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大規模工事不要、低コストで「脱炭素ビル」を実現...変わりゆく京都市が既存建築物のZEB化普及を後押し

ニューズウィーク日本版 2023年12月14日 10時45分

<2050年までのカーボンニュートラル達成に向け、公民連携による取り組みが活性化している。京都市はパナソニックと連携し、既存建築物の外皮改修を行わずにZEB化を実現するモデル事例を増やす意向だ>

古い町家などの街並みを守るため、2007年から全国でも厳しい景観条例が導入されてきた京都市。建物の高さを制限することで景観は守られたが、一方でオフィスや住宅を求めて企業や若い世代が市外に流出する課題が生まれた。

そこで、2023年の春から高さ制限を一部地域で緩和。地域の特性を残しながら、企業誘致や子育て世代の定住を促進していく。

社会の変遷とともに変わる京都の街並み。近年では、深刻化する気候変動問題を受け、環境保護を目指した建物の普及拡大にも注力している。

1970年代に起こった2度のオイルショックを契機に、限りあるエネルギー資源を効率よく使う「省エネ」が切実に求められてきた。しかし、人が活動する以上、エネルギー消費量を完全にゼロにすることはできない。

そこで、エネルギー消費量削減に加えて太陽光発電などの「創エネ」により使う分のエネルギーをまかない、エネルギー消費量を実質ゼロにする。この考え方を「ネットゼロ」と呼び、ネットゼロ達成を目指した建物をNet Zero Energy Building、通称「ZEB(ゼブ)」という。

新築の建物をZEB化する事例は増えつつあるが、既存建築物のZEB化改修は先行事例があまりない。なぜなら、すでにそこで働く人や生活する人、利用する人がいるため長期の改修工事が困難であり、コスト面や既設の設備システムを大きく変えることに難色を示す不動産オーナーが少なくないからだ。

だが、既存建築物のZEB化には当然ながらメリットもある。外皮性能の向上や高効率設備の導入などにより運用時のエネルギーコストを削減し、将来的なコスト低減が期待できる。

また、室内環境の改善により、従業員や利用者の健康・快適性(ウェルネス)を向上。さらに、世界的に脱炭素に向けた動きが加速する今、地球環境に配慮した建物は不動産価値の向上にもつながるだろう。

外皮改修を行わずにZEB化を達成

ZEBにはゼロエネルギーの達成状況に応じて4段階の定義があるが、民間企業では既存建築物を改修し「ZEB Ready」(省エネで使うエネルギーを50%以下まで削減)の水準を達成しているケースも存在する。京都市は民間企業の持つ技術を活用し、コストを極力抑えた既存建築物ZEB化の普及拡大、認知度向上を目指している。

そんな京都市が手を組んだのが、日本を代表する電機メーカーのパナソニックだった。2023年11月上旬、京都市とパナソニック エレクトリックワークス社との公民連携が発表された。

「省エネはこれまでにも公民連携で取り組んできたが、ZEBというキーワードを出すのは初めてのこと」と、京都市環境政策局地球温暖化対策室エネルギー事業推進課長、土井知信氏は意欲を見せる。両者は互いのリソースを持ち寄り、既存建築物の外皮改修を行わずに低コストでZEB化改修を実現するモデル事例を生み出していく。

京都市環境政策局地球温暖化対策室エネルギー事業推進課長の土井知信氏 Photo: Rie Sakai

パナソニックが連携パートナーになったのは、2023年3月、自社ビルであるパナソニック京都ビルをZEB化改修(ZEB Ready)した功績が大きい。

同ビルではLED照明のダウンサイジング、センサーによる自動制御、高COP(エネルギー消費効率)対応タイプの室外ユニット設置、AIによる空調制御など、既存の設備を省エネ性能に優れた設備にリニューアル。外皮改修などの大がかりな工事を行わず、低コストでエネルギー消費量を大きく減らすことに成功した。

パナソニック京都ビル Photo: Rie Sakai

パナソニックYouTubeより

また、屋上や駐車場にソーラーパネルを設置するなど、エネルギー供給ができる施設として対策し、レジリエンスも兼ね備えたZEB化を実現。駐車場に設置された急速充電ステーションは、普段はEV車の充電に、停電時には非常用電源システムとして活用できる。太陽光発電システムを併設することで、災害時にも長時間の安定した電力供給を可能にする。

V2Xシステムの急速充電ステーション。貯める・使うと相互に電力を供給できる仕組みをV2Xと呼ぶ Photo: Rie Sakai

京都市から全国に拡大する脱炭素

建築主や不動産オーナーに対し業務支援(建築・設備の設計・施工・コンサル等)を行うZEBプランナーという資格があるが、パナソニックは2019年に資格を取得。後発ながら、省エネ設備から太陽光発電、蓄電池までを手掛ける大手電機メーカーならではの強みを発揮している。

京都市内では今後、外皮改修を行わずにZEB化を達成できる見込みが高い建築物を整理した後、現地調査・図面を用いた調査により、詳細な改修手法を検討する。2024年3月には補助金の活用や建築物の所有者への提案など具体的な動きを予定しているという。

「ZEBプランナーとして、京都市で10件、全国で280件のZEB化達成を目指す。220憶円規模の需要を創造することはもちろん、脱炭素を日本全国で進めることは、パナソニックという枠を超えて非常に意義があると感じている」と、パナソニック エレクトリックワークス社の近畿電材営業部京都電材営業所所長、橋本文隆氏は展望を語る。

パナソニック エレクトリックワークス社の近畿電材営業部京都電材営業所所長、橋本文隆氏 Photo: Rie Sakai

長らく守られてきた景観条例により、大規模な建築物が少ない京都市。この古都で成功例を積み重ねることで得られる知見や技術は、今後、他の地域にも生かされる予定だ。

自治体と民間企業との協業は地域経済の活性化や行政課題解決に貢献するだけでなく、国全体のカーボンニュートラル達成の一助となることが期待されている。

■既存建築物ZEB化の利点

既存建築物ZEB化の利点 パナソニックYouTube



酒井理恵

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