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脱炭素だけでなく「エネルギー安全保障」の観点からも世界が注目...「3種の電池」の新ソリューション

ニューズウィーク日本版 2023年12月7日 12時0分

<企業の国際的イニシアチブ「RE100」のなかで注目を集める、太陽電池、蓄電池、純水素型燃料電池を組み合わせた「3電池連携」のアプローチ>

カーボンニュートラル社会を目指した取り組みが、国や地域の枠を越え、企業が主体となって実施されるケースが増えてきている。自社の事業で使用する電力の「100%再エネ(再生可能エネルギー)化」を目指す企業の、国際的なイニシアチブ「RE100」もその1つだ。アップルやマイクロソフト、スターバックス、ネスレをはじめ、全世界で400社以上がこの企業連合に加盟し、日本からも80社(2023年6月時点)が参加する。

そうしたなか、RE100に2019年から加盟しているパナソニックが独自に実施している取り組みが、国内外から注目を浴びている。それは、太陽電池と蓄電池、そして純水素型燃料電池を組み合わせた「3電池連携」により、施設や設備の稼働に必要な電力を100%再エネ(RE100)で賄う「RE100ソリューション」の実現に向けたアプローチだ。

太陽光や風力など、自然の力に依存する再エネの場合、電力需要の変化や天候による出力変化に対応しづらいという課題がある。こうした急な変化に対するバッファー部分を一般に担うのは蓄電池だが、容量やコストの問題もあり、単体で全てをカバーしきるのは現実的ではない。こうした弱点を補完しながら、発電の余剰や無駄を抑えて再エネを安定的に供給できるのが水素による燃料電池というわけだ。

RE100ソリューションでは、晴天時には太陽電池の発電量で工場稼働を賄い、余剰分を蓄電池に蓄える。一方、天候不良時には水素による燃料電池が稼働・発電して電力の不足分を補う。天候の急変や、工場側の電力需要の急増など、予測しづらい急な変化に対しては、蓄電池からの電力供給で対応する仕組みだ。

22年に実証施設「H2 KIBOU FIELD」を草津に設置

同社の燃料電池・水素事業を統括する加藤正雄氏は、「太陽電池単体では、天候や季節要因で発電状況にばらつきが出る。純水素型燃料電池はその点を補えるだけでなく、エネルギー効率も高いため、太陽電池の敷設面積の削減や導入する蓄電地容量の低減などにもつながる」と話す。

理論上は、自家発電で100%の電力を賄えるRE100ソリューション。パナソニックはその実証施設として2022年4月に「H2 KIBOU FIELD」を同社の草津拠点に設置、運用開始している。約6000㎡の敷地に、570kW分の太陽電池と1.1MWh分のリチウムイオン蓄電池、495kW分の燃料電池、7.8万リットル分の水素タンクなどを備え、同じ拠点内にある燃料電池工場のすべての使用電力を賄うテストが1年半以上続けられてきた。

H2 KIBOU FIELD、手前が太陽電池、奥に並ぶグレーカラーの直方体が燃料電池群

発電量が常時可視化されている

設備の稼働当初はなかなか自家発電率が上がらず、7割程度で足踏みしていたと、加藤氏は振り返る。「前例のない取り組みだけに、実際に稼働させてみないと分からないことも多かった。ちょっとした雲の動きで想定通りに発電できなかったり、工場側の電力需要の変化に追いつけなかったりと、想定通りにはいかない状況も出てきた」。

そうした課題に直面しながらも、実証データを積み重ねることで自家発電率は98%を超えているという。「天候の予測情報を精度高く得られるようにしたことや、工場側の電力需要予測情報をもらい需要の予測精度を高められたことで、今はほぼ100%に達している」と、加藤氏は言う。

パナソニックの加藤正雄氏

さらには「3つの電池を組み合わせてここまで実際の環境で使用しているケースは世界でもあまりない。ノウハウを蓄積し先行者メリットを生かしていきたい」と意気込む。一般企業に加え行政や研究機関など国内外からの関心も高く、実証開始からの1年半で、700件以上の視察があり、うち58件が海外企業だったという。

来年は英国でRE100ソリューションの実証施設を展開

草津拠点でのトライアルに手応えを得たパナソニックでは、来年秋に新たなRE100ソリューションの実証施設を英国で展開する。電子レンジなどの製造を行うパナソニック マニュファクチャリング イギリス(PMUK)でRE100ソリューションを導入、事業活動で消費するエネルギーを100%再エネで賄う予定だ。

PMUKがある英カーディフの気象状況や電力事情に応じた電力需給運用を検証するのに加え、水素発電時に発生する熱を暖房や給湯にも活用することで、さらなる効率化を図るという。

英カーディフのPMUKでの実証イメージ図

「脱炭素化、そして地政学的なエネルギー安全保障等の観点から英国をはじめ欧州では水素エネルギーへの関心は高い。一方で水素を組み合わせた電源システムへの認知はまだそれほど広がっていない部分がある。今後はドイツでも実証施設稼働を検討し、欧州での水素関連ビジネスの拡大を目指していきたい」(加藤氏)

パナソニックでは、水素関連の事業機会として、2030年段階での水素関連の事業機会を約6兆円規模(燃料自動車関連を除く)と算定している。まずはRE100ソリューションに代表される分散型エネルギーパッケージの領域で、1000億円規模の市場創出を狙っていく構えだ。


安藤智彦

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