーク日本版 2023年11月29日 10時39分

<「2000万円問題」で老後の不安を抱える人は多い。「資産を守る」には何が必要で、新NISAをどう活用すべきかを投資のプロに聞く。本誌「まだ間に合う 新NISA 投資入門」特集より>

何のために投資をするか──目的は人それぞれだが、「将来や老後に備えた資産形成のため」と考える人は多いだろう。9月に日本銀行が発表した統計によれば、家計の金融資産は過去最高の2115兆円に達したが、その過半数は現預金。つまり、既にある程度の資産を保有する人でも、その多くを貯金したまま「眠らせている」のが日本の現実だ。

ではインフレが本格化しようとしている現在、資産をこのまま貯金の形で持っておくことが、本当に老後に備えて資産を「守る」ことになるのか? 老後に不安があるならなおのこと、お金との付き合い方を見直すべき時が来ていると言える。

「まず、新NISAという素晴らしい制度ができ、これを有効に活用すべきだということは言っておきたい」「一方で、新NISAとは関係なく、現在は『時代の転換点』であることも認識しなければならない」と話すのは、投信運用や投資助言を行うレオス・キャピタルワークスの藤野英人会長兼社長。「インフレという社会的な脅威が始まった今のタイミングで、たまたまこれと戦うための新NISAという武器を授かったと考えるべきだ」と言う。

長いデフレがついに終わり、インフレの時代に差しかかっている日本では、資産についての「合理性」も以前とは変化している。「デフレではお金の価値が上がるので、節約してお金をためるという考え方には合理性があった」と、藤野氏は言う。その時代が30年続いたため、日本ではある種の「正解」として根付いた。

「現金の価値が下がって目減りするインフレ経済を実感として知っている人は少ない。だが、今までは良かったことがそうではなくなり、『投資をしなければならない』時代になった。現金だけで持っているのはむしろリスクがあるため、資産を『増やす』というよりも『守る』ために、10%でも20%でもいいので資産の一部を投資に充てていくべきだ」

■資産を「守る」ための投資法

では、資産を守るための投資には、どういった考え方や方法が求められるのか。藤野氏によれば、そこには「3つの原則」がある。「小さく、ゆっくり、長く」だ。

藤野氏は「1000万円の貯金がある人は結構いる。そういう人が投資を始める際にどんと株に突っ込み、株価が下がったことに焦って売ってしまい、損をして『もう二度と投資はしない』となってしまうことがある」と話す。「NISAは儲かった部分を非課税にする制度で、損を補塡してくれるものではない」

「そうではなく『手に汗をかかない』くらい、無理のない投入金額から始めるのが大事。それで相場の上がり下がりに慣れることが必要だ」

その上で、一度に資金を全部投入するのではなく、積立投資や2回3回に分けて「ゆっくり」投資することで「時間分散」することが重要だと言う。さらには「長く」持つことを意識し、特に初心者は株を持っていることに慣れる必要がある。

「株価が上がるのは、その企業が利益を出したから。一時的には別の要因で上がり下がりすることがあっても、長く持つほどその企業の利益と株価が一致するようになる」と、藤野氏は言う。つまり一時的な値動きに慌てないこと。そのためには「最低3年は持つ」のがよいと言う。

■投資の初心者がまずやるべきことは?

では、投資をしたことがない人が、まずすべきことは何なのか。そこで重要になるのが、藤野氏が「武器を授かった」と話す新NISAの存在だ。利益が非課税となる枠が大きく拡大され、投資で資産を守る上でのハードルが下がったからだ。

藤野氏は、この制度を「政府から国民への最大のプレゼント」と表現する。「取りあえず、やるべきことはNISA口座を作ること。実際に投資をするかどうかは別としても、まずは作ることだ」

まずは「NISAに対応した口座を作る」という行動を起こしてみることが、30年間にわたる常識から脱して投資を始める第一歩となる。それに長期的な資産形成を考えれば、投資の期間は長ければ長いほど有利であり、つまり始めるのは早ければ早いほど有利になる、というのは前述したとおりだ。それでも、新NISAができたから、口座を作ったからといってすぐに投資を始めなければと焦る必要はない。

投資を始めるタイミングについて藤野氏は、こう助言する。「新NISAは今後もずっと続くものなのですぐ始める必要はなく、自分の都合でいつ始めてもいい。投資をする上で最悪なのは『せかされる』こと。有利な制度ができたことは確かなので、どれくらいの資産を目標にするのか、どれくらいの投入金額なら手に汗をかかないかを自分の心に問いかけ、落ち着いて考えればいい」

■貯蓄と投資の望ましいバランス

資産形成の一環として投資を始める場合、気になるのは資産のどれくらいを貯金や保険、不動産、そして投資に割り振るのがいいのか。このバランスについて藤野氏は、「金融はおしなべてオーダーメイドであり、正しいモデルが存在するという『神話』から脱するべきだ」と言う。

「例えばファイナンシャル・プランナーなどに、何歳で何のライフイベントがあり......と『人生モデル』を提示されることがあるが、実際にそんな人生を歩んでいる人は少ない。誰かのプランは自分に合わない。大事なのは選択肢を持つことで、自分にとって一番幸せな形を考えるべき。だから投資は、自分が手に汗をかかない程度のバランスが大事だ」

実際、老後の不安について「いくらあれば安心か」は、どこでどういう老後を送るかによって全く違う。「老後資金2000万円」問題が注目されたが、都会で住宅ローンが残っている場合や、それなりに贅沢をしたいという人なら仕事を続けるか投資でリターンを得る必要がある。だが住居費も水道代もほぼかからない地方で、自給自足に近い生活をするなら必要となる資産額も大きく変わる。

■老後の備えはお金だけじゃない

さらに言えば、幸せな「老後」を送れるかどうかを決める要因はお金の問題だけではないことを認識すべきだと藤野氏は指摘する。年を取っても楽しそうに暮らしていて裕福な人は、「老後という概念をなくしている人が多い」と言う。

例えば常に現役として楽しみながら働き続けて収入を得ていれば、一般的に考えられる「老後」とは違う暮らし方、お金の使い方も可能となる。その際に重要となるのは、働く環境が得られる人間関係であったり、家族との関係、さらには健康といった要因だ。つまりお金以外の要素にも目を向けることが、「老後の不安」を減らすことにつながる。

「子供や孫に資産を遺すのはいいと思う」と、藤野氏は言う。「でも、財産のピークが『死んだとき』ではつまらなくないだろうか」

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藤田岳人(本誌記者)

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