Infoseek 楽天

最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者になる?

ニューズウィーク日本版 2023年11月30日 19時43分

<水の抵抗は増えてもステルス性能向上を優先する角張った潜水艦のデザインは世界の開発トレンドになっている。なかでも実戦配備に最も近づいているのが中国の039C潜水艦だ>

中国海軍が開発を進めている元(ユアン)級潜水艦の最新タイプは、わずかな改良でステルス性能が格段に高まっていると、世界の海軍情報ニュースサイト「ネーバル・ニューズ」が先週伝えた。

<動画>四角い形状のセイルでステルス性能を高めた中国の潜水艦

 

039C型と呼ばれるこの潜水艦は通常動力式(ディーゼルと電気)で、アクティブソナー(音波発信探知機)に探知されにくい設計になっていると、公開情報を元に分析を行う潜水艦アナリストのH・I・サットンは述べている。サットンが注目するのは、セイル(浮上時に見張所となる潜水艦の上部構造。船の帆に似ているためセイルと呼ばれる)の形状で、浮上時に敵のレーダーに探知されにくいステルス設計になっているという。

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は今年7月末、軍の現代化のペースを一段と早めるよう指示した。これを受けて人民解放軍は海軍力の増強を急ピッチで進めており、最新型の元級潜水艦の開発もその一環だ。

国家主席、中国共産党総書記として異例の3期目に突入し、軍の最高司令官である共産党軍事委員会主席としても、今年11月で就任11年目を迎えた習は、今世紀半ばまでに人民解放軍を「世界クラス」の軍隊にすると誓い、軍備の全面的な現代化に発破をかけている。

四角がトレンド

新型潜水艦039Cの画像は2021年5月に初めてネット上に出回り、特徴的な角張った形状のセイルが注目された。敵の探知をまぬがれるこのセイルは、多くの艦船が行き交い、中国と西側陣営がにらみ合うインド太平洋で、中国に戦略的優位をもたらすとみられる。

サットンによると、このセイルの形状は世界的なトレンドで、スウェーデンが開発している次世代型潜水艦A26、いわゆるブレーキンゲ級潜水艦や、ドイツ海軍が建造中の212CDにも採用されている。

212CDはセイルだけでなく、外殻全体が角度をつけた形状になっていると、サットンは指摘する。それにより水の抵抗が大きくなるが、ドイツ海軍はそれを承知の上でステルス性の向上を優先したようだ。

ただし、こうしたセイル形状の潜水艦で既に試験運航を開始しているのは039Cだけだ。

039Cは中周波ソナーに探知されにくい設計になっていると、サットンは分析している。それにより敵は艦のタイプを識別しにくく、識別に手間取ったり、間違えたりする可能性がある。

サットンによると、形状に加え、敵の探知機が発する音波を反射しにくい表面加工のおかげで、039Cは魚雷に搭載されているような高周波ソナーにも探知されにくい。

米国防総省の最新の評価によると、039Cの本格的な配備は2020年代末になる見込みだ。

加えて、中国海軍は核ミサイルを水中発射できる最新型の096型巨大ステルス原子力潜水艦も2030年までに配備するとみられている。

096型はロシアが提供した技術でステルス性を高めた原潜で、就役すれば、中国の軍艦の動きを追跡している米軍と同盟軍は非常に手こずることになると、米海軍大学校の中国海事研究所が8月に発表した調査報告書で警告している。

「096型は(西側にとって)悪夢となりつつある」と、元潜水艦乗組員で海事情報アナリストのクリストファー・カールソンは今月、ジャパン・タイムズに語った。

 

アメリカは中国の海軍力増強に対抗するため、オーストラリア、イギリスとの3カ国のパートナーシップ・AUKUS(オーカス)など、防衛協力の枠組み作りを進めている。AUKUSの下で、英豪の海軍は2040年代初めの就役を目指し、次世代型の原潜(搭載するのは通常兵器)を共同開発することになった。

オーストラリアはそれまでの措置として、アメリカから高速攻撃が可能なバージニア級原子力潜水艦を購入する計画を発表している。

<動画>四角い形状のセイルでステルス性能を高めた中国の潜水艦

 

<動画>潜水艦そのものを四角い外殻で覆ったようなドイツの潜水艦

 


アーディル・ブラール

この記事の関連ニュース