<日本で開催された韓国の音楽授賞式「MAMA」に見る、Kポップの世界戦略と最高のコラボステージ。本誌「K-POP 未来を語れ」特集より>
11月末、韓国最大級のKポップ授賞式「2023 MAMA AWARDS」が東京ドームで2日間開催された。BTSやBLACKPINK(ブラックピンク)など「真打」が不参加でも、1日で2万2000円もする計8万人分のチケットは完売。世界200余りの地域に生中継された。
■【動画】「宇宙一素晴らしい」の声...韓国人が愛する「ENDLESS RAIN」でYOSHIKIとK-POPスターたちがコラボ
関心のない方には理解不能かもしれないが、日本のKポップファンからすればグラミー賞の日本開催のようなありがたいことで、世界のファンからすれば羨ましいことだ。12月にも、韓国で恒例の年末音楽祭「KBS歌謡祭」が「MUSIC BANK GLOBAL FESTIVAL 2023」と題してベルーナドーム(埼玉県)で開催された。
日本の年末の風物詩である歌番組でもKポップの勢いは止まらない。紅白には6組のKポップ系が出場し、日本レコード大賞でもENHYPEN(エンハイプン)が特別国際音楽賞、NewJeans(ニュージーンズ)が優秀作品賞と特別賞を受賞。「韓国だらけ」と一部で批判される半面、人気と実力から「当然」「仕方ない」との見方も。ファンは歓迎しつつ、推しのアイドルの多忙なスケジュールを案じたり、変にバッシングされないかと心配している。
なぜ、このような事態になったのか。ある政治家は娘がKポップにハマって「困っている」と漏らしたが、「家庭円満」のためにもその背景と意味について考えてみよう。
日本開催には当然、収益という側面がある。KBS歌謡祭も指定席が2万2000円だが、韓国開催の音楽祭は抽選での無料招待や、有料でも約1000~4000円が相場。特にKBSは公共放送なので批判され(NHK紅白歌合戦を韓国で開催するようなものだ)、視聴者掲示板には「日本開催反対請願」まで登場した。Kポップのグローバル化に伴う商業化と、国内ファン軽視への不満が爆発した形だ。
ただKBS側にも事情はある。尹錫悦政権が電気料金に含まれていた受信料を分離し、別途徴収する方針を固めたことで今後収入が6分の1に減ると見込まれるなか、改革に乗り出したのだ。
次にKポップの革新性とグローバル戦略がある。Kポップの成功は、脆弱な国内市場や旧態依然の音楽業界に抵抗する形で「挑戦と革新」を繰り返した結果だ。MAMAは09年に韓国初のアジア音楽授賞式の開催を宣言した。Kポップが世界を席巻するにつれ22年には「MAMA AWARDS」にリブランドし、アジアを超えてグローバル化を標榜。北米での開催も視野に入れた。
ハン・ユジン、アントン、ジェヒョン、YOSHIKI、テヒョン(写真)、ヒュニンカイが「ENDLESS RAIN」を披露 ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED
19年、22年に続く日本での開催は、グローバル戦略における日本重視の表れともいえる。世界2位の音楽市場を誇る日本は、Kポップの最大輸出国。お得意さんを大切にするのは商売の基本だが、日本での成功が世界での成功につながるとの認識もある。日本は文化や技術で先に世界の扉をたたいた先輩で、高い水準で協働できるアジア唯一のパートナーだ。
世代を超え音楽で一つに
日本側の思惑もあるだろう。昨今のブームを「Kポップの侵略」と捉える向きもあるが、グローバル文化となったKポップとのコラボは、Jポップの宣伝とビジネスチャンスになる。また、ジャニーズの凋落に象徴される「革新と挑戦」が必要な時期に、Kポップは変革を促す「最強助っ人」になるかもしれない。
とはいえグローバル戦略とビジネスマインドだけで成功できるわけではない。ここでKポップ人気のそもそもの理由と魅力について、MAMAを例に触れよう。まずは毎回それぞれ独創的なコンセプトを提示していること。次に、Kポップの代名詞ともなった「主体的なファンダム」と「善良な影響力」という価値観だ。
世界中のファンが投票する「Worldwide Fansʼ Choice」部門では、結果に応じてアーティストとファンダムの名で、ユネスコ(国連教育科学文化機関)とCJ社が取り組む途上国の少女たちの教育環境改善キャンペーンに寄付がなされる。今年はBTS、Stray Kids(ストレイキッズ)やKトロット(演歌)の英雄イム・ヨンウンなどが受賞した。
そして何より重要なのは音楽だ。今回のハイライトはFavorite International Artistを受賞したYOSHIKIとKポップアイドルのコラボによる「ENDLESS RAIN」だった。YOSHIKIの優麗なピアノの旋律に合わせてTOMORROW X TOGETHER(トゥモロー・バイ・トゥギャザー)のテヒョンとヒュニンカイが全身全霊を込めて見事に歌い上げる。「続けて」が「ちゅじゅけて」に聞こえる韓国なまりがまたいい。
ヒュニンカイ ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED
これで終わらないのがKポップ。なんと、ロックバラードの神曲にBOYNEXTDOOR(ボーイネクストドア)のジェヒョンが韓国語でラップを仕掛ける。「やるなあ」と思った矢先に、RIIZE(ライズ)のアントンがチェロで美しすぎる旋律を奏で、最後にはZEROBASEONE(ゼロベースワン)のハン・ユジンが羽生結弦を彷彿とさせる華麗な舞を披露する。
極め付きは、全出演者と観客との合唱......まさに、国境、人種、世代を越え音楽で一つになる「Music MaKes ONE」というMAMAの理念を体現した最高の舞台だった。
YOSHIKI ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED
ジェヒョン ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED
アントン ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED
「宇宙一素晴らしいコラボレーション」という声は決して誇張ではない。真のコラボはただのカラオケと違って、「挑戦と革新」を通じて音楽に新たな生命を吹き込む。
ハン・ユジンが舞った ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED
かつて韓国で「Jポップ伝道師」の役を務めた筆者にとっても特別な意味があった。日本文化開放前の韓国でJポップを聞くことはいわば反民族行為とみなされたが、一部の若者は「隠れキリシタン」のようにひそかに熱心に聴いていた。そこに圧倒的ビジュアルのX JAPANが登場し、韓国人が大好きなロックバラードで若者の心をわしづかみにしカリスマ的存在になった。
その代表曲が「ENDLESS RAIN」だったのだ。「本物」の前にナショナルな壁は意味を成さない。X JAPANによって日本文化に対する認識も変化し、その後の「日流」現象の契機の1つとなったと筆者は考える。
その意味で、今回のコラボは日韓関係史上に残る「日韓和解のドラマ」だった。Kポップがグローバルに展開する理由は、惜しげもなくYouTubeでハイライトを配信すること。となれば、この歴史に残る名シーンを見逃す手はない。
以上、少しは娘さんとの理解につながっただろうか。いずれにせよ、「韓国だらけ」と感じる人にとっては辛い年末になることだろう。でも大丈夫、テレビ東京の『年忘れにっぽんの歌』がある! あ、すみません、そこにはKポップは出なくても「在日コリアン」がいるかも......。
権容奭(クォン・ヨンソク、一橋大学大学院准教授)
11月末、韓国最大級のKポップ授賞式「2023 MAMA AWARDS」が東京ドームで2日間開催された。BTSやBLACKPINK(ブラックピンク)など「真打」が不参加でも、1日で2万2000円もする計8万人分のチケットは完売。世界200余りの地域に生中継された。
■【動画】「宇宙一素晴らしい」の声...韓国人が愛する「ENDLESS RAIN」でYOSHIKIとK-POPスターたちがコラボ
関心のない方には理解不能かもしれないが、日本のKポップファンからすればグラミー賞の日本開催のようなありがたいことで、世界のファンからすれば羨ましいことだ。12月にも、韓国で恒例の年末音楽祭「KBS歌謡祭」が「MUSIC BANK GLOBAL FESTIVAL 2023」と題してベルーナドーム(埼玉県)で開催された。
日本の年末の風物詩である歌番組でもKポップの勢いは止まらない。紅白には6組のKポップ系が出場し、日本レコード大賞でもENHYPEN(エンハイプン)が特別国際音楽賞、NewJeans(ニュージーンズ)が優秀作品賞と特別賞を受賞。「韓国だらけ」と一部で批判される半面、人気と実力から「当然」「仕方ない」との見方も。ファンは歓迎しつつ、推しのアイドルの多忙なスケジュールを案じたり、変にバッシングされないかと心配している。
なぜ、このような事態になったのか。ある政治家は娘がKポップにハマって「困っている」と漏らしたが、「家庭円満」のためにもその背景と意味について考えてみよう。
日本開催には当然、収益という側面がある。KBS歌謡祭も指定席が2万2000円だが、韓国開催の音楽祭は抽選での無料招待や、有料でも約1000~4000円が相場。特にKBSは公共放送なので批判され(NHK紅白歌合戦を韓国で開催するようなものだ)、視聴者掲示板には「日本開催反対請願」まで登場した。Kポップのグローバル化に伴う商業化と、国内ファン軽視への不満が爆発した形だ。
ただKBS側にも事情はある。尹錫悦政権が電気料金に含まれていた受信料を分離し、別途徴収する方針を固めたことで今後収入が6分の1に減ると見込まれるなか、改革に乗り出したのだ。
次にKポップの革新性とグローバル戦略がある。Kポップの成功は、脆弱な国内市場や旧態依然の音楽業界に抵抗する形で「挑戦と革新」を繰り返した結果だ。MAMAは09年に韓国初のアジア音楽授賞式の開催を宣言した。Kポップが世界を席巻するにつれ22年には「MAMA AWARDS」にリブランドし、アジアを超えてグローバル化を標榜。北米での開催も視野に入れた。
ハン・ユジン、アントン、ジェヒョン、YOSHIKI、テヒョン(写真)、ヒュニンカイが「ENDLESS RAIN」を披露 ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED
19年、22年に続く日本での開催は、グローバル戦略における日本重視の表れともいえる。世界2位の音楽市場を誇る日本は、Kポップの最大輸出国。お得意さんを大切にするのは商売の基本だが、日本での成功が世界での成功につながるとの認識もある。日本は文化や技術で先に世界の扉をたたいた先輩で、高い水準で協働できるアジア唯一のパートナーだ。
世代を超え音楽で一つに
日本側の思惑もあるだろう。昨今のブームを「Kポップの侵略」と捉える向きもあるが、グローバル文化となったKポップとのコラボは、Jポップの宣伝とビジネスチャンスになる。また、ジャニーズの凋落に象徴される「革新と挑戦」が必要な時期に、Kポップは変革を促す「最強助っ人」になるかもしれない。
とはいえグローバル戦略とビジネスマインドだけで成功できるわけではない。ここでKポップ人気のそもそもの理由と魅力について、MAMAを例に触れよう。まずは毎回それぞれ独創的なコンセプトを提示していること。次に、Kポップの代名詞ともなった「主体的なファンダム」と「善良な影響力」という価値観だ。
世界中のファンが投票する「Worldwide Fansʼ Choice」部門では、結果に応じてアーティストとファンダムの名で、ユネスコ(国連教育科学文化機関)とCJ社が取り組む途上国の少女たちの教育環境改善キャンペーンに寄付がなされる。今年はBTS、Stray Kids(ストレイキッズ)やKトロット(演歌)の英雄イム・ヨンウンなどが受賞した。
そして何より重要なのは音楽だ。今回のハイライトはFavorite International Artistを受賞したYOSHIKIとKポップアイドルのコラボによる「ENDLESS RAIN」だった。YOSHIKIの優麗なピアノの旋律に合わせてTOMORROW X TOGETHER(トゥモロー・バイ・トゥギャザー)のテヒョンとヒュニンカイが全身全霊を込めて見事に歌い上げる。「続けて」が「ちゅじゅけて」に聞こえる韓国なまりがまたいい。
ヒュニンカイ ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED
これで終わらないのがKポップ。なんと、ロックバラードの神曲にBOYNEXTDOOR(ボーイネクストドア)のジェヒョンが韓国語でラップを仕掛ける。「やるなあ」と思った矢先に、RIIZE(ライズ)のアントンがチェロで美しすぎる旋律を奏で、最後にはZEROBASEONE(ゼロベースワン)のハン・ユジンが羽生結弦を彷彿とさせる華麗な舞を披露する。
極め付きは、全出演者と観客との合唱......まさに、国境、人種、世代を越え音楽で一つになる「Music MaKes ONE」というMAMAの理念を体現した最高の舞台だった。
YOSHIKI ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED
ジェヒョン ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED
アントン ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED
「宇宙一素晴らしいコラボレーション」という声は決して誇張ではない。真のコラボはただのカラオケと違って、「挑戦と革新」を通じて音楽に新たな生命を吹き込む。
ハン・ユジンが舞った ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED
かつて韓国で「Jポップ伝道師」の役を務めた筆者にとっても特別な意味があった。日本文化開放前の韓国でJポップを聞くことはいわば反民族行為とみなされたが、一部の若者は「隠れキリシタン」のようにひそかに熱心に聴いていた。そこに圧倒的ビジュアルのX JAPANが登場し、韓国人が大好きなロックバラードで若者の心をわしづかみにしカリスマ的存在になった。
その代表曲が「ENDLESS RAIN」だったのだ。「本物」の前にナショナルな壁は意味を成さない。X JAPANによって日本文化に対する認識も変化し、その後の「日流」現象の契機の1つとなったと筆者は考える。
その意味で、今回のコラボは日韓関係史上に残る「日韓和解のドラマ」だった。Kポップがグローバルに展開する理由は、惜しげもなくYouTubeでハイライトを配信すること。となれば、この歴史に残る名シーンを見逃す手はない。
以上、少しは娘さんとの理解につながっただろうか。いずれにせよ、「韓国だらけ」と感じる人にとっては辛い年末になることだろう。でも大丈夫、テレビ東京の『年忘れにっぽんの歌』がある! あ、すみません、そこにはKポップは出なくても「在日コリアン」がいるかも......。
権容奭(クォン・ヨンソク、一橋大学大学院准教授)