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パリで考えた円安と電気自動車と日本の「お一人様」優遇のこと

ニューズウィーク日本版 2023年12月6日 16時24分

<4年ぶりに滞在した母国フランスでは驚くことがたくさん。外の世界を見るのは大事なことだとあらためて実感した>

4年ぶりにフランスに滞在した。母国だから驚くことは少ないはずだが、そんなことはなかった。私は11年間パリに住んでいたが、それは20年以上前の話だ。20年で変わったことはたくさんある。

まず、意外と日本より現金を使う機会が少ない。1ユーロから、クレジットカードで何でもどこでも支払うことができる。駅のトイレは利用料金がかかるが、クレジットカードをタッチするだけでドアを開けられる。ちなみに駅のトイレは数年前まで無料だったが、とても汚かった。それが有料でスタッフもいるようになって、ようやく奇麗になった。

スマートフォンの使い道もすごく広がった。そもそも携帯電話のサービス機能が多かったのは日本だったが、最近は欧米のほうが進んでいるような気がする。理由は、海外ではお客が自分のスマホで注文する、支払う、登録する、申請書を記入するなど何でもやらなければならないから。そうするとスタッフを減らすことができるので、コスト削減が1つの目的だろう。

日本ではいまだにスタッフが多く、お客のためにいろいろとやってくれる。例えばフランスと違って日本のガソリンスタンドにはスタッフがいるし、サービスの良さが重視される。フランス、特にパリでスマホや機械をうまく使えない人は大変だと思う。

「お一人様」は日本より少ない

その半面、パリのバスや地下鉄では、スマホを使っている乗客の割合は日本より低い。紙の書籍を読む人はまだ多い。フランス人は日本人よりよく話すので、家族や友人と電車に乗ったらスマホを使わずに会話する人も多い。何度も子供とバスに乗ったが、毎回誰かに声をかけられた。フランスはコミュニケーションしやすい国だと改めて感じた。

喫茶店やレストランでも「お一人様」は日本より少ない。お一人様がいればいるほどお一人様を優遇する店が増えて、他人とのコミュニケーションがしにくい環境になっているのが日本ではないだろうか。

最も驚いたのは物価だ。いかに円が安いかを肌で感じた。ユーロで払って円に換算すると全部「高い」と思ってしまう。日本で同じものが同じ値段なら買わない、あるいは買えない人が多いだろう。日本人はインフレで困っているが、海外でもインフレの影響は大きい。例えば、オレンジジュースの250mlは日本円にして600円。パリ中心部の喫茶店で、子供2人と大人2人で昼食を取ると毎回1万円もかかった。

パリを走っている車を見ると電気自動車が日本より多い。空港からパリまで乗ったタクシーは電気自動車だったし、パリのバスにも「100%電気」と書いてあった。田舎の実家に行ったら、妹の車も電気自動車。つまり金持ちだけではなく、普通のサラリーマン家庭が電気自動車を手に入れる状況になっている。多いのは中国生産か中国メーカーの車だ。

来年夏にはパリオリンピックが開催されるが、気になるのはテロのリスクだ。開会式はセーヌ川で行う予定で、観客は約40万人となる見込みだ。安全性を確保するのは競技場より厳しいと思う。既にハマスとイスラエルの紛争の影響で、フランスではテロ警戒が最高レベルにある。オリンピックが開催されるまでにそのリスクが下がるとは考えにくい。

久しぶりに自分の国に帰って、いろいろと考えた。ずっと同じ国にいるとその国の良い点や弱点、進んでいるところや時代遅れのところに気付くことができない。2人の息子も2週間で学んだことは多い。今は円安やインフレなどで多くの日本人にとって海外に行くのは容易ではないかもしれない。それでも外の世界を見るのは、大事なことだと思う。

西村カリン
KARYN NISHIMURA
1970年フランス生まれ。パリ第8大学で学び、ラジオ局などを経て1997年に来日。AFP通信東京特派員となり、現在はフリージャーナリストとして活動。著書に『不便でも気にしないフランス人、便利なのに不安な日本人』など。Twitter:@karyn_nishi

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