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大統領選を揺るがしかねない米Z世代の深刻なバイデン離れ

ニューズウィーク日本版 2023年11月29日 15時0分

<ガザ地区を攻撃するイスラエルとそれを支援し続けるバイデン政権の姿勢にZ世代は憤っている>

アメリカのZ世代とは、いわゆる「ミレニアル世代」の次の世代であり、おおよそ1997年から2012年生まれのグループを指します。このZ世代は、全体的にリベラルが強く民主党の支持層になっているという解説がされてきました。ところが、ここへ来てこのZ世代の「バイデン離れ」が起きていると言われています。

1年毎に400万人がいると言われるZ世代からは、例えばですが、前回の2020年の大統領選から4年が経過する、次回の2024年の大統領選挙では新たに18歳から22歳の1600万人が選挙権を行使します。この動向は、選挙情勢に大きな影響を与えかねません。

では、どうして「バイデン離れ」が起きているのかというと、イスラエルがガザ地区で起こしている人道危機に対する憤りが強いからです。アメリカといえば、左右を問わず中東においてはイスラエルを支持してきましたし、ユダヤ系と民主党の結びつきも歴史的に強いものがあります。

にもかかわらず、Z世代のイスラエル離れが起きているのには、様々な理由があると考えられます。

9.11テロを知らない世代

まず、世代的な時間のズレがあります。彼らの多くは2001年の9.11テロを全く知りません。そればかりか、アフガニスタン戦争、イラク戦争も現在進行形では経験していません。記憶にあるとしても、アフガンの山岳戦で敗退し、イラクでは自爆テロに苦しんで戦況が泥沼化した戦争後期の印象が種となっています。ですから、アメリカが攻撃されたとか、イスラム圏への根源的な嫌悪という感覚を全くもっていないのです。

その結果として、軍産複合体による人命軽視と浪費という負の歴史的な印象を継承しています。そんな彼らには、ブッシュ政権だけでなく、ソマリアで惨敗しコソボ問題でも積極的に空爆を選択したクリントン政権については、負の印象が強いのです。そして、軍産複合体を推進したとして、チェイニー元副大統領と、ヒラリー・クリントン氏はほとんど同列の存在として嫌悪の対象になっています。

更に言えば、このZ世代は分厚い人口の「塊」を構成するだけでなく、経済的にも自立しています。今は、少し雇用の先行きに不透明な感じもあります。ですが、基本的に名の通った4年制大学を卒業して、一定期間の就職活動を経てフルタイムの職を得れば、金融やテック系の場合であれば、年収で12万ドル(1800万円弱)から14万ドル(2100万円弱)の初任給が得られます。人口の多さと、経済力はその世代にある種の「全能感」を与えつつ、上の世代が達成し得なかった「正義の実現」を自分たちが成し遂げるのだという意識を生みます。

従来は環境問題や、人種問題、あるいは性的嗜好による差別の問題に向かうことの多かった彼らの「正義感」が、ここへ来て一気にガザ地区における人道危機に関心を寄せることになってきているのです。

そんな中で、例えば、民主党左派の人気政治家であるバーニー・サンダース上院議員の場合は、自分自身がユダヤ系であり、若き日にはイスラエルの入植地での労働に従事しながら自分のアイデンティティーを見つめたという経歴が知られています。そのサンダース議員が、ガザ地区への侵攻を続けるネタニヤフ政権と、これを支援しつつ引きずられているバイデン政権の姿を批判するというのは、Z世代の心に確実に「刺さる」のです。

このバイデン離れを起こしつつあるZ世代の「イスラエル批判票」はどこへ行くのか、これは2024年の大統領選を左右する要素になると思います。仮にこのまま、バイデンがイスラエル寄りで、同時に情勢には受け身の姿勢、そしてガザ地区の情勢が改善しない場合には、まず多くの票が棄権に向かうかもしれません。そうなれば、バイデンには大きな痛手になります。

気になるのが、独自路線で無所属に転じたロバート・ケネディ・ジュニア氏の動向です。幼少時に「陰謀によって伯父と父を殺された」同氏は、熱心な陰謀論者であり、特に新型コロナのワクチンを「大量殺戮」だとする陰謀論で知られています。ですから、トランプ支持者の中からQアノン系などの票を奪うことで、むしろバイデンの援護射撃になると思われていました。

では、今回のイスラエル・ハマス戦争に関してはどうかというと、どうも歯切れが悪いのです。ケネディ氏は紛争初期にハマスのテロを強く批判していましたが、以降はこの問題を取り上げるのを避けています。彼なりに、中東問題ではイスラエル擁護をするというのが、信念になっているようなのです。

ということは、この問題に関するバイデン批判票の受け皿にはなりそうもありません。そうなると、この巨大な票の塊は宙に浮くことになります。もしかしたら、民主党内はにわかに激しい内紛状態になる、大統領選も無風状態から突如激戦になるという可能性も全くは否定できないのです。


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