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2期目のトランプはアメリカの民主主義を破壊するのか......広まる憶測と恐怖

ニューズウィーク日本版 2023年12月6日 14時30分

<トランプ対バイデンの構図でのバイデン劣勢が報じられるなか、トランプ2期目の「絶望の未来」が語られ始めた>

米大統領選は、現時点では共和党はトランプ前大統領が独走状態で、また民主党では現職のバイデン以外に有力な候補は名乗りを上げていません。ですが、2024年の大統領選の投票まで、まだ11カ月あります。ということは、この間に民主党も共和党も大統領候補の世代交代が進む可能性はゼロではありません。

例えば、11月30日(木)には両党の州知事対決ということで、民主党のニューサム知事(カリフォルニア州)と共和党のデサンティス知事(フロリダ州)がFOXニュースに出演してテレビ討論を行いました。ニューサム知事は、あくまで2024年はバイデンを支援するとしていましたが、こうしたイベントが話題になるということ自体が、一刻も早い世代交代を待望する世論の声を代弁しているとも言えます。

その一方で、数字だけを見れば2024年11月の選挙は「トランプ対バイデン」の対決となる可能性が高いのは否定できません。そして、この両者の対決となった場合には、ここへ来てトランプ有利というデータが続々と出てきています。激しいインフレで高騰した物価への不満に加え、イスラエルがガザ地区で人道危機を引き起こすたびに、若者の票はイスラエルを支持しつつ苦悩を見せるだけのバイデンから離れていくようです。

そんななかで、アメリカでは12月に入るとともに、「2期目のトランプ政権はこうなる」という見通しを整理した記事が多くのメディアで見られるようになりました。その多くは、まるで「未来への絶望」のようなトーンとなっています。

政府職員の総入れ替え

基本的にこうした記事の多くは、これまでトランプ自身が「ラリー形式の政治集会」で繰り返し口にしてきた内容をベースにしたものです。また一期目の政権当時には、選挙戦で口にした「公約」を相当な程度に実行しようとしたのは事実です。ですから、どんなに荒唐無稽な内容であっても、ある種の信憑性があるという受け止めがされています。

まず人事については、長女のイヴァンカ氏と夫のジャレッド・クシュナー氏は2期目の政権には参画しない見通しとされています。また1期目の副大統領であったマイク・ペンス氏はもはや政敵であり、これも政権入りはないということです。反対に、1期目の末期に首席補佐官を努めたマーク・メドウ氏など「2020年の選挙結果を認めなかった」という「忠義の臣」で政権を固める見通しだと言われています。

具体的な政策としては、まず「スケジュールF」というのがあるそうです。これは、連邦政府の職員を入れ替える作戦です。アメリカの連邦政府職員の中で、約4000人の上級管理職に関しては政治任用と言って政権が交代すると、新政権が新たに自分の人脈やブレーンを任命します。ですが、中級以下の職員は通常は政権交代の影響は受けません。これを変更して中級の職員5万人も「政権に忠誠を誓う」よう踏み絵を踏ませ、気に入らない人物は追放する計画だそうです。

特に司法省(日本の法務省と検察庁に相当)には徹底的に自分に忠誠を誓わせるとともに、検察の力でトランプの政敵を全て逮捕して投獄するとしています。つまり、この間に自分が味わった多くの訴追について、徹底的に復讐するというのです。反対に、自身の犯罪は自身で恩赦するとともに、例えば2021年1月6日の議事堂暴動事件で有罪になった支持者は全員恩赦するとしています。

また、移民政策としては不法移民の国外退去を進めるとともに、アメリカ国内で出生しても親が不法滞在の場合は子供に市民権を与えないとしています。これは憲法に抵触するので実行は難しいとされていますが、トランプは何度もそのように主張しています。

更に、軍事外交面ではウクライナへの支援を停止するとともに、NATOからの脱退もしくは関与の著しい削減を行うという発言が繰り返されています。その理由についてトランプは、「アメリカにとって最大の脅威はロシアではなく、国内にある」からだとしています。

ちなみに、一期目の選挙戦と比較すると、昨今のトランプは日本や韓国からの駐留米軍撤退を口にすることが少なくなっています。ですが、アメリカがNATOから脱退する姿勢を示せば、西側同盟は大きく動揺し日本への影響は大きなものとなる懸念は否定できません。

では、国外展開から撤収したら、米軍をどうするのかというと、トランプが繰り返し述べているのは2つの「作戦」です。1つは、米軍をメキシコ領内に展開して麻薬マフィアを殲滅するとしています。もう1つは、民主党の知事が荒廃させた州に米軍を派遣して治安を回復するというのです。具体的には黒人の人権を主張するBLM運動やパレスチナ連帯の運動を軍事力で制圧する計画だといいます。

民主主義が破壊される

更に、このところトランプと厳しく対決してきたリズ・チェイニー前下院議員が警告しているのは、トランプは仮に2期目に当選して大統領に復帰したとしても、自分が終身恩赦され、民事訴訟も受けないという保証がされない場合、大統領を辞めないという可能性です。つまり、2029年1月に任期満了となっても、非常事態宣言などの手段を使ってホワイトハウスに居座るつもりだと指摘しています。

チェイニー氏は、こうした事態を阻止するために、大統領選へ無所属として出馬する意向を示しています。チェイニー氏だけでなく、この種の懸念の声はかなり上がっており、2期目のトランプはアメリカの民主主義を破壊するかもしれないという恐怖が囁かれています。


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