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日本の女子の理科学力は、思春期になると男子より低くなる

ニューズウィーク日本版 2023年12月6日 11時15分

<理科が得意な女子に対して周囲がネガティブな反応をすることが原因か>

日本は理系の分野に進む女子が少ない。これは以前から問題視されていて、国策として「リケジョ」を増やす方針が示されている。

しかし、こうも言われる。男子と女子では理数教科の出来が違うし、そもそも女子は理系職を志望しない。これは自然なことで、仕方ないのではないか。果ては「理数教科は男子の方ができて当たり前、脳のつくりが違うから」とまで言われたりする。

だが、理数系の学力が「男子>女子」というのは普遍的ではない。それが分かる調査データは数多いが、IEA(国際教育到達度評価学会)の国際理科学力調査「TIMSS 2019」の結果を見てみる。文科省の調査レポートでは、小4と中2の理科平均点が国別に出ているが、元の資料から男女別の数値も分かる。<表1>は、日本を含む主要7カ国のデータだ。

男女の平均点と、女子が男子より何点高いかが示されている。小4を見ると、男子より女子の平均点が高い国が多い。日本もそうで男子が559点、女子が565点と、女子の方が高くなっている。

中学生になるとこれは逆転し、日本の中2では男子が女子より10点高くなる。以後、発達段階を上がるにつれ、理科学力が「男子>女子」の傾向が固定する。OECDの学力調査「PISA」の対象は15歳生徒(高1)だが、どの年でも科学的リテラシーの平均点は男子が女子より高い。

押さえたいのは、理科平均点が「男子>女子」というのは思春期以降ということだ。進路を意識し始めるようになるに伴い、理科ができる女子が変わり者扱いされ、「女子が理系に進んでもいいことない」などと、周囲からネガティブなジェンダーメッセージを発せられることもあるだろう。その結果、女子は理数教科の勉強から遠のいていく。

それはほかの国も同じ、ということではなさそうだ。<表1>を見ると、アメリカは小4では「男子>女子」だが、中学校になると逆転する。北欧のスウェーデン、フィンランドでは小4から「男子<女子」で、中2になるとそれがより顕著になる。思春期のジェンダー的社会化は国によって異なる。

「TIMSS 2019」では32カ国について、男女の理科平均点を学年別に知ることができる。女子と男子の平均点の差を出し、各国のドットを位置付けたグラフにすると<図1>のようになる。

小4で見ても中2で見ても、女子の平均点が男子を上回る国の方が多い。両学年の違いに注目すると、日本は位置変化が大きい。思春期になって、理科の平均点が急に「男子>女子」となる。こういう変化を示す国は4つしかなく、日本はそれが最も顕著となっている。

思春期における(よからぬ)ジェンダー的社会化を疑ってみる余地がある。特定世代を対象とした追跡調査をやってみたらどうか。国が毎年実施する『全国学力・学習状況調査』を活用してもいい。対象は小6と中3なので、3年おいて両学年の結果を比較すれば同世代の追跡となる。この期間に理科学力や理科嗜好の性差がどう変わるか、理科の勉強から遠のくのはどういう生徒か。思春期における人間形成の問題が明らかになるかもしれない。

<資料:IEA「TIMMS 2019」>

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舞田敏彦(教育社会学者)

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