<名曲を連発し、瞬く間に日本を代表するアーティストとなったYOASOBI。今年も「アイドル」が世界的なヒットを記録し、レコード大賞の優秀作品賞に選ばれなかったことをめぐっては選考基準を疑う声が続出するほど。時代に刺さる音楽はどう生まれてくるのか──>
「『アイドル』がノミネートされていない!」──11月22日に今年のレコード大賞の大賞候補が発表されると、YOASOBIの大ヒット曲「アイドル」がノミネートされていないことに対し、ネットで疑問と怒りの声が噴出した。
それぐらい、今年のYOASOBIはすごかった。
「アイドル」は国内ビルボードチャートで前人未到の21週連続1位を達成。TVアニメ「【推しの子】」の主題歌として、日本のみならず欧米でも大ヒットしている。6月には米ビルボードのグローバルチャートでも首位を獲得した。
「アイドル」(2023年) TVアニメ「【推しの子】」の原作者のひとりである赤坂アカが書き下ろした小説『45510』が原作。「お星様の引き立て役B」こと別メンバーのアイに対する愛憎入り混じった感情が、ボーカルの抑揚と楽曲の目まぐるしい展開によって見事に表現されている © Sony Music Entertainment (Japan) Inc. Japan) Inc. © 赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会
2020年にBTSの楽曲「Dynamite」が米ビルボード・シングルチャートで1位に輝いたことは記憶に新しい。
BTSやBLACKPINK、昨年デビューしたばかりのNewJeansなど、隣国のアーティストたちが洋の東西を問わず人々を魅了しているが、日本からも世界を視野に入れる才能が生まれてきた。いま、その新生Jポップの中心にいるのは間違いなくYOASOBIだろう。
YOASOBIはコンポーザーのAyaseとボーカルのikuraからなる音楽ユニットだ。「小説を音楽にする」プロジェクトとして、2019年にデビューした。「夜に駆ける」「群青」「アイドル」──時代精神を鮮烈に表現した名曲を立て続けに発表し、一躍日本を代表するアーティストに躍り出た2人が、このたび発表された「Penクリエイター・アワード2023」を受賞した。
11月28日発売のPen誌2024年1月号「クリエイター・アワード」特集では、代表曲「夜に駆ける」と「アイドル」を起点とした楽曲制作のアプローチと、2人が「この時代に対して感じていること」が語られている。
「アイドル」にみる2人の化学反応
彼らのデビュー作にして出世作でもある「夜に駆ける」の歌詞は、強烈にダークながら現代人の心情を鋭く捉えた小説『タナトスの誘惑』をもとに書き下ろされている。その歌詞やビルの屋上から飛び降りるミュージックビデオの描写をめぐり、ネット上には考察記事が溢れたが、Ayaseは「別に暗いものをつくろうとしたわけではありません」と話す。
「個人的に、『いつかは終わるけどね』という厭世観にグッとくるんですよね。未来永劫美しいものではなく、リミットがあって儚いものだからこそ、大切にしたい。生と死に関しても、ふたつを切り離せるわけではなく、隣同士にあるのが当たり前なんじゃないかと」(Pen誌2024年1月号より)
「夜に駆ける」(2019年) 原作は、星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』。Ayaseは、「YOASOBIではバンド時代とは違うやり方をしようと思い、レーベル担当者のフィードバックを参考に、あらかじめ20~30曲つくった中から素材をつぎはぎして曲を完成させました」と話す © Sony Music Entertainment ( © Sony Music Entertainment (Japan) Inc. Japan) Inc.
Ayaseの世界観をポップスに昇華させていく過程でikuraのボーカルが果たす役割は計り知れない。今年リリースされた「アイドル」は、そんな2人の化学反応が存分に感じられる一曲だ。
「もともと自分はヒップホップが好きだったので、いつかYOASOBIでもやってみたかったんです。ただ、ikuraがラップをした時にどうなるかは正直読めなくて。で、スタジオで本人に『アイドルらしく超ぶりっ子にしてみよう』と伝えつつレコーディングしてみたら、すごくよい仕上がりになりました」(Pen誌2024年1月号より)
これまでの楽曲で見せたことのない狂気的とも言えるラップを披露したikuraは、その意図を次のように語る。
「誰しももっている、自分ではコントロールできない本能の部分を意識的に引き出す。この曲のボーカルは時折裏返っていて、情けなく聞こえる部分があるかもしれない。だけど、YOASOBIでは、人に見せづらいところも含めて曝け出そうと決めているので、最後までやり切りました」(Pen誌2024年1月号より)
いわく言い難い感情への解像度の高さと、時代の空気をポップスに昇華させる才能で、いまを生きる人の「リアル」を表現する2人。YOASOBIを通してJポップを海外に浸透させることをミッションとする彼らの物語は、まだ始まったばかりだ。
その1年に活躍したクリエイターをたたえる「Penクリエイター・アワード」。第7回を迎えた今回は、編集部の選考によって6組が受賞。類いまれな創造性を発揮し、人々の心を動かしたクリエイターたちの名が連なっている。
YOASOBIのほかには、女優の安藤サクラ、脚本家の宮藤官九郎、作家の小川哲、建築家の永山祐子、『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭』共同創設者・共同ディレクターのルシール・レイボーズ&仲西祐介が受賞者となった。
【参考記事】Jポップを世界へ、"いま"と向き合うYOASOBIが語った「アイドル」に込めた想い
●Pen CREATORS WEEK
Pen クリエイター・アワード2023の企画展⽰。「クリエイター・アワード」の受賞者や、WEBの連動企画「BREAKING」に登場したクリエイターの紹介、作品公募×ワークショップのプロジェクト「NEXT」で制作した作品のお披露⽬も。
https://www.pen-online.jp/special/pca2023/
2023年12月1日(金)〜7日(木)
7:00 〜 22:00 | 入場無料
※ 代官⼭ 蔦屋書店の開店時間に準ずる
代官山 蔦屋書店 シェアラウンジ
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町17-5
DAIKANYAMA T-SITE 蔦屋書店3号館 2階
東急東横線「代官山駅」より徒歩5分
■Into The Night(「夜に駆ける」English Ver. )
Ayase / YOASOBI
■Idol (「アイドル」English Ver. )
Ayase / YOASOBI
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
「『アイドル』がノミネートされていない!」──11月22日に今年のレコード大賞の大賞候補が発表されると、YOASOBIの大ヒット曲「アイドル」がノミネートされていないことに対し、ネットで疑問と怒りの声が噴出した。
それぐらい、今年のYOASOBIはすごかった。
「アイドル」は国内ビルボードチャートで前人未到の21週連続1位を達成。TVアニメ「【推しの子】」の主題歌として、日本のみならず欧米でも大ヒットしている。6月には米ビルボードのグローバルチャートでも首位を獲得した。
「アイドル」(2023年) TVアニメ「【推しの子】」の原作者のひとりである赤坂アカが書き下ろした小説『45510』が原作。「お星様の引き立て役B」こと別メンバーのアイに対する愛憎入り混じった感情が、ボーカルの抑揚と楽曲の目まぐるしい展開によって見事に表現されている © Sony Music Entertainment (Japan) Inc. Japan) Inc. © 赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会
2020年にBTSの楽曲「Dynamite」が米ビルボード・シングルチャートで1位に輝いたことは記憶に新しい。
BTSやBLACKPINK、昨年デビューしたばかりのNewJeansなど、隣国のアーティストたちが洋の東西を問わず人々を魅了しているが、日本からも世界を視野に入れる才能が生まれてきた。いま、その新生Jポップの中心にいるのは間違いなくYOASOBIだろう。
YOASOBIはコンポーザーのAyaseとボーカルのikuraからなる音楽ユニットだ。「小説を音楽にする」プロジェクトとして、2019年にデビューした。「夜に駆ける」「群青」「アイドル」──時代精神を鮮烈に表現した名曲を立て続けに発表し、一躍日本を代表するアーティストに躍り出た2人が、このたび発表された「Penクリエイター・アワード2023」を受賞した。
11月28日発売のPen誌2024年1月号「クリエイター・アワード」特集では、代表曲「夜に駆ける」と「アイドル」を起点とした楽曲制作のアプローチと、2人が「この時代に対して感じていること」が語られている。
「アイドル」にみる2人の化学反応
彼らのデビュー作にして出世作でもある「夜に駆ける」の歌詞は、強烈にダークながら現代人の心情を鋭く捉えた小説『タナトスの誘惑』をもとに書き下ろされている。その歌詞やビルの屋上から飛び降りるミュージックビデオの描写をめぐり、ネット上には考察記事が溢れたが、Ayaseは「別に暗いものをつくろうとしたわけではありません」と話す。
「個人的に、『いつかは終わるけどね』という厭世観にグッとくるんですよね。未来永劫美しいものではなく、リミットがあって儚いものだからこそ、大切にしたい。生と死に関しても、ふたつを切り離せるわけではなく、隣同士にあるのが当たり前なんじゃないかと」(Pen誌2024年1月号より)
「夜に駆ける」(2019年) 原作は、星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』。Ayaseは、「YOASOBIではバンド時代とは違うやり方をしようと思い、レーベル担当者のフィードバックを参考に、あらかじめ20~30曲つくった中から素材をつぎはぎして曲を完成させました」と話す © Sony Music Entertainment ( © Sony Music Entertainment (Japan) Inc. Japan) Inc.
Ayaseの世界観をポップスに昇華させていく過程でikuraのボーカルが果たす役割は計り知れない。今年リリースされた「アイドル」は、そんな2人の化学反応が存分に感じられる一曲だ。
「もともと自分はヒップホップが好きだったので、いつかYOASOBIでもやってみたかったんです。ただ、ikuraがラップをした時にどうなるかは正直読めなくて。で、スタジオで本人に『アイドルらしく超ぶりっ子にしてみよう』と伝えつつレコーディングしてみたら、すごくよい仕上がりになりました」(Pen誌2024年1月号より)
これまでの楽曲で見せたことのない狂気的とも言えるラップを披露したikuraは、その意図を次のように語る。
「誰しももっている、自分ではコントロールできない本能の部分を意識的に引き出す。この曲のボーカルは時折裏返っていて、情けなく聞こえる部分があるかもしれない。だけど、YOASOBIでは、人に見せづらいところも含めて曝け出そうと決めているので、最後までやり切りました」(Pen誌2024年1月号より)
いわく言い難い感情への解像度の高さと、時代の空気をポップスに昇華させる才能で、いまを生きる人の「リアル」を表現する2人。YOASOBIを通してJポップを海外に浸透させることをミッションとする彼らの物語は、まだ始まったばかりだ。
その1年に活躍したクリエイターをたたえる「Penクリエイター・アワード」。第7回を迎えた今回は、編集部の選考によって6組が受賞。類いまれな創造性を発揮し、人々の心を動かしたクリエイターたちの名が連なっている。
YOASOBIのほかには、女優の安藤サクラ、脚本家の宮藤官九郎、作家の小川哲、建築家の永山祐子、『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭』共同創設者・共同ディレクターのルシール・レイボーズ&仲西祐介が受賞者となった。
【参考記事】Jポップを世界へ、"いま"と向き合うYOASOBIが語った「アイドル」に込めた想い
●Pen CREATORS WEEK
Pen クリエイター・アワード2023の企画展⽰。「クリエイター・アワード」の受賞者や、WEBの連動企画「BREAKING」に登場したクリエイターの紹介、作品公募×ワークショップのプロジェクト「NEXT」で制作した作品のお披露⽬も。
https://www.pen-online.jp/special/pca2023/
2023年12月1日(金)〜7日(木)
7:00 〜 22:00 | 入場無料
※ 代官⼭ 蔦屋書店の開店時間に準ずる
代官山 蔦屋書店 シェアラウンジ
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町17-5
DAIKANYAMA T-SITE 蔦屋書店3号館 2階
東急東横線「代官山駅」より徒歩5分
■Into The Night(「夜に駆ける」English Ver. )
Ayase / YOASOBI
■Idol (「アイドル」English Ver. )
Ayase / YOASOBI
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部