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きものに今年こそ挑戦! 「宝尽くし」「亀甲つなぎ」...お正月にふさわしい柄とは? 基礎知識を解説

ニューズウィーク日本版 2024年1月1日 9時0分

<柄、文様、帯の組み合わせで日本の四季を彩る...。きものに造詣が深い、スタイリストの先駆者・原由美子氏がいまこそ伝えておきたいきものの楽しみとは?> 

洋服感覚で無地のきものをすっきり着るのもいいけれど、柄と柄を組み合わせるきものならではの魅力もぜひ知ってほしい...。そんな原由美子氏の思いを『原由美子のきもの暦』の「睦月」の章および『原由美子のきもの上手 染と織』(ともにCCCメディアハウス)から一部抜粋。

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お正月の楽しみのひとつは家できものを着て過ごすことでした。小学生の頃ですが、日舞の稽古着として持っていた赤地に手鞠柄の銘仙のきものを着せてもらい、ちょっと上等な帯を母に文庫に結んでもらった記憶があります。(中略)

洋服の場合は赤を初めとする派手な色は、むしろ年齢がいってからこそ着やすくなります。でも型はみな同じで素材が絹のきものは、そうはいきません。すっきり粋に地味なきものを着るのは、いくつになってもできることです。お正月にきもの始めというなら、華やかさを楽しんでこそという思いがあります。

お正月 おめでたい柄の小紋で、新春を寿ぐ華やかな装い。

お正月の三が日から十五日くらいの頃、初詣に行くと目にするのは、ここぞとばかり華やかな振袖姿。今年成人の人たちだなと、つい見とれてしまいます。でもせっかく振袖を自分のものにしても、成人式のときだけ袖を通し、あとはずっと簞笥のなかという話をよく耳にします。

振袖のかわりに、大きめの文様の華やかな小紋もいいものです。最近は若い人が地味なきものを着ることが多いようですが、年相応の色と柄に挑戦してみてください。こういう小紋だけは若いときだけに着るのを許されたもの。お正月を前に何かきものを、という人にぜひ着てほしいのです。

左=慶長文様の小紋+花菱文の京袋帯

京友禅独特の慶長柄は、江戸初期の慶長期に見られる写実模様と幾何学柄が組み合わされた独特の華やかさが特徴。小紋に分類されますが、大胆で華やいだ雰囲気があり、訪問着と同格で装うことも。そんなときは格調のある柄の京袋帯を締めて。慶長柄でも比較的抑えた色調なので、帯により長く着られるのも魅力です。

右=小紋+霞模様の袋帯

単色、小さめの柄の小紋とは異なり、このくらい大柄で多色な小紋は、若いときにぜひ着ておきたいきもののひとつ。格調ある袋帯を締めれば訪問着と同じくらいの格と華やかさが出るので、若い人らしいハレの装いに。また洋式のパーティなどでは訪問着より映えることも。無地感覚の名古屋帯でスッキリ着れば気軽な外出着としても楽しめます。

宝尽くし──日本の美意識が結集した、贅沢で楽しい宝尽くし。

宝尽くしの柄のひとつ七宝は文字通り、七つの宝、金、銀、ラピスラズリなどを指します。振ると願いが叶う魔法の小槌。富の象徴の巾着袋。細長い三角の文様化された植物は、現代ではクローブとして知られる丁子で、平安初期には貴重な品として珍重され、健康や長寿を願う品でした。

それらをこのように魅力ある文様に仕立て上げてきた昔の人の美意識を上手にきものにも取り入れて楽しみたいもの。上等の袋帯を留袖や訪問着に締めると、吉祥文様の王道をいく楽しみを味わえますし、細かな江戸小紋なら季節を問わず気軽に、帯により、その場にふさわしく祝い心を装えます。

左=宝尽くし文様の京友禅小紋+狂言丸文の袋帯

濃紺の地に比較的大きな宝尽くし模様、さらに蓑笠が疋田で大きく流れるように表現され、華やかさを添えている小紋。これほど大柄、しかもおめでたい柄行なので、袋帯を締めれば訪問着に近い格の装いに。友人の結婚式のような場で着席しても、引き締まった華やかさが印象的な装いになります。

右=亀甲つなぎの小紋+宝尽くしの染め帯

亀甲のなかに金色で細かく四季の植物が表現されている無地感覚の小紋は、四季を通じての少し改まった席に着たいきものです。宝尽くしの染め帯ならお正月気分でさらに華やかになります。白っぽい紬や抑えた色の江戸小紋に締めると、落ち着いたお洒落着として。

付け下げ──訪問着と小紋の中間、よそゆき顔の付け下げ。

礼装である振袖や留袖の次に位置づけられるのが訪問着。きものの前身頃、前と後ろの肩、袖などに柄がきちんと配置され、衿の部分も柄が合うようにした「絵羽」のきもので、着た姿が一幅の絵のようになります。それより簡略化した柄のつけ方が付け下げです。

絵羽の訪問着ほど格式は高くありませんが、いわゆる普通の小紋よりは格が上になります。控えめだけど、着ていて襟を正す気分になれるきもの。金糸や銀糸入りの袋帯を締めて、訪問着とは異なる総柄ならではの華やかさを楽しめるのが付け下げ小紋の魅力といえます。少しあっさり見える付け下げは遠目に映え、帯を自在に変えて着こなしを楽しめます。

左=結び文柄の付け下げ+雪持ち南天の染め帯

結び文という遊び心のある柄行ながら、ほどよい大きさでバランスよく配置されているので、地色の華やかさも加わって、格が感じられるきものに。季節を感じさせる雪持ち南天の帯で、ちょっと気取りたい初春の外出着に。淡い色調の織りの帯でしっとり着たり、華やかな花の柄の染め帯でお花見の季節にと、いろいろ着分ける楽しみがあるきものです。

右= 御所解(ごしょどき)模様の付け下げ小紋+ウロコ柄の織り名古屋帯

典型的な古典柄で優雅で上品と、長く愛されている御所解模様は、付け下げ小紋に最も適している柄のひとつ。黒地が柄を浮き立たせ、立ち姿が華やいで見えるお正月らしいきもの。厄除けといわれるウロコ柄の控えめな名古屋帯で新春気分に。金箔入りの袋帯なら、かなり格調高い席にも通用します。

京好み──艶やかな色と文様で、京都ならではの、はんなり。

よく言われるのが江戸好みの粋と京好みのはんなりという言葉です。どちらかといえば渋い色にキッパリした色と柄を合わせて粋に着るのが江戸好み。華やかさのある色に古典的文様を加えてはんなりさせるのが京好み。京好みは優しく華やかだから、自分には不向きなどと決め込まず、たくさん見て、いろいろ試してほしいのです。

きものを着るときは洋服のなかで目立たないようモダンにスッキリという考えもありますが、きものを着るときぐらい、いかにもきものらしい色使いを楽しんで着るという考え方も。そんなとき、京好みはホッとする優雅さと華やかな品位が魅力です。

左=御所解(ごしょどき)模様の付け下げ小紋+あられ地に和本の帯

京らしい華やかさのある文様の典型といえるのが御所解模様です。洋服で考えると色数も多く派手に見えますが、きもので着ると不思議と納まり馴染むもの。古典柄の帯と優しい色の小物で格調高い京風のお出かけ着になります。お正月から春先のハレ気分にピッタリです。

右=彩水玉の小紋+竹と小花の染め帯

華やかだけど、どこか落ち着いた朱を上手に取り入れるのも京風のひとつ。綸子三君子の紫地にバラ疋田の水玉柄小紋は一見地味ですが、朱地の古代縮緬に古典柄の染め帯を締めることで、はんなりとした京都ならではの装いになります。赤が効いた小物もポイントです。

長襦袢──長襦選びこそきものの楽しみ。

きもの生活を始めても長襦袢選びは後まわしにされがちのようですが、それでは十分ではありません。そこは洋服と同じで、下着に凝る人ほどおしゃれ上手なのです。

大好きなきもの、帯、長襦袢と三拍子揃ったお気に入りだったら、それこそ最強の一組になります。新年だからこそ、長襦袢のおしゃれも始めてみたらいいかもしれません。きものを着る楽しみや高揚感が一味違い、さらに深いものになるはずです。

左=クローバー柄は紬や小紋に控えめな華やかさを添えます。

右=赤地に梅模様は、一度は着てみたい典型的な襦袢柄。地味めな小紋も心浮き立つ気分にしてくれます。

左=鹿の子をはじめ、絞りの白抜きも代表的な襦袢柄のひとつ。

右=地紋のある光沢が美しく、大きめの絞り柄が効果的。

原 由美子(はらゆみこ)
慶応義塾大学文学部仏文学科卒業後、1970年に『アンアン』創刊に参加。仏・ELLEページの翻訳スタッフを経て1972年よりスタイリストの仕事を始める。以後『婦人公論』、『クロワッサン』、『エルジャポン』、『マリ・クレール日本版』、『フィガロジャポン』、『和樂』など数多くの雑誌のファッションページに携わる。きもののスタイリングでも雑誌や新聞などの執筆、ファッションディレクターとしても活躍。著書に『きもの着ます。』(文化出版局)、『原由美子の仕事1970↓』(ブックマン社)、『フィガロブックス 原由美子のきもの暦』『フィガロブックス 原由美子のきもの上手 染と織』『原由美子の大人のゆかた きものはじめ』(すべてCCCメディアハウス)、などがある。

 『原由美子のきもの暦』
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