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経済制裁にあえぐロシア、航空機トラブルが一年で3倍に──整備不良もお構いなしに飛び続ける

ニューズウィーク日本版 2023年12月12日 17時1分

<ウクライナ侵攻で西側から制裁を受け、航空機トラブルが1年で3倍に>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2022年2月にウクライナに本格侵攻を開始したことを受けて、西側諸国はロシアに厳しい経済制裁を科した。なかでも航空機を対象とした制裁は、航空業界に多大な影響を及ぼしている。

航空機の故障はこの1年で3倍に増加。またこの数カ月は、交換部品の不良が原因の技術トラブルにより、国内便が緊急着陸する事例が相次いでいる。

米政府はロシアの航空会社が運航する航空機を制裁対象にしており、各航空機メーカーもロシアに対する交換部品や新たな航空機の納入を停止している。

本誌がまとめたデータによれば、ロシアでは2023年9月〜12月8日までに民間航空機のトラブルが60件発生しており、これには緊急着陸やエンジンからの出火、エンジンの故障、その他の技術トラブルから航路変更を余儀なくされた事例などが含まれる。本誌の調べでは、こうした事例が9月に15件、10月に25件、11月に12件と12月は8日までに8件あった。

これに先立ちロシアの独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は、2023年1月〜8月までに、ロシアの航空会社が運航する民間機について120件以上のトラブルがあったと報道。本誌のデータと合わせると、2023年に入ってからロシアでは180件超の航空機トラブルが発生していることになる。

重要なソフトを更新できないまま飛行

本誌の調べでは、2022年の航空機トラブルは60件で、ロシアではこの1年で既に航空機の故障が3倍に増えている。

ノーバヤ・ガゼータは2023年の故障について、エンジントラブルが全体の30%、着陸装置の故障が25%と見積もっている。ブレーキやフラップ、空調システムや防風ガラスにまつわるトラブルも多く、それぞれ故障原因の3~6%を占めた。

ロシアの航空機の故障事例は全てが公開されている訳ではないため、実際は本誌の見積もりよりも多いとみられる。本誌はこの件についてロシア外務省にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。

制裁の一環で、アメリカとEUはロシアの航空会社にリースした航空機の返還を求めているが、ロシア政府はこれを回避するために、国内の航空会社にリース機をロシア籍に登録し直すよう呼びかけている。この件についてブルームバーグは3月の記事の中で、重要なソフトウエアの更新も、耐空性を保証するために義務づけられている保守点検もせずに航空機を飛ばし続けていることを意味する、と指摘している。

航空産業を維持するために、ロシアはそのほかの制裁を迂回し、欧米製の交換部品や機材の代替品を調達する方法も模索している。

ロシアのビタリー・サベリエフ運輸相によれば、ロシアは2022年2月以降、欧米の制裁措置により旅客機76機を失ったという。

12月も、最初の8日間で早くも8件の航空機トラブルが報告されている。12月8日には、ロシア南部シベリアのノボシビルスクでボーイング737型機がエンジントラブルのため緊急着陸した。ロシアのテレグラムチャンネル「Baza」は、乗客・乗員あわせて176人に怪我はなかったと報告している。

この前日にはロシア連邦を構成するブリャート共和国の首都ウラン・ウデから離陸したロシア機のエンジンが火を噴く事故が発生。ブリャート共和国のアレクセイ・ツィデノフ首長は、中国・福建省の章州に向かっていたツボレフTU204貨物機について、自身のテレグラムチャンネルで「その後着陸し、怪我人はなかった」と述べた。

ツィデノフによれば、ロシアの航空会社「アビアスタル-TU」が保有する同貨物機は、ウラン・ウデにあるバイカル国際空港から離陸した際にエンジンから出火した。同機は安全に着陸し、乗員5人に怪我はなかったということだ。

保守点検用資材が調達できない

6日にはロシア西部のカザン発モスクワ行きの旅客機がエンジンの故障によりモスクワのシェレメチェボ空港に緊急着陸。1日と2日には、メンテナンスの不備から航空機5機が故障した。

ロシア乗客連合のキリル・ヤンコフ代表は、ロシアのウェブサイト「74.RU」に対して、民間航空機のトラブルが増えている背景には、交換部品の不足と保守点検の問題があると述べた。

ヤンコフは「以前と比べて、多くの航空機の交換部品や保守点検用資材を入手するのが困難になっている。そのため、メーカーの認定を受けていない交換部品が一部の航空機に使われ始めている」と述べた。「航空機の墜落事例はまだ増えていない。だが犠牲者を出さない事故の数は顕著に増えている」

欧米の制裁のせいで空の旅の安全性が脅かされている、とヤンコフは言った。



イザベル・ファン・ブリューゲン、エフゲニー・ククリチェフ

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