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「黒人を差別する白人」の動画を拡散されて、すべてを失った...あの「セントラルパークのカレン」の今

ニューズウィーク日本版 2023年12月14日 15時20分

<2分の映像が世界に拡散されて炎上し、勤務先も解雇された白人女性が真実を語る>

「リストカットしろ」。見知らぬ人がメールで言ってきた。

「おまえなんか刑務所でレイプされちまえ」。名も名乗らず、電話でそう言う人がいた。

私の名前はエイミー・クーパー。でも、みんなが知っている私は「セントラルパークのカレン」。私の本名は知らなくても、前後の大事な脈絡なしに世界中で流されたわずか2分の映像で、たいていの人が私と私の話を知ったつもりになっている。

みんなが信じて拡散した話はこう。白人の「セントラルパークのカレン」が無実のバードウオッチャーである黒人男性を、肌の色だけを理由に警察に通報した(英語圏では傲慢で人種差別的な白人女性を「カレン」と総称する)。

でも、本当の話はこうだ。

2020年5月25日、私は犬を連れてセントラルパークへ散歩に行った。ちょうど犬にリードを付けなくていい時間帯だった。帰りは、めったに人のいない森を通ることにした。すると突然、「ここから出ていけ」という声がした。「その犬をリードにつなげ!」。男は何度もそう叫んだ。

男の名はクリスチャン・クーパー。黒人だ。「おまえが好きなようにするなら、こっちも好きなようにする。あとで困ったことになるぞ」。そう言って彼はスマホを取り出し、私を撮り始めた。

怖かった。私は女で、周囲には誰もいない。10代の頃に性的暴行を受けたことのある私は、パニックに陥った。

しかも彼はドッグフードを持っていて、それで私の犬を誘い込もうとした。嫌な予感がした。そうやって毒を盛られた犬の話を、前にニュースで見ていたから。

そこで私は、警察を呼ぶと言ってやった。でも彼は平気で、呼べるものなら呼んでみろと挑発した。

仕方ないから警察に電話して、事情を伝えた。人種のことは何も言わなかった。

排斥されるのを恐れる

その日のうちに、彼は私を撮った動画をフェイスブックにアップして、リードを付けていない犬を誘い込むためにいつも餌を持ち歩いていると自慢げに書き込んだ。

ならば、被害に遭ったのは私だけじゃないはずだ。

実際、ジェローム・ロケットという男性が、セントラルパークで犬を散歩させていた時、同じように彼に脅されたと証言してくれた。

ジェロームによれば、ほかにも2人が被害を受けているが、白人だから名前は出せないという(名乗り出れば私と同じ運命だ)。この話、どのメディアも報じていない。

事件の翌日、私は勤め先を解雇された。弁明の機会はなし。一刻も早く縁を切りたいようで、私を非難する声明まで出した。あれで、私のキャリアは終わったに等しい。あれから3年以上たつが、今もまともな仕事に就けない。

あの日の私の言動は過剰だったの? 私にも差別感情があったの? 分からないが、みんなはそう信じた。黒人男性ジョージ・フロイドが白人警官に殺されたのと同じ日だったから、なおさらだ。

それにしても、なぜ誰も真実を伝えてくれないのか。真実を語れば私みたいに世間から消されてしまうから? そうかもしれない。私自身、ずっと誰にも言えなかった。

でも、今こそ言わせてもらう。この世に「カレン」なんていない。みんな、普通の人。真実が伝えられなければ、誰もが傷つく。

世界に拡散された「セントラルパークのカレン」

Amy Cooper apologizes after Central Park confrontation/Los Angeles Times

  

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