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ガソリン車の販売はすでに下り坂...政府や企業の意欲は停滞するも、EV市場の成長は失速していなかった

ニューズウィーク日本版 2023年12月12日 17時47分

<「ゼロエミッション車ファクトブック」によるとEV化の流れは止まっていない。「EV革命」の中心になるのはアフリカか>

[ドバイ発]アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれている国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、豊富な鉱物資源によってアフリカ大陸がバッテリーのバリューチェーンとEV革命の中心になるという野心的な意欲が示された。コンゴ民主共和国とザンビアが主導的な役割を果たすという。

12月3日、国連アフリカ経済委員会 (ECA)、開発金融機関のアフリカ金融公社(AFC)、アフリカ連合委員会(AUC)のハイレベル・パネルディスカッションが開かれた。ECAのクラバー・ガテテ事務局長は「アフリカでグリーンミネラルブーム、世界的な地政学的背景の変化、バリューチェーンの混乱と開放が起きている」と指摘する。

グリーンエネルギーへの世界的な移行により、EV需要は飛躍的に高まっている。米ブルームバーグNEF(ニューエナジーファイナンス)はベースケースシナリオでもEV販売の累積額が2030年までに8兆8000億ドル、50年までに57兆ドルに達する。ガソリン車やディーゼル車をもっと早く禁止すれば88兆ドル以上に跳ね上がる可能性がある。

「アフリカはこのチャンスを逃す手はない。鉱物・天然資源を活用し、製造業の新たな機会を創出する。再生可能エネルギー産業であるバッテリー、EVのバリューチェーンと市場を開発する」とガテテ氏は成長の青写真を描く。コンゴ民主共和国とザンビアはEV用バッテリーとクリーンエネルギーのバリューチェーン開発を促進する歴史的な協力協定に署名した。

エネルギー転換に必要な鉱物や金属がアフリカに40%以上

コバルトはEV用リチウムイオンバッテリーの主要原料だ。コンゴ民主共和国は世界の供給量の7割を占める。ザンビアもコバルト生産国で、世界第6位の銅生産国でもある。しかしコバルト採掘は環境と人権に重大な懸念をもたらす。採掘過程で有毒物質が放出され、水生生物に影響を与え、地域社会が使用する水を汚染する危険性がある。

集中的な採掘活動は土壌浸食、肥沃な土地の喪失、生態系の破壊につながる。採掘で森林が伐採され、生物多様性が失われる。鉱業活動から出る粉塵や排ガスは大気の質を低下させ、地域社会や労働者に健康リスクをもたらす恐れがある。コンゴ民主共和国のコバルト鉱山では子どもが働かされているとの報告がある。小規模な鉱山は基本的な安全衛生対策を欠く。

EV用バッテリーのコバルト需要の増大が環境破壊や人権侵害を引き起こさないよう、より厳格な規制と倫理的な調達慣行が必要だ。ガテテ氏は「政策立案者は現地調達政策、インセンティブ、バッテリーやEVのための重要なインフラ整備と経済特区の設立を加速させなければならない」と力を込めた。

AFCのサマイラ・ズバイルCEO(最高経営責任者)は「アフリカにはエネルギー転換に必要な鉱物や金属が世界全体の40%以上あり、持続可能な鉱物採掘のためにどのように協力できるかに焦点を当てるべきだ」と語る。バッテリーの前駆体が3億ドル以上の価値を生むという研究結果もある。

ゼロエミッション車移行ロードマップ

COP28に合わせ、ゼロエミッション車(ZEV)移行協議会の国際支援タスクフォースは30年までにすべての地域でZEVを最も安価で入手しやすい魅力的な選択肢とする「グローバル・ゼロエミッション車移行ロードマップ」を発表した。現在、世界の自動車市場は多層化し、多くの国がZEV化の流れから取り残されているのが現実だ。

道路交通からの温室効果ガス排出量は他のセクターよりも急速に増えており、全体の10%以上を占める。石炭火力発電に次ぐ第2の排出源だ。エネルギーセクターとの連携を強化しなければ排出ゼロへの移行を達成するのは困難だ。しかし、その一方で移行を加速させることができれば途上国には幅広い利益がもたらされるという。

ロードマップ通りに行けば、途上国はテールパイプから排出される粒子状物質と窒素酸化物を70%近く削減して大気の質を改善できる。二酸化炭素排出量も60%以上削減して、53億バレル以上の石油消費を節約できる。これは20年時点における新興国の石油総消費量の4分の1以上に相当する。ロードマップは次の5つの政策に重点を置く。

・政策行動を策定・実施するための新興・途上国全体の能力構築
・資金へのアクセス改善と拡大
・新興・途上国における ZEVへの利用可能性の向上
・充電インフラ展開の加速
・ZEV、EV、バッテリー部品のライフサイクルの管理

政策はスローダウンも、EV市場の成長は続く

COP28の「輸送の日」の6日、英国のマーク・ハーパー運輸相は「リシ・スナク政権はドライバーの味方であり、民間セクターと協力して充電ポイントインフラを提供し、より多くの急速充電ポイントへ道を開く。7000万ポンドの試験的スキームはその出発点で英国の交通の未来を発展させるために賢明かつ迅速に投資する」と発表した。

しかし英国政府はガソリン車、ディーゼル車の新車販売禁止を30年から5年間先送りし、ZEV化をスローダウンさせた。インフレと景気減速でこの半年、EV需要が失速していると騒がれた。政府や企業の意欲は確かに停滞している。ブルームバーグNEFの「ゼロエミッション車ファクトブックCOP28版」によると伸びは鈍化したが、EV化の流れは止まっていない。

ガソリン車とディーゼル車販売はすでにピークアウトし、EV販売台数は今年1420万台に増える。昨年比35%増だ。テスラの株価が伸び悩む米国だが、販売台数はさらに伸び、今年50%増加する見通しだ。テスラ、中国のBYD(比亜迪)、Li Auto(理想汽車)のようなEVメーカーが世界の自動車市場に占めるシェアは20年のわずか1%から今年7%近くに拡大した。

米国のインフレ抑制法(IRA)もEVサプライチェーンへの投資を急増させた。リチウムイオン電池生産能力は昨年以降、1.7テラワット時から2.2テラワット時に増えた。自動車メーカーは30年までに年間約4700万台のEVを販売する目標を掲げる。新興国のインド、タイ、インドネシアで1万ドル台の低価格モデルが投入されれば成長は一段と加速するという。



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